2006年4月27日(木)「しんぶん赤旗」

なぜ起きた

耐震偽装

営利企業に任せていいか

住の安全


 国民の“住”への信頼を揺るがせた耐震強度偽装事件は二十六日、主役らがいっせいに逮捕される事態に発展しました。なぜ偽装がまかり通ったのか。建築士法違反の疑いで逮捕された元一級建築士の姉歯秀次容疑者による九十八件もの偽装物件は、日本の建築行政の破たんぶりを示しました。(本田祐典)


 今回の事件の背景として指摘されているのは、建設業界の過剰なコスト削減競争と、ずさんな建築確認・検査です。その元凶となったのが一九九八年の建築基準法改悪でした。自民党政府は、米国政府と業界団体の圧力を背景に、建築物の安全性を支える建築確認を、民間の営利企業でもできるようにしました。また、建築資材に対する規制を緩和。安い外国産建材を流入させ、コスト削減をあおりました。

 「鉄筋を減らせ」――。過剰なコスト削減競争の中で、建設会社は姉歯容疑者に迫りました。業界では、建材を切り詰めて耐震基準ぎりぎりに設計する「経済設計」という手法がもてはやされていました。

「姉歯」物件以外にも

 違法な構造計算書偽造も、姉歯容疑者だけではなく、業界全体にまん延していました。昨年十一月の偽装事件発覚後、建築専門雑誌『日経アーキテクチュア』(〇五年十二月二十六日号)のアンケートでは、建築関係者五百六十七人のうち七十二人が偽装したことがあると回答。会社ぐるみで偽装をしていた福岡県の設計会社「サムシング」など、姉歯容疑者以外の偽装も次々と明らかになっています。

 安全性を審査する建築確認はずさんそのものでした。姉歯容疑者の偽装物件の約三分の一にあたる三十七件を見逃した民間検査機関「イーホームズ」は、張本人の姉歯容疑者から「(書類を)見ていないんじゃないか」とまで言われました。

 民間開放によってずさんな検査が横行する懸念は九八年の法改悪当時から、指摘されていました。日本共産党と日本弁護士連合会は、公的業務を営利企業に任せる危険性を指摘。「安かろう悪かろうという検査になりはしないか」(中島武敏党衆院議員=当時)と追及しました。

 割引券まで配って値引きを競い、速さを売り物にして営業する民間検査機関の実態は、まさに「安かろう悪かろう」でした。ずさんな検査がまかり通った結果、耐震強度が不足した建築物が大量につくられ、被害が拡大したのです。

 国土交通省は二十四日、イーホームズや日本ERIなど五十の民間検査機関が建築確認したマンションから百三件を抽出し、構造計算書を再計算した結果、十二件で強度不足が判明したと発表しました。これらはいずれも偽装ではなく、設計ミスの見逃しでしたが、建築確認制度が機能していないことをうかがわせます。

「官から民」無責任体制

 ゼネコンやハウスメーカーが民間検査機関に出資し、建築確認の申請側と審査側が事実上一体になっている実態も明らかになりました。「ゼネコンの“ひも付き”のような検査機関もある」。ある民間検査機関の職員はそう語りました。

 市場原理にもとづかない行政の建築確認でも偽装を見逃していました。民間任せになり、人員が削減されていました。人口二十五万人以上の地方自治体は建築確認を行う部署を設置することになっています。ところが、実際に構造計算が分かる担当者のいるところは、14%しかなかったのです。

 行政は建築確認から手を引く――。それは政府の方針でした。

 九八年法改悪のもとになった旧建設省の建築審議会答申(九七年三月)は、建築確認について「民間の役割を積極的に拡大」し、行政は「監査や処分の厳正な実施等の間接的コントロール」に移行するように求めています。

 神戸市の例では、行政の窓口で民間検査機関の活用をあっせんしていました。こうして、国民の安全まで営利企業任せの体制がつくられました。

 政府は偽装事件を受けて、今国会で建築基準法を「改正」するとしています。しかし「改正」案は、営利企業による建築確認を引き続き認め、ゼネコンやハウスメーカーによる出資も禁止していません。

 偽装事件は、安全まで「官から民へ」の無責任体制に、警鐘を鳴らしました。国民の安全を営利企業に任せていいのかが問われています。民間検査にメスを入れ、民間任せの建築行政をあらためる抜本的な法改正こそが求められています。

図

建設行政に大穴開けた政治の責任を明らかにすべきだ

 中島武敏・元日本共産党衆院議員の話 建築基準法改正案の審議(一九九八年)で、確認検査を民間開放すれば手抜き検査が横行する可能性を指摘したが、それが現実になった事件だ。

 多数の被害者が住居からの退去を強要され、二重ローンを抱えた。姉歯元建築士ら関係者は当然厳しく断罪されるべきだが、それだけでは不十分だ。

 規制緩和で、国民の生命と財産を守るための建築行政に大穴を開けてしまった政治と政党の責任を明らかにすべきだ。捜査当局任せでは、再発防止策確立の保証にならない。

 公共の福祉の増進のために建築物の最低基準を守るということは、公共の責任だ。(自治体で確認検査を担当する)建築主事や関係職員の体制を強化することが求められる。


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