2006年3月6日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

“マネー美人”心の内は…

株ブーム


 メリハリをつけたお金の使い方で計画的に貯蓄し、賢く投資に回して豊かに暮らす「マネー美人」――。そんなキャッチ・フレーズを、二十代、三十代の女性向け雑誌で最近、よく見かけます。若い女性のための投資セミナーも大盛況。「マネー美人」の心の内を聞いてみました。

(伊藤悠希、矢野昌弘、写真・佐藤光信)


 定員二百四十人の会場はほぼ満席。半数以上は若い女性です。東京・千代田区の東京国際フォーラムで先月末に開かれた、参加無料の「春季証券投資セミナー」。金融庁も後援しています。

 「資産形成の必要性を考えよう」と題した女性限定の講座。講師は「昨年は日本企業は業績を上げたが給料は増えなかった。企業の業績の収益を受け取るには株しかない」と言い、資金の運用を勧めます。参加している初心者を意識して、「素人には無理とあきらめず、なぜ失敗したのか分析することが大事。まず、口座を開いて土俵に乗りましょう」とも。

 同セミナーの若い世代のためのトークショー(定員千五百人)には二十代、三十代の青年でいっぱいです。「大切なお金だけど、やってみてわかることもあります。経験が大事」とゲストは話します。

金利も給料も低いから始めてみた

苦しみたくない

 セミナーに参加した女性もさまざまです。「銀行の金利が低いから株を始めたばかり。お金をためたい」(三十二歳、群馬県)、「金利も給料も少ないから貯金を増やしたくて株は見てるけど、まだ始めていません」(二十七歳、東京・大田区)。「小心者で本を読んでるだけ」と話す契約社員の女性(22)は「今後、年金や社会保障がどうなるかわかりません。家族ができた場合の子どもの養育費など、生活で苦しみたくない。勉強しています」。

 豪華なソファに座ってエスプレッソコーヒーや紅茶を飲みながら待つ。茶器は高級磁器の「ボーンチャイナ」――。都内の会社に勤める瀬野みどりさん(25)=仮名=は仕事を終えるとこの場所に来ます。ここはA銀行のゴールドカードを持つ人と一千万円以上の預金があるゴールドメンバー専用のラウンジ。亡くなった兄の生命保険を受け取ったみどりさんは、それを元手に投資信託やインターネットでの株式投資をしています。

 投資を始めて五年。みどりさんがA銀行を選んだのには理由があります。投資の相談の際、ラウンジで好きなだけお茶やコーヒーを飲み、セミナーではケーキも――。「一度こういう気分を味わうとやめられないと思っちゃう」

目覚めてから寝るまで市場チェック

いつ大損するかの不安を抱えて…

疑問に感じる事

 みどりさんは最近、疑問に感じていることがあります。「大企業の減税が続いて株価が上がっても、働く人たちの給料が上がるわけではないし、リストラも進んでいる。自分たちも負担をさせられてるのでは」

 サービス業勤務の武藤久美さん(29)=仮名=。仕事を終え、家に帰るとパソコンに数時間向き合いインターネット上でその日の株価の値動きをチェック。明日以降、どの株を売り買いするか研究します。

 朝起きるとネットを見て、出勤途中も携帯電話でチェック。仕事中やトイレの時、昼休みは携帯電話で市場を見ます。

 株を始めてから六年。「損もしたけれど、元手の四倍になりました。そのためには勉強もし、世の中の動きも知らなきゃいけない。生半可な知識ではだめです。私だっていつ大損するか、不安を抱えているんですよ」

 株を始めたのは「ある程度楽しめる生活をするにはお金が必要だから。両親に家を建ててあげるという目標もあります。銀行に預けていても利子がないからもったいないですよ」。

「超低金利時代」

 「超低金利の時代」―。「マネー美人」特集の雑誌には必ずこの言葉が出てきます。今、銀行の普通預金の金利は0・001%。一年間、十万円を預けても、利息はほとんどつきません。ATMで時間外に引き出せば百五円の手数料がかかります。

