2006年4月27日(木)「しんぶん赤旗」

焦点 論点

原子力空母の「安全」

保証にならない米政府文書


 米政府は、外務省に「原子力軍艦の安全性にかんするファクトシート(概要書)」を提出しました(十七日)。横須賀市が、日本外務省にだしていた原子力空母の安全性についての質問書にたいする回答書です。

 文書は、「五十年以上にわたり一度たりとも…放射能の放出を経験することなく」「四重の防護壁」「防護壁は頑丈」などと「安全」を強調しています。しかし、核事故の事実をいっさい否認し、原子炉にかんするデータを隠すのでは「空約束」の作文でしかありません。

事故の全面否認

 米原子力軍艦が、一度たりとも放射能をだしたことがないというのは、事実に反します。

 米政府は、一九六四年に今回と同じような内容の、米原子力軍艦を「安全」だとするエードメモワール(覚書)を日本に提出し、国民が反対するなか原子力潜水艦の日本寄港を強行しました。しかし、四年後の六八年五月、原潜ソードフィッシュ号が佐世保寄港中に、モニタリングボートによる放射能測定で異常値が検出される重大事故が発生しました。

 原子力委員会の専門家検討会が現地調査や米国派遣専門家からの事情聴取を重ねた結果、「ソードフィッシュ号以外の放射線源については見当たらなかった」「ソードフィッシュ号から何らかの放射性物質の放出があったとの疑問を深めるに至った」と結論づけました。日本側の調査で、原潜の放射能漏れ事故が明確になったのです。

 ところが、米側は、「放射性物質はいっさい放出しなかった」と報告したものの、「この報告を裏付ける科学的説明および資料については軍機に触れるものとして提供されなかった」(専門家検討会報告)のです。このため、原子力委員会は政府にたいして、「疑を残したまま報告書が提出されるに至ったことははなはだ遺憾」という異例の見解を表明せざるをえませんでした。

 証拠を示されても、根拠も示さず「放出していない」をくりかえす。こんな米政府の言い分が信用できるはずがありません。

 エードメモワール以降、米原子力軍艦の核事故が表面化しました。原潜ウッドロー・ウィルソン炉心溶融寸前(七一年)、同ガードフィッシュ号一次冷却水漏れ(七三年)、空母ニミッツ一次冷却水漏れ(七九年)、空母エンタープライズ原子炉火災で放射性物質漏れ(九四年)、空母ジョン・C・ステニス原子炉冷却水取水口目詰まりで原子炉緊急停止(九九年)。隠せない事実です。

 今回の米政府文書はこうした核事故があったことすら否定し、「五十年以上放射能を出したことはない」といっているのです。米政府が、一九七九年のスリーマイル島原発事故のような原子炉溶解による放射能放出事故以外は核事故とみなしていないとしているのであれば、それこそ恐ろしい話です。

 原子力軍艦の「安全神話」は事実によって崩れています。陸では、原発の「安全神話」に固執してきた電力会社も、「機械は故障する場合もある」などというようになりました。軍艦だけは特別だというのは子どもだましの理屈です。「四重の防護壁」「民生用より頑丈」といってみても、核事故を起こさないという保証にはなりえないことは明白です。

日本政府の異常性

 麻生外相は、米政府文書を、原子力軍艦の「安全性」を「いっそう裏付けるもの」と称賛しました。原子力空母の配備は、原発を横須賀港に設置するのと同じであり、首都圏三千万人の命と健康にかかわる重大問題です。米政府いいなりの小泉政権では国民を核の危険から守れません。

 論説委員会 山崎静雄


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