2006年4月3日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

夢は木の香りの家

ノミ・カンナ研いて くぎなどに頼らず

東京建築カレッジ卒業生たちの思い


 “建築の技術や技能の基本を学びたい”という青年たちが、建築職人として働きながら2年間の研修を終え、4月から新たなスタートを切りました。東京建築カレッジ(東京・池袋)の9期生として修了した研修生26人。卒業した青年たちにそれぞれの思いを聞きました。(伊藤悠希、写真・片桐資喜)


学んだこと生かしたい

 「卒業して新たにスタートできるかな」と永井貴秋さん(30)。「この二年間、カレッジで学ぶことで力を蓄えることができた。これからは仕事に集中できるから学んだことを生かしていきたい」

 カレッジに通う研修生は、現場で働くことが前提です。学校は毎週、金・土曜日。仕事を休まなければなりませんでしたが、授業は皆勤。永井さんは「家族と親方の理解があったから」と話します。

一生住む家を考えるように

 高橋宏光さん(23)は「将来は木の香りのする家をつくりたい」と言います。今は住宅メーカーから請けた仕事をしているため、実際に木のよさを生かす家づくりの機会はほとんどありません。「今の仕事は建て売りがほとんど。現場に行くと接着剤のにおいがする。建て売りは安いしデザインもいいけど、一生住む家をそれだけで選んでいいのかなって考えてしまう。何も考えず、ただつくってきたんだけど、カレッジで学び、考えるようになりました」

いろんな事に挑戦できた

 今年の技能五輪全国大会に出場する林剛さん(20)はカレッジ入学と現場で働く時期がほぼ同時でした。現場ではまだやれることは限られていますが、カレッジではまわり階段をつくるなどいろんなことに挑戦できました。「勤めている工務店の信用を崩さないよう、地域のコミュニティーを大切にしていきたい。将来は一現場まかされたい」と目標を話します。

 カレッジは、日本の木造建築の技術、技能を次の世代に継承することを一つの目的にしています。実際は建築の基礎を学びたくて入学した人が大半です。現場では伝統技能と触れる機会がほとんどありません。

伝統工法に出合った

 「カレッジには建築の基本を学びたくて入りました。学校に入ってみたら、日本の伝統建築に力を入れている。伝統工法には学校に入って出合っちゃった、という感じなんです」と話すのは実家の工務店で働く山本国男さん(27)。「今の仕事に直接かかわるというわけではないけど、基本を学んだから応用していける力を身に付けられた。将来は家もつくれる、やれないことはないって実感できたんです」

 卒業制作でみこしをつくった山本さんは「入学前はみこしなんてつくろうとも思わなかった。つくれるものだとも思っていなかった」と言います。完成を待たずに卒業制作の指導員が亡くなりました。「あきらめそうになったときもあったが、自分たちの力を合わせ、最後までやり遂げられた。ほっとしています」

 高橋さんは自分の変化について話します。「学校で学ぶ前はわからないから、『これでいいや』という気持ちで仕事をしていた。今は『これでいいかな、もっとよくできるんじゃないか』って考えるようになった。自分で仕事ができる自信がついたんです」


人づくりの学校

 渡辺顕治教務部長は「カレッジは人づくりの学校です。今の住宅は大量生産できるように技術がゆがめられています。住む人を大切にする技術、技能が切り捨てられるようになりました。住まいは文化であり、権利であり、人間の尊厳を支える基本なんだということを大事にしています」と話します。

 関昌孝先生はカレッジ開校の翌年から授業をもっています。この間、卒業制作を指導してきました。「カレッジを修了した彼らは、現場に戻ると指導できる立場に立ちます。つくり手として建築主の気持ちを理解し、きちんと説明できるようになってほしい。修了後も勉強し、何年か後に現場で働く人に教えられるようになってほしい」と語りました。


東京建築カレッジ

 木造建築の伝統技能に建築の基本があるとして一九九六年四月、東京土建一般労働組合が母体となって開校しました。二年制で一学年の定員は二十人。研修生は月曜から木曜までは現場で働き、金・土曜はカレッジで勉強します。

 研修生は大工が多数ですが、設計や事務、耐震工、設備工などさまざまな職種の人が集っています。年齢は十代、二十代が約90%。実技は親方や棟りょう、学科は設計事務所の人や建築教育の専門家がそれぞれ教えています。

 最初につくるのは自分の道具。ノミやカンナなどを研いで作ります。その道具を使って道具箱をつくることから、カレッジでのものづくりが始まります。

 実習では、くぎなどの金物に頼らない木造の家をつくり、構造の実験もします。林業地を訪ね木が木材になるまでの過程の学習もします。

 最後の締めは卒業制作。今年卒業した九期生はみこしや待合、金閣寺の模型などをつくりました。


お悩みHunter

仕事に誇り持ちたいでも…持てません

 三流大学を出て製造業関係の中小企業に勤めています。お客さんに喜んでもらえる商品をいかにつくるか、悩みながらも地道にやっています。昨今の耐震偽装、東横インの問題にはあきれました。この国、どこかおかしいんじゃないか、と思わずにはいられません。勝ち組、負け組など気になる風潮もあります。私は負け組なのかもしれません。でも仕事に誇りが持てるようにと思っていますが、自信がもてません。

(26歳、男性。東京都)

自分の信念を貫いて

 勝ち組、負け組の価値判断だけで人を評価する風潮に、私もあなたと同じ思いでいます。あなたと同じ悩みに陥るときもあります。私たちと同じ思いで暮らし、同じ悩みを抱いている人々がたくさんいるのではないでしょうか。

 現実をみたとき、焦りと憤りを感じることがたくさんありますね。操作された一部マスメディアの情報におどらされ、「改革」という名のもとに自由が奪われていくことに気付かない。ただ、社会から取り残されないようにと必死にもがき、疲れ果てていく――。

 まずは、自分の信念を貫くことが大切だと思います。周りの人とは違ったとしても自分の意見を言うこと。同じ思いの仲間を見つけることです。

 たくさんの情報が流されますが、隠された情報に対して、誰が何のために、なぜ隠さなければならないのか。それによって誰がどんな利益を得るのか――科学的に分析して、本当のことを知ることが大切だと思います。その上で、どう対応していけば良いのか、を考え実行していくことが大事です。

 私たちには、同じ思いを持ったたくさんの仲間たちがいることを忘れずに。自分の信念を貫き、豊かな人生を築いていきましょう。


舞台女優 有馬 理恵さん

 「肝っ玉お母とその子供達」など多くの作品に出演。水上勉作「釈迦内柩唄」はライフワーク。日本平和委員会理事。


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