2006年1月29日(日)「しんぶん赤旗」

米兵犯罪が止まらない


 昨年末から、米兵による犯罪が全国で頻発しています。在日米軍のライト司令官も「日米同盟は重大な試練に直面している」と危機感をあらわにするほどの深刻な事態です。

 (田中一郎、榎本好孝)

■「反省」直後にも続発

 「(加害米兵が)二度と世の中に出ることがないよう、親族一同願うばかりです」

 神奈川県横須賀市で米兵に殺害された女性会社員、佐藤好重(よしえ)さん(56)の告別式(十二日)。遺族を代表した三男の克樹さんは、涙ながらにあいさつしました。

 事件は、残虐でした。

 三日朝、米海軍横須賀基地を母港とする空母キティホーク乗組員の上等水兵は雑居ビルの一階踊り場付近で、佐藤さんの顔や腹に殴るけるを繰り返しました。死因は内臓破裂。現金約一万五千円を奪いました。

 昨年末から、米兵による犯罪が続いている中での凶行でした。

 東京都八王子市では、空母キティホーク艦載機部隊の上等水兵が、小学三年生の男児三人をひき逃げ(十二月二十二日)。沖縄県では那覇市で酒に酔った海兵隊員がタクシーの屋根で跳びはね、沖縄市では別の海兵隊員がタクシーの屋根にある表示ライトを手でたたき割るという事件(同二十四日)も起きました。

 佐藤さん殺害事件を受け、在日米海軍は「哀悼の意を表す」として一月五日から「反省期間」を設定し、夜間外出禁止令を出しました。

 しかし、その後も…。

 ――七日、長崎県佐世保市で、米海軍佐世保基地を母港とする強襲揚陸艦エセックス乗組員の二等兵曹が、歩いていた女性をひき逃げ。

 ――同日、沖縄県北谷町の米海兵隊キャンプ瑞慶覧内で、タクシー運転手が、米兵からナイフで脅され、売上金約五千円などが奪われる。

 ――十八日、横須賀基地に所属する二等兵曹が、酒に酔って横須賀市内の中学校に侵入。

 ――二十一―二十二日、沖縄の米空軍嘉手納基地で酒による不祥事が頻発。民家に不法侵入した空軍兵が、屋根によじ登る。

 ――二十二日、海軍上等水兵が佐世保市で、公衆電話で通話中の主婦から、手提げかばんをひったくる。

 米軍の「反省」を打ち消すかのように事件は続いたのです。

 佐藤さん殺害事件への怒りが高まる中、米海軍の制服組トップのマレン作戦部長は十六日、「日本に駐留する海軍関係者の綱紀粛正の強化に努める」とした声明を発表しました。

 空母キティホークが所属する第七艦隊のグリナート司令官と在日米海軍のケリー司令官も十八日、書簡を発表。改めて殺害事件への「心からの深いおわび」を表明しました。

 ところが、この書簡の中で「雨降って地固まる」との日本のことわざを引き、「日米同盟がより一層強化されるよう願う」と述べる無神経さを露呈しました。“今回の事件のおかげで、かえって日米同盟はこれまで以上に強化される”と言わんばかりの表現に怒りの声が上がり、在日米軍のライト司令官は二十三日、「(日本語に関する)初歩的な誤りを犯した」と謝る事態になりました。

 地元の神奈川新聞は「多くの市民が強い憤りを感じている」「日本の法律を犯す者に横須賀にいる資格はない」(二十二日付社説)と強く批判しています。

■背景に何が…

 事件が相次ぐ背景には何があるのか。

 ケリー在日米海軍司令官は「すべての問題の根本には飲酒がある」として、十九日に深夜の飲酒禁止令を出しました。

 米国防総省の「軍人の品行に関する健康調査報告」(二〇〇三年十月)によると、米軍全体の飲酒に伴う不祥事の件数・薬物使用者数は一九八〇年代以降、低下を続けていました。それが九八年を境に増加。とりわけ、海軍と海兵隊で増加傾向が顕著です。

 同年以後、米軍はユーゴ空爆(九九年)、アフガニスタン戦争(〇一年―)、イラク戦争(〇三年―)と、無法な戦争に明け暮れています。横須賀市で佐藤さんを殺害した水兵が乗り組む空母キティホークも、〇三年にイラク戦争に参戦。在日米軍のさまざまな部隊がイラクやアフガンに派兵されています。

