2006年3月2日(木)「しんぶん赤旗」

米軍移転反対 日本一の肉牛産地 鹿屋

騒音は牛の大敵

腹にズシリ ストレスこれ以上は!

今も年間4万7000回の飛行


 「米軍が来たら、われわれ畜産農家は黙っていない」―。米軍空中給油機の移転計画が持ち上がる鹿児島県鹿屋(かのや)市。肉用牛日本一の畜産地は今、「米軍くるな」の怒りに沸きたっています。佐藤高志


地図

 鹿屋市内で、黒毛和牛二百頭を肥育する永野祐二さん(36)のプレハブの牛舎。訪ねると、見事な黒毛和牛と鼻をつく、堆肥(たいひ)特有のにおいが出迎えました。

 牛舎に近づくと永野さんは、「牛の前では大きな声で話さないでください。人の声でも牛にとってはストレスになるんですよ」と遠慮がちに話します。耳をすますと直列に並ぶ二つの牛舎からはかすかなクラシック音楽…。

 「音楽が人の声や騒音をかき消してくれます。これも牛にストレスを与えない一つの工夫です」

 薄暗い牛舎では大きな黒牛が寝そべり反すうしていました。南日本に広がる畜産農家の日常の風景。

基地は街のど真ん中に

 ところが…。鹿屋市の畜産農家には他の畜産地帯にない、やっかいな問題があります。海上自衛隊の鹿屋基地が街のど真ん中にどっかりと居座っていることです。

 永野さんの牛舎も基地から東へわずか二キロしか離れていません。牛舎からは基地を飛び立つ自衛隊機の姿が鮮明に見え、小型ヘリが“バラバラ”とプロペラ音を響かせながら旋回訓練を繰り返しているのがわかります。

 鹿屋市の畜産農家が特に頭を痛めるのは、毎年五月に鹿屋基地でおこなわれる航空機の展示飛行です。

 「ジェット機の爆音はすさまじい」「腹に響くごう音」「寝ていた牛はいっせいに跳び起きる」と口をそろえます。

 騒音でストレスを抱えた牛は、どうなるか。

 五十万円で買った子牛を二十九カ月かけて成牛にして約百万円ほどの卸価格で売るのが相場。永野さんの家では一年に百二十頭ほど出荷しています。

 ストレスを抱えた成牛は肉色が落ち、相場から五万円ほど値が落ちます。肉の締まりがなく、さらに肉色が落ちた牛は“ズル”と呼ばれ「値はつかない」。

 そのため永野さんは、これまでも鹿屋基地で展示飛行が行われた後の二週間は出荷を避けてきました。しかし、「ひどくなると一カ月たっても騒音のストレスが抜けない」と嘆きます。

 被害は牛だけではありません。市内で千六百頭のブタを飼育する養豚農家の小島辰男さん(66)。「ブタも神経質な動物です。騒音で発育不良や流産が心配」と話します。「自衛隊だけでなく、米軍の大型機まで増えたら、被害が大きくなる。そうなったら誰が補償してくれるのか」

市民7割超 移駐に反対

 海上自衛隊が航空基地として使う鹿屋基地では、すでに年間四万七千回の飛行回数があります。ほぼ毎日、航空機やヘリの飛行訓練。沖縄にある米軍・普天間基地とほとんど変わりません。

 「鹿屋基地では早朝、航空機のエンジンをかける音が聞こえはじめます。それが朝の四時半ですよ。加えて米軍機ですか! もう騒音に悩まされたくない」。こう訴えるのは、鹿屋市で農業を営む上薗紀男さん(64)です。「政府の決定だから、下々の者はそれに従えという態度。こんな日本政府のやり方は、もう通用しない」と憤ります。

 鹿屋市では米軍移駐に反対する市民の声が圧倒的多数です。地元紙(南日本新聞二月二十六日付)の世論調査では73・6%が移駐に「反対」。「賛成」の15・0%を大きく上回りました。

 議会、町内会なども相次いで、反対の決議をあげています。市内九十五の町内会でつくる連絡協議会の竹川鉄舟会長は、「米軍は本国に帰るべきだ」と力をこめます。

地元意思を受けとめて

 自身も四百頭の牛を飼育する竹川会長。「静かで、ゆっくり休める場所がないと肉牛をまともな商品として育てることはできません。この土地で、米軍と住民の共存はできないというのが畜産農家を含めた市民の総意です」

 もちろん農協も黙っていません。一万九千人の組合員を擁する「鹿児島きもつき農業協同組合」の下小野田寛組合長は、八千二百人の参加で成功をおさめた二月二十六日の市民集会の実行委員長をつとめました。

 下小野田組合長は、こう強調しました。

 「私は保守的な立場ですが、『米軍移駐に反対』ということでは政治的立場の違いは問題ではありません。地域がよくなるために、みんなが一致して協力しあって反対といっている。その地元の意思を日米両政府にはしっかり受け止めてほしい」


 鹿児島県の畜産 全国の飼育肉用牛274万頭のうち鹿児島県は35万頭で日本一です。なかでも黒毛和種の飼養頭数は全国の2割(31万頭)を鹿児島県が占めます。肉用牛飼養頭数日本第2位の宮崎県とならび、南日本の重要な食料供給地として知られています。


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