2006年3月30日(木)「しんぶん赤旗」
イスラエル総選挙
中道カディマ 第一党
投票率過去最低 強硬派リクード惨敗
【エルサレム=小泉大介】イスラエルの国会(定数一二〇)総選挙が二十八日投票、即日開票で実施され、二十九日午前の開票率99・7%の段階で、「中道」新党カディマが二十八議席を獲得し、「中道左派」労働党の二十議席(前回十九)、対パレスチナ強硬派リクードの十一議席(同三十八)を引き離し第一党となりました。投票率は約63%で、過去最低だった前回二〇〇三年の約68%をさらに下回りました。
第一党となったカディマ暫定党首のオルメルト首相代行は二十九日未明に勝利宣言。最大公約だったヨルダン川西岸からの撤退問題に関し、「もしパレスチナ側がすぐに行動を起こせばわれわれは交渉のテーブルにつく。そうでない場合はイスラエルは運命を自分の手で決める」と述べました。
主要三党以外では、ユダヤ教超正統派のシャスが十三議席、旧ソ連からの移民を基盤にした右派の「イスラエルわが家」が十二議席、極右の国家統一党と国家宗教党との合同リストが九議席を獲得しました。
また前回不参加の年金者党が七議席と大健闘し、全占領地からの撤退を掲げるイスラエル共産党が主体のハダシュは前回と同様の三議席を確保しました。
パレスチナ自治政府のアッバス議長はカディマの第一党進出が確実となったことをうけ、オルメルト首相代行の一方的撤退方針は「非常に危険だ」と警告。同時に、「和平なくしてイスラエルとパレスチナ人民双方にいかなる未来もない」と強調し交渉再開への期待を表明しました。
解説
交渉望む国民の声にどうこたえるのか
今回のイスラエル総選挙結果は、カディマの第一党進出、少数政党の躍進、過去最低の投票率などを合わせ、伝統的に労働党とリクードの二大政党が中心となってきた政治地図を大きく塗り替えるものとなりました。
選挙戦では、カディマ暫定党首のオルメルト首相代行は、パレスチナ側が交渉に応じなければ、占領地ヨルダン川西岸に建設中の分離壁ルートに基づいて一方的に「国境」を確定するという方針を掲げ、選挙をこの方針についての「国民投票」と位置づけました。
昨年十一月にリクードを離党してカディマを結成したシャロン首相が脳梗塞(こうそく)で入院した今年一月初めの時点の世論調査では、同党は四十数議席を獲得するとされました。選挙戦最終盤は三十五議席前後の予想でしたが、結果的には三十議席に届かず、一方的方針が必ずしも国民多数の支持を得られなかったことを示しました。
これまで和平積極派と目されてきた労働党は、交渉の必要性を訴え、カディマとの違いをアピールしました。しかし、最低賃金の引き上げなど社会経済政策を前面に掲げ、結果的には微増にとどまりました。同党は和平問題を強く押し出さなかったことに加え、分離壁の建設推進ではカディマと変わりなく、和平の中身で違いを明確にしませんでした。
対パレスチナ強硬派で、占領地の現状維持を狙うリクードは歴史的な惨敗を喫しました。一方、移民を基盤にしたり、年金問題にテーマを絞ったいわゆる「シングルイシュー」の小政党が当初は四十議席以上と予測されていたカディマから離れた票の受け皿となりました。
今後、カディマと労働党に少数政党を加えた連立協議が開始されることが有力です。
オルメルト首相代行は、新パレスチナ自治政府を担う武装抵抗組織ハマスに対し、同組織がイスラエルの生存権を認めることなど交渉実施の三条件を提示。そのために「数年間待つ事はない」と述べ、一年程度の猶予期間中にハマスの方針転換がなければ一方的方針を実施する構えを表明してきました。
しかし、今月半ばにヘブライ大学などが実施したイスラエル国民の意識調査では、76%が国境画定を交渉によって行うことを望み、一方的実施に固執するのは17%に過ぎません。(エルサレム=小泉大介)