 常に戦場と隣り合わせであることによる米兵の世界的な軍紀の乱れが、在日米軍でもあらわれている可能性があります。

表

■基地あるが故の事件

 ▽旧安保条約が発効した五二年度から〇四年度までに、米軍が日本で引き起こした事件・事故は二十万一千件を超え、それによる日本人の死者は千七十六人に上る(七二年の施政権返還前の沖縄分を除く)。

 ▽このうち七三年から〇四年までに米兵が刑法犯で検挙された数は六千九百三十三件に達する――。

 日本共産党の赤嶺政賢衆院議員が防衛施設庁や警察庁に要求して明らかにさせた数字です。米側からは幾度となく「謝罪」の言葉が繰り返され、「綱紀粛正」や「再発防止」が叫ばれてきたにもかかわらず、事件・事故は一向に後を断ちません。それは“基地あるが故の事件・事故”であることを証明するものです。

 米側の「謝罪」も、日本国民の生命と財産を真剣に守る立場から出ているものではありません。

 ケリー在日米海軍司令官は、今回の飲酒禁止令に関する米兵向けの説明で、「これは戦略の問題」だと述べています(横須賀基地機関紙「シーホーク」一月二十七日号)。

 その理由として、横須賀基地への原子力空母配備など、「極めて重要」な米軍再編が進んでいることを指摘。「われわれは日本の政府・国民との関係で敏感な局面」にあり、「われわれの行為のすべてが…在日米軍のプレゼンス(存在)を削減または除去したがっている人々に注目されている」と述べています。

 関係自治体や住民から一斉に反発の声が上がっている米軍再編計画を進めるため、反対の動きを勢いづかせるような口実は与えてはならないというのが本音です。

 日米両政府が進める在日米軍再編計画は、米軍基地を永久化し、さらに強化するのが狙いです。それは“基地あるが故の事件・事故”を永久化し、拡大しかねないものです。その場しのぎの“対策”では何の解決にもなりません。

■米軍に特権与える地位協定

 国内での犯罪にもかかわらず、日本側が逮捕できず、裁くこともできない―。この間の米兵事件で浮かび上がったのは、在日米軍の治外法権的特権を定めた日米地位協定の問題点です。

 東京都八王子市で起きたひき逃げ事件では、米兵の身柄は「公務中」を理由に引き渡されませんでした。

 根拠は、地位協定第一七条の規定です。

 犯罪を起こした米兵が「公務中」であれば、第一次の裁判権が米側にあると定めています(第三項a)。

 この場合でも、日本側は米側に裁判権の放棄を求めることができます。しかし、日本政府はこれまでただの一度も放棄を求めたことはありません。しかも、求めがあっても、米側は「好意的考慮を払わなければならない」(第三項c)としているだけで、放棄の義務はありません。

 「公務外」であれば、どうか。

 地位協定第一七条は、日本側が起訴するまでの間、米側が身柄を確保すると定めています(第五項c)。

 このため、基地内に逃げ込んだ米兵がそのまま海外に逃亡してしまう事件も起きています。

 九五年の沖縄での米海兵隊員による少女暴行事件では、米側が容疑者の身柄引き渡しを拒否したため、全国で怒りが広がりました。

 衝撃を受けた日米両政府は同年、「殺人又は強姦という凶悪な犯罪」での起訴前の身柄引き渡しについて合意しました。しかし、この場合も、日本側の求めに米側が「好意的考慮を払う」とされました。米側に特権が与えられていることに、変わりはありません。

■近年の米兵による主な凶悪犯事件 (01年〜06年1月)

 【2006年】

 ◆神奈川県横須賀市での強盗殺人事件

 米兵が1月3日、横須賀市内のビル1階踊り場付近で、女性の顔面や腹部を殴打したり、足げにして殺害し、現金を強奪。

 【05年】

 ◆神奈川県横浜市などでの連続路上強盗事件

 米兵が他の被疑者2人と共謀の上、5月13日、横浜市内のビル出入り口で女性を引きずり倒すなどして金品を強奪しようとしたが未遂に終わり、傷害を負わせる。さらに別の女性を突き飛ばして転倒させるなどしてハンドバッグなどを強奪。米兵らは同日、横浜市と大和市で計6件の強盗などを繰り返していた。

