2006年6月10日(土)「しんぶん赤旗」

米戦略に呼応 自衛隊の性格一変

名実ともに海外派兵型

防衛「省」関連法案


 政府が九日に国会に提出した自衛隊法などの改悪案は、これまで拡大を続けてきた海外派兵を自衛隊の「本来任務」に位置付けるとともに、防衛庁を「防衛省」に昇格させる内容になっています。その狙いとは―。


■派兵を「任務」に

 政府はこれまで、PKO(国連平和維持活動)やテロ特措法に基づくインド洋派兵、イラク特措法に基づくイラク派兵と次々に海外派兵を拡大してきました。米軍がアジア太平洋地域で軍事介入した際に、自衛隊が軍事支援を行う周辺事態法も制定してきました。

 しかしいずれも、自衛隊法上の位置付けは「自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度において、…実施することができる」という付随的なものでした。「日本を守る」ことを建前にしてきた自衛隊が、海外派兵を「自衛隊の任務」に位置付けることはできなかったのです。

 このため海外派兵のための独自の予算や専門組織をつくることはできませんでした。ところが、米国の要求にこれ以上応えようとすれば、この“制約”は限界です。

 このため今回の改悪案では、テロ特措法やイラク特措法を含めすべての海外派兵を自衛隊の「本来任務」に規定。これにより、海外派兵のための独自の予算や態勢づくりを可能にしようというのです。「日本を守る」=「専守防衛」の軍隊から海外派兵型軍隊へ、自衛隊のあり方を法制上も大転換するものです。

■独自権限を拡大

 防衛庁を「省」に昇格させる法案は一九六四年に一度、閣議決定されたことがあります。しかしこの時は、会期に余裕がなく国会提出を断念しました。二〇〇一年に旧保守党が議員立法で提出したものの、〇三年の衆院解散で廃案になっています。政府による国会提出は今回が初めてです。

 なぜ政府・防衛庁は今、「省」昇格に全力をあげるのでしょうか。

 今回の「省」昇格が、海外派兵を拡大・強化する一環だからです。防衛庁はみずから、「省」昇格の目的を「国際社会の平和と安定に主体的・積極的に取り組むための体制を整備すること」と説明しています。

 防衛庁は、これまで内閣府の外局とされてきました。このため、内閣府を通じなければ、法律の制定や幹部人事などで閣議を求めたり、予算を直接財務省に求めることができませんでした。「省」になれば、こうした権限を独自に持つことになります。

 日米物品役務提供協定(ACSA)や周辺事態法、テロ特措法、イラク特措法に基づく海外での米軍支援も、内閣府を通じることなく独自に実施できるようになります。

■米軍再編で加速

 海外派兵の本来任務化、防衛庁の「省」昇格への動きを加速させたのは、日米軍事同盟を地球規模に拡大させる在日米軍再編です。

 在日米軍再編についての日米合意(昨年十月)は、海外での日米軍事協力を「同盟の重要な要素になった」と強調しています。

 海外での共同作戦を想定して日米の軍事一体化を打ちだし、協力を強化する分野として、補給・整備・輸送などの米軍支援も列挙。日本に対し、そのための「実効的な態勢を確立するための必要な措置」まで求めています。

 今回の改悪案は、米国の先制攻撃戦略に基づく海外派兵拡大の要求に迅速に応える「実効的な態勢を確立する」ものなのです。

 政府が、海外派兵を自衛隊の「本来任務」に位置付けた先に狙うのは、「恒久法」です。米国の要求があるたび、イラク特措法などの時限立法をつくるのではなく、要求があれば、いつでもどこでも海外派兵を可能にするための法律です。政府はすでに検討作業を進めています。

■改憲策動後押し

 政府・与党がこれまで、海外派兵を自衛隊の「本来任務」にできなかったのも、防衛庁が「省」でなく、首相が担当する内閣府の外局とされてきたのも、憲法の平和原則があるからです。

 岸信介首相(当時)は「戦後の新憲法のもとにおける防衛というものは、旧憲法のときの軍部、陸海軍とかその他のような立場を絶対にとらしてはならない。国防省という考え方が(権力肥大化の)懸念を伴うおそれもありますから、軽々に決めるべき問題ではない」(六〇年五月十六日、衆院内閣委)と述べていました。

 中曽根康弘首相(当時)も「憲法そのほかの関係から見て、総理大臣の直属の庁にしておいた方が適切だ」(八六年十二月九日の参院内閣委)と述べていました。

 今回の改悪はこうした政府の言明をも覆すものです。また、自民党・民主党が競い合う改憲による「海外で戦争ができる国」づくりを後押しするものでもあります。

 かつて、中央省庁再編の中で、防衛庁の「省」昇格も議論した行革会議(会長・橋本龍太郎首相=当時)では「省とすると国内外で摩擦」「アジア諸国の感情的反発を招き、外交上賢明でない」(九七年九月の中間報告)との意見もあがり、結局、見送られました。

 政府・与党があくまで「省」への昇格を強行すれば、近隣アジア諸国からの批判は避けられません。

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