2006年5月24日(水)「しんぶん赤旗」

命にまで格差

7月診療報酬改定 医療改悪法案先取り

療養病床が激減

“介護・医療難民”大量に


 病院に長期入院する患者向けの療養病床が七月以降激減し、「介護・医療難民」が大量発生しかねない事態が危ぐされています。療養病床の入院医療費として医療機関に保険から支払われる診療報酬が大幅に削減されるためです。国会で審議中の医療改悪法案では、医療保険をつかう療養病床(二十五万床)と、介護保険の療養病床(十三万床)合わせて三十八万床ある同病床を削減・廃止し、医療保険適用の十五万床のみにする計画です。診療報酬の改定はこれを先取りする形で厚生労働省が打ち出したもの。病院経営の面から療養病床を減らすねらいです。(内藤真己子)


 「入院患者を『医療の必要性』の名で選別し、その大半を有無を言わせず療養病床から追い出そうとする改定ですね」。医療型と介護型で計百二十床の療養病床を有する、みさと協立病院(埼玉県三郷市)の生田利夫副院長は指摘します。

 七月の診療報酬改定では、療養病床について、入院医療費にあたる「入院基本料」を、医療の必要性による「医療区分」と生活の自立度の組み合わせで五段階に分けます。「医療の必要性が低い」とされる「医療区分1」は入院基本料が六―八割に減らされます。

経営できない

 また、重度の障害者を七割以上入院させている病棟の患者への加算(特殊疾患入院施設管理加算)も廃止されます。加算をとっている病院の場合「医療区分1」の患者の入院にかかわる診療報酬は、いまの五―六割に激減します。

 「医療区分1」の患者は、厚労省の調査によると医療型療養病床の50・2%に上っています。みさと協立病院の場合は65%を占めています。「医療区分による診療報酬の大幅削減のうえ加算廃止の影響もあって、現状のままでは年間一億円の赤字が見込まれる」と同病院の乾招雄事務長。「大半の療養病床で経営が成り立たなくなるのではないか」といいます。

「在宅」へ誘導

 療養病床として存続したければ、医療機関は「医療区分1」の患者を、介護施設や有料老人ホーム、在宅などに転出させるしかない―診療報酬改定で厚生労働省が誘導しようとしているのはこんな方向です。しかしそんなやり方が可能なのでしょうか。

 たとえば、脳こうそくの後遺症で食べ物を飲み込む機能が失われ、胃に開けた穴(胃ろう)から流動食を摂取している患者はどうか。胃ろうの患者は、同病院の医療型療養病床の患者九十七人のうち十五人に上り、かなりの割合です。

 そもそも介護施設に転出させようとしても、特別養護老人ホームの入所待機者は全国で約三十八万五千人もいます。そのうえ「看護の体制が薄いので、胃ろうの方は短期入所に限っている」(千葉県の老人保健施設関係者)など、看護師の配置基準が低い特養や老健施設は、医療的ケアが必要な胃ろうなどの患者の入所を受け入れなかったり、制限しているところが多いのが実情です。

特養は数年待ち 在宅で誰が…

介護型全廃も

 では在宅はどうでしょうか―。「たしかに胃ろうで在宅療養している方もいますが、家族に相当な介護力があり、場所もあるという場合に限られます」と生田副院長は言います。

 医療改悪法案には、医療型療養病床の削減だけでなく、六年後までに介護型療養病床を全廃する内容も盛り込まれています。

 みさと協立病院の介護型療養病床に、脳こうそくの後遺症で胃ろうをした母親(92)が入所している松田和子さん(59)=仮名=は一人暮らし。「私自身、更年期障害で体がつらいのに家で母を介護することはできません。特養ホームは申し込んでから数年たつけど、まだ何も言ってこない。父の遺族年金と貯金を取り崩しての暮らし。月十数万円もする有料老人ホームには手が届かない」

 やはり脳こうそくで体が不自由になった夫(70)が入所している佐々木陽子さん(53)=仮名=にはまだ十代の子が。「夫が家に帰るとなると介護保険のサービスだけでは足りず、私が勤めを辞めなければなりません。子どもの学費もあり、それでは生活がまったく立ち行かない」と訴えます。

 同病院の乾事務長はこう言います。「療養病床の削減・廃止は『社会的入院の廃止』を口実に、企業の保険料負担をできるだけ減らしたいという財界の要求をストレートに反映したもの。政府は、『介護・医療難民』を大量に生み出す診療報酬の七月改定をやめ、医療改悪法案を撤回すべきです」


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