 ◆沖縄県沖縄市でのタクシー強盗事件

 米兵が5月11日、沖縄市内の路上に停車中のタクシー車内で運転手の背後から首に両腕を巻きつけるなどして現金などを強奪。

 【04年】

 ◆岩手県盛岡市での殺人未遂事件

 米兵2人が共謀の上、6月26日、盛岡市内の駐車場で、殺意を持ってメリケンサックで男性2人の頭部や顔面を殴打し、傷害を負わせた。

 ◆東京都渋谷区での強盗致傷事件

 米兵が2月10日、渋谷区内の店舗で商品を万引きして店員らに発見され、逮捕を免れるため、同店員らの顔面を殴打するなどして傷害を負わせた。

 ◆長崎県佐世保市での婦女暴行事件

 米兵が1月17日、佐世保市内の駐車場で、女性を駐車中の自動車内に押し込み暴行。

 【03年】

 ◆沖縄市でのタクシー強盗事件

 米兵が12月14日、嘉手納基地からタクシーに乗車し、沖縄市内で運転手の顔面などを殴打して料金を支払わずに逃走。

 ◆沖縄県宜野湾市での強盗致傷事件

 米兵3人が共謀の上、10月23日、宜野湾市内の路上で男性の顔面を殴打するなどして現金などを強奪し、傷害を負わせた。

 ◆佐世保市での強盗致傷事件

 米兵が8月18日、佐世保市内のホテル事務所で、従業員の女性にナイフを突きつけるなどして現金を強奪し、傷害を負わせた。

 ◆東京都福生市での殺人未遂事件

 米兵が7月21日、福生市内のマンションで、殺意を持って包丁で男性の右胸部などを突き刺し、傷害を負わせる。

 ◆東京都新宿区での強盗致傷事件

 米兵が他の被疑者と共謀の上、7月2日、新宿区内の貴金属店で、スタンガンで同店経営者の男性に電気ショックを与えるなどして、腕時計などを強奪し、傷害を負わせた。

 ◆沖縄県金武町での婦女暴行致傷事件

 米兵が5月25日、金武町内で、女性の顔面を殴打するなどして暴行し、傷害を負わせた。

 ◆沖縄市での強盗致傷事件

 米兵2人が共謀の上、5月2日、沖縄市内の路上で、男性を押し倒し足げにするなどして現金などを強奪し、傷害を負わせた。

 【02年】

 ◆沖縄県具志川市(当時、現うるま市)での婦女暴行未遂事件

 米兵が11月2日、具志川市内の路上に駐車した自動車内で女性を押さえつけるなどして暴行しようとした。

 ◆神奈川県藤沢市での自動車強盗事件

 米兵2人が共謀の上、8月12日、藤沢市内の路上で、信号待ちをしていた自動車に乗り込み、運転手の女性にエアガンをちらつかせるなどして同自動車を強奪。

 ◆横須賀市での強盗致傷事件

 米兵が8月11日、横須賀市内のビルの一室に侵入し、男性の顔面などを殴打するなどして金品を強奪しようとし、傷害を負わせた。

 ◆神奈川県海老名市での連続強盗事件

 米兵3人が共謀の上、8月1日、海老名市内の路上で、男性にモデルガンを突きつけるなどして携帯電話を強奪し、同日、同様の手口で別の男性からも現金を強奪した。

 【01年】

 ◆横須賀市でのタクシー強盗致傷事件

 米兵3人が共謀の上、9月5日、横須賀市内のタクシーに乗車し、運転手の男性の顔面を殴打するなどして現金を強奪し、傷害を負わせた。

 ◆沖縄県北谷町での婦女暴行事件

 米兵が6月29日、北谷町内の駐車場で女性をボンネットの上に押さえつけるなどして暴行。

 ◆北谷町での連続放火事件

 米兵が1月15日、飲食店2軒に放火し焼失させ、同月20日、別の飲食店にも放火し、他の店舗に燃え移らせて飲食店5軒を焼失。

 (警察庁が日本共産党の赤嶺政賢衆院議員に提出した資料から作成)


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