2006年4月12日(水)「しんぶん赤旗」

遺族への支払い 棄却

団体定期保険訴訟で最高裁


 住友軽金属工業(本社・東京都港区)が従業員にかけた団体定期保険をめぐる訴訟で、最高裁第三小法廷(藤田宙靖裁判長)は十一日、遺族補償を目的とする団体定期保険の保険金を遺族に支払わなくてもよいとする不当判決を出しました。(5面に関連記事)

 この裁判は、川本信子(60)、荒木みつ江(58)、松本美若(62)の三氏と近藤弘子さん(58)がそれぞれ、会社に保険金の引き渡しを求めていたもの。「従業員を死ぬほど働かせたうえ、保険金まで横取りするのは許せない」として、近藤さんが一九九六年、川本さんらが九七年にそれぞれ名古屋地裁に提訴していました。

 最高裁判決は「従業員の福利厚生の拡充を図ることを目的とする団体定期保険の趣旨から逸脱したものであることは明らかである」として、会社側による乱用の実態を認めましたが、「被保険者(従業員)の同意が前提である以上ただちに公序良俗違反にあたらない」などとして、会社側の受け取りを認めました。

 川本さんら三人が計約一億八千三百万円の支払いを求めた訴訟は一、二審とも、「遺族補償として社会的に相当な額を引き渡すべきだ」として、約五千六百万円の支払いを命令。近藤さんが約六千七百万円の支払いを求めた訴訟は、一審が「一定部分を遺族に支払う合意があった」として支払いを命じましたが、二審は「合意があったとはいえない。会社が不当な利益を得ているわけではない」と棄却しました。

 原告弁護団の水野幹男弁護士は「遺族補償の趣旨を逸脱していると認めながら保険金を遺族に渡せといえない、現状を追認した判決だ。これでは問題は解決せず、必ずたたかいは起きるし、たたかいは続く。企業に保険金を渡すことを禁止するなど立法措置が必要だ」と語りました。


解説

命を保険取引の材料に

世界に例ない現状追認

 保険金は企業のものか、それとも遺族のものか―。裁判ではそれが最大の争点でした。しかし、最高裁は、遺族補償のためにあるという団体定期保険の本旨・目的にはまったく言及せず、一方的に遺族側の主張を退ける不当判決を出しました。

 これまで各地の裁判所で、遺族への保険金の引き渡しを命じる数多くの判決がだされています。判決はこうした判例の流れに逆らうものです。

 実際、原告の川本さんら三人の訴訟の一審判決では「保険金の受取人が会社側になっていても、遺族が請求したときは、引き渡す義務がある」として、団体定期保険の本旨が被保険者(従業員)の契約であることを明快に断じています。

 そもそも団体定期保険は、遺族補償が目的であることは、歴史や約款の変遷、大蔵省(当時)の行政指導、生保協会の申し合わせ事項など、さまざまな側面から明りょうになっています。

 保険先進国の欧米では企業の保険金受け取りは当然のこととして禁止されています。遺族のための保険であるはずの団体定期保険が、「会社のための保険」に転化し、社会問題化しているのは、例をみない現代日本の特異な現象といわれています。

 日本でのみ労働者の命が保険取引の材料にされ、その死において企業が利得することが許されるはずがありません。

 判決も「従業員の福利厚生の拡充を図ることを目的とする団体定期保険の趣旨から逸脱したものであることは明らかである」と保険乱用の実態を認めざるを得ませんでした。ところが、判決は「労働者の同意を得ている」とする形式論にたった多数意見によって現状を追認しました。

 これでは、何ら問題の解決にならないばかりか企業側の横取りを容認し、生命保険の乱用を野放しにしかねないものです。司法の任務放棄とさえいえます。

 保険乱用をこれ以上許さないために、団体定期保険の本旨に立ち返って、企業が保険金を受け取ることを約款で禁止するなどの措置が必要です。(中村隆典)


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