2006年2月25日(土)「しんぶん赤旗」
torino 2006
フィギュア金 日本初
荒川、美の集大成
競争より表現に喜び
【トリノ=代田幸弘】二十三日行われたトリノ五輪のフィギュアスケート女子で、荒川静香選手(24)が金メダルを獲得しました。フィギュアでの日本選手のメダル獲得は、一九九二年アルベールビル大会で銀メダルを得た伊藤みどり選手以来で、金メダルは初めて。
荒川の表情に、満面の笑みが広がっていく。会場は総立ち。歓声と拍手は鳴りやまなかった。逃げ出したくなる重圧のなかで、会心の滑り。優雅で迫力に満ちた舞いで、ふたたび世界の頂点をつかんだ。
「滑っている四分間、過去の試合のことが頭をよぎった。ここで滑れていることが集大成になるんだ、と」
五歳のときに出合ったスケート。毎日、氷の上でくるくる回ることが楽しくてしかたがなかった少女は、小学生のとき、3回転ジャンプを跳んでいた。抜群の運動能力とわきあがる向上心で、ジュニア時代からトップを走った。十六歳で長野五輪に出場。だが、周りの期待が高くなればなるほど、彼女の表情は能面のようになっていった。
「スケートが面白くなくなっていった。順位や成績にこだわる競技から離れたい」
そんな彼女が変わったのは、大学に進んでから。親元を離れての自活、そして佐藤久美子コーチとの出会い。「練習の大切さ、スケートを生活の一部として受け入れ、楽しく練習することを学んだ」。その佐藤コーチはいう。「静香ちゃんは人と競り合うことよりも、自分が表現したい滑りを追求することに喜びを感じるスケーター」
そして、二〇〇四年の世界選手権で優勝。引退と思っていたが、周りの声に押されて現役を続行。一時は意欲が戻らず苦しんだが、そこに新採点方式が現れた。一つひとつの技が点数化されたことで、新たな挑戦心が生まれた。
五輪前、荒川はこう話していた。「何かに挑んでいるときが、いちばん心が充実している。私の原点は美しい演技。その最高のものを出したい」
それを実現したいま、きっといえる。「スケートが好き」だと。(トリノ=代田幸弘)