2006年3月6日(月)「しんぶん赤旗」

東横インの違法5カ所で見逃す

検査機関のERI・行政


 系列ホテル百二十二棟のうち、半数を超える六十三棟で建築基準法やハートビル法違反があった大手ビジネスホテルチェーン「東横イン」(東京都、西田憲正社長)。違反の中には、民間検査機関や行政が建築確認や完了検査をした際に見逃していたケースが全国で五カ所あることが本紙の調査で分かりました。(菅野尚夫)


 「さいたま新都心」(さいたま市)、「草加西口」(埼玉県草加市)、「松江駅前」(松江市)、「熊本新市街」(熊本市)、「那覇新都心おもろまち」(那覇市)の五つのホテルです。

 そのうち「さいたま新都心」と「草加西口」は、民間検査機関の最大手、日本ERI(本社・東京都、鈴木崇英社長)が建築確認と完了検査をしています。

 「さいたま新都心」は、一階会議室のドアが七十五センチ(基準は幅八十センチ以上)しかなく、車いすでの通行ができずに、ハートビル法の基準を満たしていませんでした。日本ERIは、東横インが建築確認のために提出した図面の段階から基準を満たさない設計になっていたのに、これを見逃して「建築確認済証」を交付。さらに、建物完成時に行う「完了検査」の際にも見逃して、「適合」とした「検査済証」を交付していました。

 「草加西口」は、階段に手すりが設置されていなかったこと、車いす駐車場の表示板が付けられていなかったり、視覚障害者を誘導するブロックがないなどの違反がありました。日本ERIは、これを見逃して「検査済証」を交付しました。

見落し厳重注意

 耐震強度偽装マンションを多数「検査」した日本ERIは、本紙の取材に対して「さいたま市に報告してあるので市に聞いてほしい」としか答えませんでした。さいたま市によると、「日本ERIは違反を見落としたことを認めたので、市として厳重注意をしました」といいます。

 日本共産党の山岸昭子埼玉県議は、二月二十四日の県議会本会議の代表質問で、この二つのケースを示して、「民間検査機関が検査した建物の再調査」を求めました。県は「再点検を要請している」と答弁しました。

 行政が違反を見逃したのは三棟です。いずれも完了検査の際でした。

 「熊本新市街」は、建築確認申請の提出図面では違反はなかったのに完成した建物は図面と違っていて、障害者用駐車場の表示や誘導ブロックがありませんでした。

 「松江駅前」は、障害者用駐車場表示や誘導ブロックがありません。

 「那覇新都心おもろまち」は、東横インが建築確認申請で提出した図面を市から「確認済証」を交付後に設計変更。その事実を市に報告しませんでした。完成したホテルは、誘導ブロックがなく、階段に段差があって、スロープを設置しなければならないのに付いていませんでした。

 熊本市建築指導課が「ハートビル法についての認識が弱かった」と弁解するように、いずれも、障害者や高齢者など助けを必要とする人たちの安全確保に心を砕いた検査をしていませんでした。

検査の弱化深刻

 「こうした違反は容易に発見できます」というのは一級建築士の皆川幸司さん。「建築確認の検査が第一関門。完成時にも設計監理者がチェック。最後に検査機関の建築主事が完了検査をして違反がなければ『検査済証』を出す。二重、三重の関門で見逃がされている。建物を発注し、つくるまでのシステムの“ゆがみ”と、行政検査機関が正しく機能せず弱体化を感じます。深刻です」

 全国肢体障害者団体連絡協議会の宮内俊清事務局長は「私たち障害者がばかにされた思いです。『見逃した』ですまされない。国民の生命や安全が守られない。法の精神を貫き順守させる仕事に対する責任を放棄したものだ」と話しています。


 ハートビル法 「ハートのあるビルをつくろう」という趣旨から名づけられたもの。一九九四年九月に制定された「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建物の促進に関する法律」のことです。デパート、ホテル、病院、映画館など不特定多数の人たちが利用する建物を建築する場合、建物の「出入り口」「廊下」「階段」「トイレ」を、高齢者や障害者が利用しやすいように設置することを義務付けています。


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