2006年2月23日(木)「しんぶん赤旗」
米空母艦載機の岩国移転
額賀発言 住民投票を敵視
「安全」どころか平和脅かす
米海軍厚木基地の空母艦載機部隊を米海兵隊岩国基地に移転する計画の是非を問うため山口県岩国市の住民投票が実施(三月十二日)されます。ところが額賀福志郎防衛庁長官は二十一日の記者会見で、投票結果にかかわらず移転計画を強行する考えを示しました。住民の声には一切耳を傾けず計画を強権的に推し進めようとするもので見過ごすことはできません。
先制攻撃が狙い
「国としては国家・国民の安全、(日本周辺)地域の安定のためにやらなければならないことはやっていかなければならない」。額賀氏は投票の結果にかかわらず計画を進める理由として「国家・国民の安全」を持ち出しました。しかし、これは全くのごまかしです。
今回の計画は米国が世界的に進めている米軍再編の一環です。米国防総省の「四年ごとの国防政策見直し報告」(三日)は、その狙いについて▽「危機発生後の対応から危機発生前の予防的行動」への転換▽「静的な防衛、守備軍から機動的で遠征的な作戦」への転換―を挙げています。先制攻撃の戦争のため米軍を世界のどこへでもより速く展開できる軍隊につくり替えるのが狙いです。
空母艦載機部隊の岩国移転計画もこうした狙いに沿ったものです。具体的には米海軍と米海兵隊の航空部隊を統合し一体的に運用することで「より大きな戦闘能力を提供」(前出の報告)する計画に基づいています。
“殴り込み”強化
もともと岩国基地の海兵航空部隊も、厚木基地の空母艦載機部隊も「日本防衛」とは無縁の海外遠征を任務にした“殴り込み”部隊です。
かつてワインバーガー米国防長官は「沖縄の海兵隊は日本の防衛には当てられていない。米第七艦隊の即戦海兵隊を成し、第七艦隊の通常作戦区域である西太平洋、インド洋のいかなる場所にも配備される」と米議会で証言(一九八二年)したことがあります。岩国の海兵航空部隊は沖縄の海兵隊の一部であり、厚木の空母艦載機部隊は第七艦隊の主力部隊の一つです。
最近も、岩国の海兵航空部隊は沖縄の部隊とともにイラクでの軍事作戦に参加(二〇〇四―〇五年)。アフガニスタンでの作戦で空爆も行っています(〇二年)。厚木の空母艦載機部隊もイラク戦争(〇三年)、アフガン戦争(〇一年)に出撃しています。
今回の計画はこうした部隊を岩国で統合し、海外“殴り込み”能力をこれまで以上に強化しようとするものです。「国家・国民の安全」のためどころか、岩国を日本と世界の平和を脅かす一大拠点にしてしまいます。
自治の原則否定
額賀長官は、岩国市の住民投票のテーマが「地域の問題か、国家全体の問題かを、地域住民のみなさんにはよく考えていただきたい」とも述べました。今回の移転計画は「国策」だから住民は口を挟むなと言わんばかりの時代錯誤の態度です。戦前、「国策」の名の下に中央政府の専断で侵略戦争に突き進んだ誤りを反省し、憲法に明記した地方自治の原則を全く無視するものです。
しかも今回の計画は住民の命と暮らしに重大な影響を与える、まさに「地域の問題」です。計画が強行されれば岩国基地の米軍ジェット戦闘機は四十六機から九十九機へと二倍以上に膨れ上がります。爆音被害や事故の危険の増大は必至です。
米軍新基地建設の是非をめぐり一九九七年に実施された沖縄県名護市の市民投票は反対の声が多数を占め、今も政府の強行を許さない力の源泉の一つになっています。「国民の安全」を守る本当の道は、岩国市の住民投票を大きく成功させることです。(榎本好孝)