2006年3月2日(木)「しんぶん赤旗」

旭川市・国保料訴訟

原告住民の上告棄却

料率不明示の市条例合憲

最高裁


 国民健康保険料の料率を自治体が具体的に条例で定めず徴収するのは憲法の「租税法律主義(租税を法律で定める)」に違反するとして北海道旭川市の杉尾正明さん(70)が旭川市に一九九四―九六年度の国保料の賦課処分取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・町田顕長官)は一日、「市条例は憲法の趣旨に反しない」と述べ、杉尾さんの上告を棄却しました。


 十五人の裁判官全員一致の判決。市側の勝訴が確定しました。

 一方同判決は、租税法律主義を定めた憲法八四条について「国民の義務や権利を定めるには法律の根拠が必要という大原則を租税について厳格に明文化したもの」と指摘。「国保料は租税ではなく、憲法八四条は直接適用されないが、税に類する性質を持つため同条の趣旨が及ぶ」との初判断を示しました。

 その上で市条例について「保険料率の基礎になる賦課総額の算定基準は明確にされており、恣意(しい)的な判断が加わる余地はない」などとし、憲法の趣旨に反しないと結論付けました。

 また杉尾さんは、同市が生活保護基準以下の収入の世帯から国保料を徴収し、保険料を減免しなかったのは憲法二五条違反と訴えていました。これにたいし判決は「恒常的に生活が困窮している状態の者は生活保護法の医療扶助を予定し、国保の被保険者としないものとしている」とのべ、市が減免を認めなかったことは憲法二五条に違反しないとしました。

 判決によると、旭川市の国保条例は保険料率の算定方法のみを定め、具体的料率は毎年告示で確定します。

 一審の旭川地裁は九八年、市条例を違憲として賦課処分を取り消しましたが市が控訴。二審札幌高裁は九九年、条例に保険料を明記していなくても租税法律主義に違反せず、恒常的に生活が困窮する者を保険料免除の対象にしないことは憲法二五条に反しないとして一審判決を取り消しました。


188自治体は料率告示

国民健康保険

 市町村が運営する国民健康保険(国保)の徴収には、保険料として徴収する「国保料」と目的税として課す「国保税」の二方式があります。厚生労働省によると、全国二千四百四自治体の中で、「料方式」は大都市を中心に二百七十三(昨年四月現在)。このうち、旭川市のように保険料率を条例に明記せず、告示で定めている自治体は百八十八あります。

 一方、「税方式」をめぐっては、仙台高裁秋田支部が一九八二年、料率を明記しなかった秋田市の市条例を違憲とする判決を言い渡し、上告審で和解しました。この方式の自治体はいずれも、条例に明示しています。


国民の常識否定、残念

原告が会見

 「国民の常識を否定する判決。残念です」。原告の杉尾正明さん(70)は一日、東京・霞が関で記者会見し、「残念」と繰り返しました。

 杉尾さんは、「負けたら憲法の上に(告示の)掲示板が立つよ、といっていた。最高裁も二十一世紀に入り、いい判決もあったので期待していたが、壁はあつかった」と語りました。

 杉尾さんは、裁判手続きなどを独学し、代理人の弁護士を立てない本人訴訟で裁判をたたかいました。最高裁では大法廷で口頭弁論が開かれ、原告敗訴の二審判決が覆るとの予測もありました。「勝てば奇跡的、(国・行政側を勝訴させる)いままで通りの最高裁なら惨敗すると思っていた。残念ですけどその通りになった」

 杉尾さんは最高裁を「立法府、行政府に屈服し、司法権をみずから放棄した」と厳しく批判。しかし、訴訟したことの結果については「プラスの方が多い」とし、「国保や医療が毎日のように報道されるようになった。国保の資格証明書を発行され病院にいけない人が三十万世帯になっているが、そういう問題が知られてきている。若い人を含めて関心がある。新たな運動が起きると思う」と語りました。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp