2006年4月11日(火)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

国民・県民の怒り 聞こえないか


 米軍普天間基地に代わる沖縄・名護市での新基地建設計画について、額賀防衛庁長官と島袋名護市長は先週末、滑走路を二本とすることなどで合意しました。稲嶺沖縄県知事は名護市の意向は尊重するとしながらも、県としては計画に反対との立場を改めて表明しました。

 地元の琉球新報と沖縄タイムスは合意内容を大きく報じるとともに、それぞれ社説を掲げ「抜本的解決にあらず 危険は残されたままだ」(「新報」)、「まやかしの再修正案だ」(「タイムス」)と厳しく批判しています。

たらい回し容認

 こうした地元紙とは対照的なのが全国紙の論調です。各紙の社説で見ても、「朝日」が「沖縄の苦衷はなお続く」としているぐらいで、「読売」(「早期移設へ着実に作業を進めよ」)、「毎日」(「名護市の決断重く受け止めよ」)、「日経」(「稲嶺知事は額賀・島袋合意に協力を」)、「産経」(「沖縄県も現実対応さぐれ」)などはいずれも、合意を評価し、新基地建設を推進するものです。

 これらの全国紙がほとんど唯一の根拠にしているのは、現在の米軍普天間基地が住民の安全を脅かしているという現実です。たとえば「毎日」は「普天間飛行場は宜野湾市の住宅地の真ん中に位置し、かねて航空機事故の危険性が指摘されてきた」とのべ、「沖縄にとっても、放置していい問題ではないはずだ」と、県の対応を迫っています。

 しかし、普天間基地が周辺住民の暮らしと安全を脅かしているからといって、名護市への「移設」を認めるようにいうのは、痛みをたらいまわしするだけの議論ではないか。

 沖縄県民が求めているのは、普天間基地を名護市に移設することではなく、米軍基地を撤去・縮小し、現実に基地負担を軽減することです。この点では地元紙の琉球新報が「根本的に問題になっていたのは、基地の危険除去のはずである」「政府は、県外・国外移設をどれほど真剣に検討したのだろうか」というのは、全国紙にとっても向き合わなければならない県民の声です。

 しかも今回合意した新基地建設計画は、単なる普天間基地の移設にとどまらず、基地を強化し恒久化する計画です。沖縄タイムスが、「(合意は)かえって当初案を巨大化させ、危険性をより増大させたというのが実情だろう」とのべ、「面積が増えた分、米軍にとっては有用性が高まり、基地機能の強化に十分な理由を与える恐れがある」と批判しているのは根拠のある指摘です。

 こうした批判に目もくれず、ひたすら新基地建設を受け入れるよう説き続けるようでは、全国紙自身が国民・県民の批判を浴びるようになるのも、避けることはできません。

日米同盟を優先

 新基地建設を押し付けようという全国紙の主張の根本には、日米同盟最優先の立場があります。たとえば「読売」社説は露骨です。

 「日米同盟の安定と強化という観点からも、政府は地元の理解を得つつ、移設を早期に実現しなければならない」「日本や地域の平和のために日米同盟を強化する上でも、政府は、責任を持って問題解決を急がねばならない」

 「日米同盟強化のため」、新基地建設を受け入れろというのは、どんな負担をも耐え忍べということなのか。この点でも地元紙沖縄タイムスの批判は急所を突いています。

 「政府は三月末とされた米国との合意期限だけを考え、市民はじめ県民への説明を省いて作業を急いだのではなかったか」「島袋市長を“一本釣り”して政府がつくった協議の場に上げ、判断を名護市に押し付けたのは米側からせかされたからではないか」

 「日米同盟強化のため」の一言で判断を停止する発想からは、筋の通らない圧力には屈しないという地元紙のような骨太の論調は出てきません。それは事実を伝えるという点でも権力を監視する点でも、ジャーナリズムとしての立場を根本から投げ捨てるものです。

 沖縄での新基地建設推進の立場に立つ全国紙は、三月におこなわれた山口・岩国での米軍艦載機の移転に反対する住民投票の際も、「それでも在日米軍再編は必要だ」(「読売」)、「国の安全はどうするのか」(「産経」)と、住民投票の結果に反対し移転を受け入れるよう主張しました。

 日米同盟最優先の立場は、全国紙の論調をますます国民から遊離させるだけです。(宮坂一男)


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