2006年5月11日(木)「しんぶん赤旗」
いま地方で
顔見えぬ 給食 に不安
8千食分 巨大センターで
大分市の小中学校
市内の小学・中学校十七校、八千食分の給食を民間委託の巨大給食センターで対応しようという大分市の計画に、父母や学校関係者から不安と撤回を求める声が上がっています。(大分・大星史路)
市は財政効率優先
市の計画は、老朽化した上野共同調理場(中学校六校分)の新築移転に伴い、佐賀関共同調理場(小学校四校、中学校二校分)と、自校方式で運営している中学校五校を新たな巨大給食センターに取り込むというものです。調理と配送は民間委託されます。
巨大給食センター建設の理由について、市教委は「行政改革のため、財政効率を考えた」と説明します。
計画の総事業費は、約十九億五千万円。センター用地取得、基本設計、実施設計のための予算は、すでに三月市議会で日本共産党以外の賛成で可決されています。しかし、学校給食の現場への説明はいまだにありません。
きめ細かい自校式
百三十年の歴史がある大分市立滝尾小学校。四人の調理員で八百七十人分の給食を作っています。
同校の主任学校栄養士の小沢清美さん(48)は、「地元の食材を使い、化学調味料を使わずに安全でおいしい給食を子どもたちに作っています」と胸を張って話します。
給食の時間が近づくと、給食当番の一年生が白いエプロン姿で担任に引率されて調理室の前に並びます。新一年生の給食は、他の学年より早いため、調理員もそれに合わせて早めに調理に取り掛かります。
記者が訪ねた日の献立は、マーボー豆腐。ジューッ、ジューッとミンチを炒めるおいしそうな音が廊下まで聞こえてきました。食欲をそそるにおい。子どもたちも自然と笑顔になりました。一年生の教室では、「お豆腐は苦手だけど、給食はおいしい」と女の子がいいます。
同校の給食では、いりこや昆布、かつお節など天然素材の調味料を使い、献立に切り干し大根やヒジキなどを入れて“おふくろの味”を子どもたちに提供しています。寒い日は、献立を温かいスープに変更するなど、工夫しています。職員の努力で残さいはあまり出ません。
細やかな心遣いも、公設直営による自校方式の給食ならではです。
小沢さんは、「食物アレルギーの子どもにも簡単な除去食や代替食などを出しています。大量の食材を見積もり入札するセンター給食で細かい対応ができるか心配です」と話します。
食育の信頼関係は
給食は学校教育の一環―“食育”です。
学校給食法は、食事について正しい理解と望ましい習慣を養うこと、健康の増進、食糧の生産配分・消費について正しい理解に導くことなどを目標に定めています。
「子どもとの信頼関係がなくては食育はできません。子どもたちの目の前で給食をつくることがとても大事です」―。大分市立大在西小学校の栄養職員の藤沢美津江さんは、センター給食では、食べる側と作る側のつながりが見えにくくなると心配します。
大在西小学校は食材に地元のものを使い、生産した農家の方の写真を撮り、「このミカンはこの方が作ってくれました」と子どもたちに紹介しています。
「どこの誰が作ったのかわからない物と、わかる物では、食べる子どもたちの思いも違う」と藤沢さんはいいます。
家庭科や総合学習などの授業に栄養士が出向き、“朝食がどうして大切なのか”など食育教育をします。「食べることを通じて、食物の生産、消費や身体、環境などいろんなことを学んでほしい」との思いからです。
給食の食べ残しは―。自校方式では、職員が食べ残しを見て、どうしたら子どもたちが食べられるようになるかを考える検討材料になります。でも、センターでは、「“ゴミ”にしかならないのでは」と藤沢さんは指摘します。
計画の撤回を要求
計画の白紙撤回を求めている新日本婦人の会大分支部の伊沢和子事務局長(46)は、「センター方式は教育としての学校給食になじまない。自校でするのが教育の本来の姿です。子どもの教育にはきちんとお金をかけてほしい」と話しています。
大分市の学校給食 現在の大分市の学校給食は、小学校61校のうち53校が自校方式で、昨年合併した旧佐賀関町と旧野津原町地域の8校がセンター方式。中学校27校のうち、9校が自校方式、18校がセンター方式です。給食センター(共同調理場)は5カ所。市の計画では、このうち17校の小中学校が新しい給食センターに組み込まれます。

