2006年4月6日(木)「しんぶん赤旗」
野党「首相早期退陣を」
タクシン氏 “指名まで継続”
タイ
【ハノイ=鈴木勝比古】タイのタクシン首相の辞任を要求してきた主要野党三党や反タクシン市民団体は四日の同首相の辞任声明を歓迎しました。しかし、後継首相の指名までは暫定首相として政権にとどまるとの同首相言明に反発、あくまで早期辞任を求める構えです。
タクシン首相は前日(三日)夜のテレビ番組では、国民の過半数が同首相を支持したとして続投の意欲をみせつつ、「いつでも首相を辞任する用意がある」ことを明らかにしていました。
タクシン首相は四日の約十分間の声明で、「六十日後に迫った国王即位六十周年記念式典を前に国家の混乱を収拾することが最優先」であると強調しました。さらに、国民の団結、和解を訴え、「国会が招集された際、首相指名を受け入れない」と語り、「政治こう着を終わらせ、平和秩序と統一を回復するために決断した」と表明しました。
タクシン首相は同時に国会で与党・タイ愛国党から後継首相が選出されるまで暫定首相としてとどまると述べ、首相辞任後も、愛国党の党首、国会議員として活動を続けることを明らかにしました。
タクシン首相は彼を支持した千六百万人の支持者に謝罪し、国家の利益を優先させたとのべながら、選挙で公約した麻薬の撲滅、三十バーツ(約百円)での診療・治療、貧困の克服などを推進する意思を表明しました。
反タクシン市民団体、民主市民同盟の指導者、チャムロン元バンコク知事は「これはわれわれの勝利である。われわれの抗議行動がなければ、これは実現しなかった」と語りました。民主市民同盟はタクシン首相の辞任が実現すれば抗議行動を中止するとしています。
タクシン首相は新国会招集まで暫定首相を続ける意向であり、反タクシン派は首相辞任の早期実現を求めて行動を続けるとしています。
解説
国民の亀裂修復が課題
タイのタクシン首相の辞任表明は、政治危機の収拾、国民和解を優先させた決断として歓迎されていますが、辞任がいつ、どういう形で実現するか不透明であり、反タクシン派は次のステップに注目しています。
昨年二月の総選挙での与党・タイ愛国党の圧勝で発足した第二期タクシン政権は北部、東北部などで強い支持を受けていました。しかし、首都バンコクの市民は同首相の強引な政治手法や首相親族のあからさまな金もうけ本位のビジネスに反感を募らせていました。
今年一月にタクシン首相の息子などが経営する通信企業がシンガポールの会社に株を売却して巨額の利益を得たことが反対派の不満を爆発させ、タクシン首相辞任要求の街頭行動がバンコク市内に広がりました。
タクシン首相は下院を解散し、総選挙に訴えましたが、主要野党三党が候補者を立てず、与党とほうまつ政党だけの選挙となりました。与党は北部、東北部などを中心に六割近くを得票しましたが、野党の地盤であった南部と中部の一県の三十八選挙区で単独候補の当選資格である有権者の20%の得票を超えられず、再選挙となりました。首都バンコクでは白票(棄権票)が与党支持票を上回りました。
タクシン首相は選挙後、首相続投の意欲を示しましたが、反タクシン派は棄権票の増大を背景に、タクシン首相辞任まで街頭行動を続ける構えを見せていました。
タクシン首相は、麻薬の撲滅、農村の村おこしへの百万バーツ(約三百万円)支給や三十バーツ(約百円)での診療・治療、一村一品運動などで北部、東北部、中部の農民の強い支持を得ました。バンコクでもタクシー、バイクタクシーの運転手などはタクシン首相を支持。国際通貨基金(IMF)の債務を短期間で完済したこと、アジア各国間の対話組織「アジア協力対話」を立ち上げたことなども評価されています。
しかし、バンコクの識者はタクシン首相の国会論議の軽視、メディアへの介入、親族の派手なビジネスがバンコク市民の反発を受けたことを指摘しました。南部イスラム教徒地域の武力紛争で千人以上の犠牲者を出したことへの批判も高まっていました。
タクシン政権への支持、不支持をめぐって国民の間に残った深い亀裂を修復することが今後の課題となります。(ハノイ=鈴木勝比古)

