2006年2月19日(日)「しんぶん赤旗」
シリーズ米軍再編 基地強化どこまで
横須賀 首都圏に“動く原発”
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「米空母とその艦載機部隊の長期にわたる前方展開の能力を確保する」―。日米両政府が昨年十月末に合意した在日米軍再編計画(「中間報告」)はこう明記しています。この合意にあわせ米海軍は、原子力空母を横須賀基地(神奈川県)に配備すると発表しました。強行されれば、三千万人が住む首都圏に原発一基が設置されるに等しい事態が生まれるとともに、米空母の地球規模での出撃拠点が恒久化されることになります。(榎本好孝)
危険高い原子力空母
米海軍の発表は、現在、横須賀を母港にしている通常型空母キティホーク(重油が燃料)を二〇〇八年に退役させ、後継にニミッツ級原子力空母ジョージ・ワシントンを配備するというもの。
ニミッツ級原子力空母の原子炉は、美浜原発1号炉の出力に匹敵するとされています。空母キティホークの横須賀滞在日数は過去五年間(二〇〇〇―〇四年度)の平均で年二百十日。横須賀には一年のうち約七カ月間も原子炉が置かれることになります。
国の原子力安全委員会が原発事故で人体に影響の及ぶ可能性があるとする半径十キロ圏には横須賀、横浜、逗子、鎌倉、三浦の五市と葉山町がかかり、「区域内の住民数は約77万人」と報じられています(「朝日」〇五年十一月十八日付)。
旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(一九八六年)では、半径三十キロ圏内に避難命令が出されました。人口過密の首都圏に位置する横須賀で原子力事故や放射能汚染が起これば、被害の規模は計り知れません。
しかも、原子力空母の原子炉は、陸上の商業用原発に比べても危険性が高いと指摘されています(別項)。
さらに、米軍の原子力艦船は徹底した秘密主義に貫かれており、日本の国内法でも規制の対象外とされ、政府や自治体の監視も及びません。
日本に寄港する原子力艦船の災害について原子力安全委員会が行った検討(〇四年)でも、原子炉システムの構造が公表されておらず、「異常事態の規模等の把握」や「避難等を実施する範囲を定めるなどの対策を実施することは困難」としています。
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先制攻撃の根拠地に
空母キティホークはこれまで、横須賀からアフガニスタン戦争(〇一年)、イラク戦争(〇三年)に出撃し、次のような役割を果たしてきました。
【アフガン戦争】アラビア海で特殊作戦部隊の洋上基地に。六百―七百人の特殊作戦部隊が乗り込み、アフガンへの輸送のためヘリ約二十機を搭載。残りの艦載機は十五機(輸送機を含む)に限られたものの、約百発の爆弾を投下。
【イラク戦争】ペルシャ湾に展開し、艦載機が五千三百七十五回出撃。約三百九十トンに上るミサイル、爆弾を投下。親爆弾から多数の子爆弾が飛散し、広範囲に人を殺傷する残虐兵器クラスター爆弾も使用――。
原子力空母ワシントンは、こうした“殴り込み”能力をキティホークより格段に高めています。
在日米海軍のケリー司令官はワシントンなどニミッツ級原子力空母について、通常型空母よりも(1)耐久性と速力に優れ、どんな危機にも迅速に対応できる(2)近代的で能力の高い指揮・管制システムを持っている(3)航空用燃料と武器の貯蔵能力が向上し、少なくとも二倍の期間、戦闘作戦にあたれる―と強調しています(〇五年十月二十八日)。
米海軍はまた、先制攻撃の戦争に即応するため「十一個の空母打撃群のうち六個を直ちに展開し、九十日以内に二個を追加配備する」という「艦隊即応計画」を進め、太平洋地域の空母態勢を増強する方針です。
横須賀は、米軍の先制攻撃戦略の根拠地としていっそう位置付けを高め、飛躍的に強化されることになります。
“海外母港”を永久化
横須賀に米空母が配備されたのは七三年十月。その際、政府や米軍は 「(配備は) おおむね三年」「艦載機の離着陸訓練は実施しない」などと説明しました。ところが、約束はすべてほごにされました。
米空母が海外に母港を置いているのは、横須賀だけ。人口密集地での艦載機の離着陸訓練は、米本土でも実施されていません。世界に類例のない異常な事態です。
原子力空母の問題についても、政府は当時、横須賀市に「原子力推進航空母艦の本邦寄港は現在は全く考えられていない」(七二年十一月十五日付の外務省文書)と説明。これを受け、空母母港化を受け入れた横須賀市も「原子力航空母艦の寄港は将来にわたってもないよう特に配慮されたい」(同年十一月二十一日付の外務省あて文書)と求めていました。
しかし、原子力空母の寄港も八四年に強行されて以来繰り返され、今度は母港化が発表されたのです。米原子力空母の海外母港はもちろん世界で初めて。それは、“米軍基地国家・日本”の永久化です。
陸上の原発にはない原子力空母の危険性
●狭い船体内に設置されているため、炉心設計に余裕がない
●放射能防護のための構造も余裕がない
●動く船体に設置されているため、絶えず炉心が振動や衝撃にさらされる。艦載機が頻繁に離着艦
●海難事故や交戦による原子炉の破壊、故障
●ミサイル(場合によっては核兵器)や高性能火薬など危険物と同居
●軍事作戦による原子炉の無理な出力調整
(「原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会」のホームページなどから)
米第7艦隊の拠点
横須賀基地は、西太平洋からインド洋までを作戦範囲にする米第七艦隊の拠点。現在、旗艦ブルーリッジ(揚陸指揮艦)や空母キティホークをはじめ、ミサイル巡洋艦やミサイル駆逐艦など計十一隻が母港にしています。
ミサイル巡洋艦とミサイル駆逐艦は計七隻で、すべて高性能レーダーを持つイージス艦。米軍の先制攻撃戦略の一環である「ミサイル防衛」の前進拠点としても強化が進んでいます。西太平洋とインド洋に加え、中東・ペルシャ湾や紅海で原子力潜水艦が行うすべての作戦を指揮する潜水艦司令部も置かれています。
原子力空母ジョージ・ワシントン 全長三百三十三メートル。満載排水量九七、〇〇〇トン。一九九二年に就役した新鋭艦で、イラク戦争にも参加。現在の母港は米バージニア州ノーフォーク。