2006年3月14日(火)「しんぶん赤旗」

施行直前の「石綿新法」

「すき間ない救済」どこへ

ふり落とされる被害者


 アスベスト被害者を救済するとして成立した「石綿新法」が、二十七日施行されます。二十日から始まる申請を前に、新法でも労災でも救済されない被害者がいるなど欠陥が目立ってきました。政府が「すき間なく救済する」と強調した新法の目的はどこに消えたのか―。(松橋隆司)


20日から申請開始

 東京・足立区の建設関係の事業主Aさんは二〇〇四年二月、じん肺の一種である石綿肺を発症、同年十一月に六十七歳で死亡しました。東京労働局は、Aさんの石綿肺をじん肺症で最も重症の管理区分4と認定。労災の医学的基準を十分満たすものでしたが、労災補償による給付のないまま死亡しました。

 理由はAさんが労働者であった期間より、事業主だった期間(労災未加入)が長いことでした。

 東京・板橋区の電気店主のBさん(59)も管理4と認定されながら不支給でした。Bさんの石綿のばくろ期間は四十年。このうち十八年が労働者で二十二年が事業主でした。

3疾病は除外

 新法ではどうなのか。新法の指定疾病は肺がんと中皮腫の二つに限り、石綿肺の患者は対象外です。政府は労災の指定疾病である石綿肺、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚を新法から除外したからです。

 石綿肺は、悪化すれば肺がハチの巣状になる、予後の悪い疾患。日夜、呼吸障害に苦しんでいるBさんらはなんの救済もされないことになります。

 日本共産党の吉井英勝衆院議員は昨年十月十二日の内閣委員会で、政府は「すき間のない法的措置を講ずる」といっているのだから新法の対象を二疾病に限るべきではないとただしました。

 細田博之官房長官(当時)は、「すき間のない救済を考えているわけ」だから「病名を限定する必要はないので、アスベスト由来の疾病がはっきりしておれば、当然含まれる」と約束しました。この約束は、ほごにされたことになります。

解剖の必要も

 新法では肺がんの認定基準を労災より厳しくしているのも問題点です。

 労災では石綿を吸いこんだ証拠の胸膜肥厚斑がレントゲンやCT(コンピューター断層撮影装置)で確認されればよい。それが新法では、胸膜肥厚斑に加え、石綿肺か、または解剖で肺内の石綿量が一定量以上必要に。「なんで住民の救済条件を不当に厳しくする必要があるのか」。関係者の強い疑問点です。

 石綿新法と同時に改定された労災の認定基準にも問題点があります。

 たとえば、胸部エックス線写真で肥厚の厚さは五ミリ以上・広がりは胸壁の二分の一以上などの条件に加え、著しい肺機能障害を伴うこと、石綿ばくろ作業三年以上が条件です。「これでは認定されるまでに死んでしまう」と怒りの声があがっています。

 職業性疾患・疫学リサーチセンターの斎藤洋太郎理事は「医学的根拠がはっきりしない不当にきびしい基準だ。拙速に決めたとしか思えない」と首をひねります。

 石綿新法は、労災の対象外の住民にも救済の道をつけました。とはいえ、被害者が要求していた労災なみの補償とはかけ離れた給付水準に怒りが広がっているのも事実。そのうえ、救済されない多数の被害者が生じることも予想されています。

 斎藤さんは「被害者はあきらめずに、石綿新法の不服申し立て制度も使ってたたかおう」と呼びかけています。


対象疾病の追加 ただちに実施を

 吉井英勝衆院議員(日本共産党アスベスト対策チーム責任者代理)の話

 私は予算審議のなかで、石綿新法が対象疾病を二つに絞っているのは不当だと主張しました。職業歴や居住歴で石綿ひばく環境にあったことが明確であれば、労災認定の石綿肺、胸膜肥厚、胸水の三疾病についても法律に加えるのは当然です。新法の「五年見直し」規定を口実に先伸ばししないで、ただちに追加して被害者補償に力を尽くすべきです。

 被害者は「水俣病で判決がでても、国は全面救済を先伸ばしている。立法を口実に救済を先伸ばしするのではないか」と心配しています。救済活動をしている建設関係労組の人たちから先日、「きちんとした被害者補償法実現と被害発生をくいとめるため、腰を据えて取り組む」と力強い決意を聞きました。力を合わせて全力でがんばります。


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