2006年3月18日(土)「しんぶん赤旗」

「複合原因」どう判断

日航ニアミス事故、20日判決

狭い空域・過密業務など


 二〇〇一年一月末、静岡県焼津市上空で日航機同士が異常接近(ニアミス)した事故の判決が二十日午後、東京地裁刑事部(安井久治裁判長)であります。業務上過失致傷罪に問われているのは当該機を管制していた東京航空交通管制部(埼玉・所沢)の二人の管制官(訓練生と教官)です。約二年にわたる裁判では、管制官の過失のみでなく、TCAS(航空機衝突防止装置)の運用と性能や作動した際の規程、軍事空域に囲まれた狭い空域と交通量の増大など、ニアミスの背景にある「複合原因」が争われてきました。同地裁が航空事故における個人の責任を超えた「システム性事故」の過失をどう判断するのかが注目されます。(米田憲司)


 事故は、羽田発の907便が三万九千フィート(一フィート=三十センチ)へ上昇中、焼津市上空付近で「関連航空機があり三万五千フィートへの降下開始」という東京航空交通管制部の指示を受領。左前方約四十五キロに相手機の成田行き958便(三万七千フィート)を視認していました。

 時速八百八十キロの907便は、管制部の指示のあと、自動操縦を手動に切り替えて降下を開始。降下操作直後にTCASのTA(警告=衝突予想時の約四十秒前に作動)が、その約二十秒後に同RA(緊急回避)が発せられました。TCASは、上方への回避を指示しました。

 しかし、相手機を視認していた907便は、衝突を回避するためにはそのまま降下を続けることが最良だと判断。三万五千フィートへの降下を続けました。高度三万六千八百五十フィート―三万六千八百フィートを飛行中に、相手機が真上を通過。相手機との高度差は二十―六十メートル、直線距離は百五―百六十五メートルでした。

 裁判で、検察側は訓練生の管制官が958便を降下させるべきところを、いい間違えて907便を降下させたうえ、教官もミスに気づかなかったことが衝突の危険を生じさせた過失があるとしました。

 弁護側は907便への降下指示は十分安全な垂直間隔が確認できるものだと主張。TCASについても本格的導入から一カ月足らずで、ルール整備が未完成の上、TCASの指示は管制官の指示とは関係なく機械的に出るものであり、機長のとっさの判断とあわせて危険性について予見できるものではなかった、と反論しました。

 ニアミスが発生した背景には、発生場所の関東南C空域が米軍、自衛隊の軍事訓練空域に挟まれていることから、羽田、成田両空港の離着陸、アメリカ西岸へ向かう通過機が錯綜(さくそう)し、日本では有数の混雑した空域という事情も重なっています。

 また、907便と958便の接近で管制部のCNF(異常接近警報)が作動したのは、最接近の一分前で、訓練生と教官はそのときには十―十四機の航空機を管制していたため、ニアミス機に適切な対応がとれませんでした。弁護側はミスを未然に防ぐうえでも管制官の過密業務を改善することが必要だと強調してきました。


 日航機ニアミス裁判 二〇〇一年一月三十一日、羽田発那覇行きの日航907便(乗客・乗員四百二十七人)と釜山発成田行きの同958便(乗客・乗員二百五十人)が静岡県焼津市上空でニアミスし、衝突を避けようと急降下した907便の乗客・乗員百人が重軽傷を負いました。航空・鉄道事故調査委員会は事故原因について、管制官が他機に気を取られ、接近する航空機の存在に気がつくのが遅れたことや便名の呼び間違いをするなどの不適切な指示があったことと、TCASの指示に従わなかった乗員の操縦等が重なった複合的要因によるもの、とみています。

 東京地検は教官の籾井康子管制官と訓練生の蜂谷秀樹管制官を「便名のいい間違いと失念があった」として二〇〇四年三月に起訴。籾井管制官に禁固一年五月、蜂谷管制官に同一年を求刑しています。

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