2006年3月21日(火)「しんぶん赤旗」

ニアミス 管制官無罪判決

解説

刑事裁判になじまず

背景要因の改善こそ必要


 航空機の運航は、さまざまな部門のシステムで成り立っている業務であり、管制という一部門のヒューマンエラーだけを刑事事件で問うこと自体、なじまない性格を持っていました。管制官が意図的に誤った指示をしたという事案ならともかく、事故発生時の作業環境に応じた人間の能力の限界について考慮しなければならない問題を抱えているからです。

 被告弁護団や航空安全推進連絡会議は、事故原因は「複合的要因によるもの」とし、運航の安全全般にかかわる“システム性事故”における過失を最大の争点としてきました。

 例えばTCAS(航空機衝突防止装置)は、互いの航空機が交差(衝突)する約二十秒前に、上下いずれかに緊急回避を指示する警報(RA)を発します。このTCASの作動や指示はシステム上、地上の管制官には乗員から連絡を受けない限りわかりません。

 乗員の方もニアミスの対応に追われて管制官に通報する余裕がありません。従ってTCASの指示を知らない管制官は、TCASと相反する指示を出してしまう場合もあります。

 このニアミス後、国土交通省は管制官にTCAS情報をリアルタイムで流す必要があるとしました。が、システム上の改善はなく、従来通りのままです。乗員については原則TCASの指示通りに従うことだけが決まりました。

 しかし、飛行高度や機種によって、航空機の運動性能は差がでます。

 このため、TCASの指示通りに従うことがかえって危険を伴う恐れがでてきます。今回のニアミス事故のように、機長の判断に委ねることで危機を回避できる場合もあります。判決がTCASの特性と限界を踏まえて予見性を否定したのは当然といえます。

 不幸にして発生したニアミス事故によって、管制部ではCNF(異常接近警報)が直線では従来の一分から三分前に改善されました。しかし、その一方で管制官を四年間で百七十人余を削減する計画が進行中です。一人で十数機を受け持たざるを得ないような過密業務の改善やヒューマンエラーを発生させやすい背景要因を少なくすることが運航の安全に寄与する道です。(米田 憲司)


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp