2006年6月3日(土)「しんぶん赤旗」
焦点論点
検察 取り調べ可視化
公正な判断下すために
二〇〇九年から施行され、国民が刑事裁判に参加する「裁判員制度」に関し、一部の取り調べにビデオ録画やテープ録音を利用する可視化が実現に向けて動き始めています。これまで頑強に拒否してきた検察庁が取り調べの一部可視化導入に前向きの姿勢を示したからですが、不十分さは免れないのが実情です。
「裁判員制度」では審理にあたる裁判員に対し、被告人や証人の証言を分かりやすい内容にする必要があります。現行の刑事裁判のように、捜査官の作成する膨大な供述調書を読み込んで判断するのはかなり難しいからです。
弁護士も接見制約
現在の裁判制度では、刑事裁判の多くが被疑者を逮捕してから後の警察官、検察官による「密室」での取り調べによる供述調書によって、裁判官が有罪判決を下しがちです。
警察が被疑者を検察庁に送る期間は四十八時間以内です。検察庁が被疑者を釈放しない場合、裁判所に勾留請求する期間は二十四時間。裁判所が勾留を決定すれば通常十日間、延長が決まればさらに十日間。総計二十三日間にわたって、警察の留置場(代用監獄)を使った「密室」での取り調べが可能です。
取り調べ中は、弁護士も接見が事実上制約されます。この間に被疑者を長時間にわたって取り調べ、睡眠不足、外界との遮断による不安、ストレスなど心身とも疲れ果てた状態に追い込んだ上で、「自白すれば出してやる」「無実なら裁判所で訴えればよい」式の自白強要と懐柔が行われてきました。
心理的に追い込まれた被疑者が苦痛から逃れるために、やってもいない犯罪を認めてしまうこともあります。これらが冤罪(えんざい)を生み出す要因になっています。
裁判官は法廷での被疑者の陳述より、自白した調書の方に重きを置きがちです。「やりもしていない犯罪を認めるわけがない」という先入観にとらわれるからです。「調書裁判」と呼ばれるゆえんです。
このため、被疑者が罪を認めない事件の場合、調書にもとづく事実認定に相当の時間を要してしまい、裁判が長引く要因にもなっています。
欧米のように導入
日本弁護士連合会(日弁連)や自由法曹団、青年法律家協会(青法協)が、欧米のように取り調べの際にビデオ録画やテープ録音を活用した「取り調べの可視化」導入を強く求めてきたのは、こうした理由からです。
〇三―〇四年当時、司法制度改革推進本部の「裁判員制度・刑事検討会」では、日弁連所属の検討委員らが可視化の導入を主張したのに対し、最高検所属の検討委員らは「被疑者がしゃべらなくなる」と頑強に反対していました。
ところが、裁判員に分かりやすく、迅速な裁判を実現するためには、現行の刑事裁判では対応できないことが明らかになるにつれ、検察庁もこのほど検察段階での取り調べに一部可視化の導入を明らかにしました。
しかし、取り調べの過程のうち、どの部分を可視化するのかは検察官の裁量に任されている上、警察での取り調べについては対象外になっており、可視化されても極めて不十分な内容です。日弁連は「一歩前進ではあるが、全過程の可視化が不可欠であり、検察側に都合のよい一部分だけを可視化しても意味がない」と批判的です。
試験的に実施提案
日弁連では可視化問題のワーキンググループを設置し、台湾、韓国、イタリア、オーストラリア、アメリカなどで可視化の実情を視察。その結果、「被疑者に抵抗があっても五分もすれば意識しなくなり、メリットの方が大きい。世界的にも可視化の導入で問題が起きている例はない」との見解を示しています。
日弁連は可視化を試験的に実施することを提案しています。その内容は一定の検証がしやすい地方都市で実施し、対象は可視化の必要性の高い少年事件や障害者、通訳を要する外国人などとしています。また、被疑者が録画・録音を拒否した場合は、その旨を録画・録音し、その後は実施しないこととするとしています。
日弁連可視化実現本部では「裁判員制度を成功させていくためにも、まず、日弁連が求めているような形で試験実施することが大事ではないか」と強調しています。(社会部 米田憲司)

