2006年3月19日(日)「しんぶん赤旗」

世界遺産 白神山地が危ない

100年後ブナ林が消える? 温暖化影響


 青森県と秋田県にまたがる白神山地のブナ林は、世界遺産に登録されている、日本を代表する天然林の一つです。その林が地球温暖化の影響で100年後、存続が危ぶまれる状況となることが森林総合研究所の予測でわかりました。(間宮利夫)


森林総研が予測

 世界の科学者らで構成する「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、100年後の21世紀末に地球の平均気温が最悪の場合5・8度上昇する可能性があると予測しています。

 森林総合研究所環境影響チームは、日本の広い範囲に分布しているブナ林が温暖化でどう変化するか予測しました。

 ブナの生育にとって重要な気候条件は、夏、冬の降水量と、冬の最低気温、それに植物の成長に関係する積算温度である暖かさ指数(注)と考えられています。研究チームは、この四つの気候条件にもとづいてブナ林の分布をコンピューターで予測するモデルを開発しました。

 このモデルでは、日本列島を縦、横1キロメートルに区切って、それぞれの区画ごとにブナの生育にどの程度適しているか表すことができます。現在の気候条件をモデルに組み入れてブナの分布に適した地域を求めたところ、実際のブナ林の分布とほぼ一致しました。

4・9度上昇

 研究チームは、このモデルに東京大学気候システム研究センターと国立環境研究所が予測した日本の2091〜2100年の気候条件を当てはめました。平均気温が今より4・9度上昇すると予想したもので、四つの気候条件のうち冬の降水量はあまり変わりが無いものの、冬の最低気温や、夏の降水量、暖かさ指数はいずれも上昇するとしています。

 その結果、現在の気候条件では約2万6000区画が生育に適していると判断されましたが、2091〜2100年の気候条件では生育に適しているのは約2300区画と10分の1以下に減ることがわかりました。

 もともとブナ林面積の少ない九州や四国では、分布に適した地域が消滅。現在ブナ林面積が広い東北でも、分布に適した地域が大幅に減少しています。白神山地も分布に適した地域では無くなっています。

広がるササ原

 研究チームの田中信行チーム長は、「ブナの寿命は200年から300年あるので、分布に適した地域で無くなったからといってすぐにブナ林が消滅するわけではない。しかし、そうした場所では後継ぎの木が育たないので、いずれ消滅する可能性が高い」と説明します。

 実際、太平洋側の低山などでは、後継ぎの木が育たず、親木が枯死した後、ササ原が広がっているところがすでにみられるといいます。

 一方、北海道では、分布に適した地域が現在より広がっています。しかし、現在の分布域と新たな分布に適した地域の間には森林が無いため、実際にブナが広がっていくかどうかは不明だといいます。

 田中さんは、「温暖化の影響は世界遺産にも及ぶことがわかった。これを、今後日本のブナをどう守っていくかを考える参考にしてもらえれば」と話しています。


  各月の平均気温からそれぞれ5度を引き(気温が5度以下の月は0)、1年間分を足し合わせた値。


図

 (A)が現在のブナ林の分布図。(B)は現在の気候条件のもとでブナ林が分布する確率を表しており、最も確率の高い赤い部分と実際の分布はよく一致しています。(C)は2091〜2100年の気候条件のもとでのブナ林の分布確率で、赤い部分は大幅に減少しています


キーワード

ブナ

 冷温帯に生育する落葉広葉樹。高さ25メートルに達するものもある高木です。北海道の南西部から九州の鹿児島まで広く分布していますが、主に東北や中部の日本海よりに見られます。スギなどの植林のために伐採されかつてより減ったものの、現在でもブナ林の面積は約2万3000平方キロメートルと推定され、日本の国土約38万平方キロメートルの約6%を占めています。ブナ林は保水能力に優れ水源地として大きな役割を果たすとともに、実はツキノワグマをはじめ野生動物の重要なえさとして利用されています。


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