2006年2月12日(日)「しんぶん赤旗」

風刺画問題

イスラムの怒りなぜ

宗教を冒とく、侮辱

圧倒的多数は暴力を否定


 デンマーク紙が掲載し欧州各紙が転載したイスラム教預言者ムハンマドの風刺画にたいする抗議が中東の範囲を超え、アジアやアフリカにも及び、一部は大使館襲撃など暴徒化しています。イスラム教徒の怒りはなぜ広がったのでしょうか。 (カイロ=小泉大介)


 「風刺画掲載で受けたイスラム教徒の痛みは、四年前の米同時多発テロで世界が受けた痛みと同じかそれ以上のものがあると思います」

 カイロ大学政治学部のアブデル・シャーディ教授は語りました。

 風刺画がなぜ人々を傷つけるのか。

 第一の理由は、イスラム教が神を超越的で唯一絶対的な存在とし偶像崇拝を厳しく戒めていることにあります。偶像崇拝がタブーであることは、神の意思を預言したただ一人の人間であるムハンマドに関しても例外ではありません。

■深い敬愛対象

 第二に、ムハンマドは世界中で十数億人といわれるイスラム教徒から深く敬愛されています。イスラム世界の多くの親が、「ほめたたえられる者」を意味するムハンマドの名を子どもにつける事実がそれを物語っています。

 風刺画はこのムハンマドがかぶるターバンを爆弾に模し「テロリスト」に見立てました。タブーを破っただけでなく、「本来、平和の宗教であるイスラム教そのものへの冒涜(ぼうとく)、侮辱だ」との怒りをかき立てたのです。

 シャーディ教授は、問題の発端がデンマークだったこともイスラム教徒を大きく傷つけたとみています。

 「デンマークはもともとイスラム世界とは良好な関係を保っていました。同時多発テロをうけ米国がアフガニスタンやイラクで戦争を開始した後も、デンマークの国民や関連施設などへのイスラム教徒による『攻撃』は伝えられてきませんでした。しかし今回、そのデンマークさえ、イスラム教を理解しておらず、これくらいの『風刺画』を掲載しても構わないと考えていることが明らかとなった。失望が大使館放火に至った背景にあると考えます」

■抑圧への不満

 イスラム教徒のなかに蓄積されてきた国際的な抑圧への不満を指摘する声もあります。

 エジプトの政府系紙アルアクバルのジャラル・サイード報道局長はいいます。

 「アフガニスタンとイラクの戦争では、同時テロとまったく関係のない多数の無辜(むこ)のイスラム教徒が殺害されました。そして戦争の矛先はシリアやイランにも向けられようとしています。パレスチナでは米国が求めた民主的選挙が行われたにもかかわらず、結果が気に入らないからと援助停止をちらつかせています。今回の風刺画は、イスラム世界に広がってきた不正義と占領に対する反発という、火に油を注ぐ結果になりました」

 風刺画掲載を「表現の自由」を盾に擁護する議論に関し、エジプトの英字誌『アルアハラム・ウィークリー』最新号は、次のように指摘しています。

 「ブッシュ米政権が(イラク戦争で犠牲者の実態を詳報したアラブ衛星テレビの)アルジャジーラ本部の爆撃まで計画していたことが暴露されたのに、西側政治家はこれを非難しなかった。その一方で、今回『自由』を唱えている。奇妙なことだ」

 しかしどんな理由や背景があっても、大使館襲撃や放火などの暴力を正当化できないとの点で、イスラム世界の圧倒的な論調は一致しています。

 サイード局長は「抗議行動はデンマーク製品の不買運動などを通して行うべきであり、根本的な解決のためには双方が歩み寄り協議して理解を深める以外にない」と指摘。またシャーディ教授も「暴力による抗議はさらなる暴力を生み出すだけです」と強調しました。


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