2006年6月12日(月)「しんぶん赤旗」

イラン核問題 米が方針転換

孤立避ける狙い

条件付で交渉参加


 ライス米国務長官は五月三十一日、イラン核問題で同国と直接交渉しないとの従来の方針を一部転換し、「ウラン濃縮や再処理を全面中止すれば」の条件付で対イラン交渉に参加すると表明しました。これを受けて米英仏独中ロ六カ国が提示した包括的な打開案に対し、イラン側は前向きに応じる姿勢をみせています。米側の一定の転換は、これまでの強硬策による米の孤立化を避けたい狙いがあると指摘されています。

 イランは核不拡散条約(NPT)に加盟しています。NPTは「非核兵器国」に対し、核兵器保有を禁止する一方で、原子力を平和利用する権利を認めています。イランは核兵器開発の意図を否定しています。

すべて選択肢

 しかし核兵器開発につながりうるウラン濃縮やプルトニウム抽出などを国際原子力機関(IAEA)に申告しなかったことが保障措置協定違反とみなされ、国際社会の疑念を呼んでいます。イランも参加する非同盟運動は五月末の閣僚会議で、「核査察で唯一の法的権限をもつIAEAに全面協力する」ようイランに促しました。

 この問題を平和的・政治的に解決する上で大きな障害となっているのが、米国の対イラン強硬策です。米政権は、当面は外交を優先するとしつつ、「すべての選択肢が検討対象だ」と繰り返し述べ、イラン現政権打倒の武力行使の可能性を排除していません。ブッシュ大統領は、「すべての選択肢」に「核攻撃の可能性が含まれる」ことも否定しませんでした(四月十八日の記者会見)。

 ホワイトハウスが三月十六日に発表した「国家安全保障戦略」は、「一国家からの挑戦としてイラン以上に大きなものはないかもしれない」と述べ、イランを最大の脅威とみなす立場を公式に表明しています。

 米国は、こうした独自の「イラン脅威」論に立ち、イラン制裁を国連安保理に承認させようとしてきました。しかしロシアや中国を含む圧倒的多数の国は同調していません。ライス長官は四月四日、米国流の「解決」策が行き詰まっているとブッシュ氏に直言。政策見直しが始まり、今回の方針転換に至りました。

兵の配置増強

 イラン側がこれまで英独仏中心の交渉に消極的態度をとってきた理由の一つに、米国がイラン周辺での兵力配置を増強しているため、イランの安全が米国によって脅かされているとの懸念があると指摘されています。

 世界の有識者からなる「大量破壊兵器委員会」のブリクス委員長は、同委報告を発表した一日の記者会見で、「イランの安全が外部から脅かされているとイラン側が感じている」ことを「解決策の探求では考慮すべきだ」と述べました。

 今回イラン側に示された包括案に関しロイター通信は七日、イランの「領土保全」を保証する記述が草案にはあったが、最終案からは削除され、非公式な地域安全保障対話の設置を呼びかける内容が含まれていると報じました。ライス長官も五月末の会見で、「どんな選択肢も排除しない」、イランへの「安全の保証」もしないと述べています。

 中東と国際法に詳しいフィリス・ベニス米政策研究所研究員は、米の方針転換が「イラン問題での米の国際的孤立を反映している」と指摘。米国は、国際法違反のイラン軍事攻撃策を放棄し、前提条件なしで同国との交渉に望むべきだと主張しています。

(坂口明)


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