 日銀は先月、一九九一年の利子収入を基に二〇〇四年まで金利水準が変わらなかったと仮定して計算すると、十四年間で、現実に受け取った利子収入より総額で三百四兆円も多くなることを明らかにしました。

 みどりさんは言います。「もし金利が以前のように高かったら、投資はしていなかったかもしれません」


みんなが「勝ち組」にはならない

 ファイナンシャルプランナー 安田まゆみさんの話 マスコミやセミナーでは、株は誰でももうかるということを言いますが、株はもうかるときも、もうからないときもあります。みんなが「勝ち組」にはなりません。誰かが負けるから勝つんです。どうしても株式投資をやりたいというのなら余裕のあるお金でやるべきです。

 お金を増やす方法は三つあります。(1)働いて収入を増やす(2)節約などで支出を減らす(3)資産運用―です。自分が何のためにお金をため、何をしたいのかがはっきりしていないと投資ブームに踊らされてしまいます。なりたい自分のために計画的にお金を使ってほしい。

 投資の世界はお金持ちがお金持ちになる仕組みになっています。資金が多い人しか得られない情報もあります。情報の格差が貧富の格差につながっています。デイトレードなどで一日中パソコンに張り付いていても元手が少なければもうけも微々たるもの。そんな時間があるなら働いた方がよっぽどお金が入ると思います。


自民党政治が誘導

 「貯蓄から投資へ」―これまでの自民党政治は国民を投資に走らせてきました。ネット専業証券会社を設立できるようにしたり、資金が少なくても株が買えるよう株分割をするなど。金融機関がもうけ、企業が金を集めやすくするためです。小泉内閣は、こうした規制緩和を加速させました。

 株式売買によるもうけには、特定口座を使えば従来20%の税金を10%に引き下げる一方で、銀行預金の利子所得には20%の課税です。“まじめに働くより、株投資でもうけたほうが得だ”とばかりに国民を誘導しました。


お悩みHunter

就職が決まりませんどんな選択をすれば

Q昨年三月に大学を卒業しました。いまだに就職が決まりません。地元での正社員を希望していますが、競争率は五十倍。公務員の試験は、二次試験で落ちました。親と一緒に生活していますが、無理は言えません。アルバイトや派遣社員なども選択肢にするのか?

 地元での就職はあきらめて都会に出なければならないのか?―どんな選択をしたら良いでしょうか。(23歳、女性。フリーター)

同じ思いの人と連帯してみて

A青年の雇用の問題は、今の日本社会において最も重要な課題の一つですね。

 あなたが、地元での就職を希望するならば、都会へ出ての就職は最終手段にした方がよいと思います。家族がいる実家から仕事に通えることは、あなたにとってさまざまな面でとても支えになると思うからです。まずは、アルバイトやパート、派遣社員をしながら、正社員や公務員の試験に再度チャレンジしてみてはどうでしょうか。

 できれば、あなたが希望する会社にアルバイトやパートとして入り、社内の内情を知るのもよいと思います。もし、希望する会社がない、もしくは多数ある場合は、派遣社員としてさまざまな会社で仕事をしてみて、自分にあった会社をさがすのもよいと思います。

 しかし、あなたの一番の目的は、いち早く正社員になることですね。それは、あなた一人の問題ではなく、今の日本社会全体の問題ですので、おなじ思いの人々とともに大きな声をあげていく必要があります。ひとりで悩まず、おなじ境遇の全国の若者と連帯し行動していくことをおすすめします。あなたの悩みが、今の日本社会を変える大きな力となるはずですから。

 全労連や民青同盟などに直接行って個別に相談してみてはいかがでしょうか。


舞台女優 有馬 理恵さん

 「肝っ玉お母とその子供達」など多くの作品に出演。水上勉作「釈迦内柩唄」はライフワーク。日本平和委員会理事。


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