2006年1月17日(火)「しんぶん赤旗」

“労働条件切り下げ生む”

労組などが反対運動

EUのサービス業自由化案


 【ベルリン=片岡正明】欧州連合(EU)域内でサービス業市場の自由化を促す「ボルケスタイン指令案」が欧州で大きな問題となっています。欧州議会での採決日程をにらんで、欧州労連(ETUC)や欧州社会フォーラムは二月初めに各地で相次いで大規模な反対デモを行います。

■「出身国」の待遇

 指令はEUの法律。指令が決定されると加盟各国はそれに沿って国内法を制定、施行しなければなりません。サービス業の市場自由化はEU経済戦略の一つの柱。二〇〇四年、EUの執行機関、欧州委員会のボルケスタイン欧州委員(域内市場担当)=当時=のイニシアチブで提案されたもので、対象にはホテル、レストラン、レンタカー、建設、不動産をはじめ、建築や法律のアドバイス、公共的な性格を持つ保健サービスも含まれます。

 問題になっているのが進出企業に適用される法律の「出身国主義」。EU域内の他の国に進出した企業には、進出先の法律でなく、出身国の法律が適用されます。そこで働く労働者の待遇を規制する法令も同じ。低賃金で悪い労働条件の国の会社は、他国でも同じ条件で雇用ができるようになります。

 統合が進んだとはいえ、EU内では歴史的に労働者の権利をかちとってきたフランスやドイツなどと、十数年前に市場経済がスタートし、労働条件の整備が遅れている東欧諸国とでは賃金水準や労働時間、雇用形態などでまだ差があります。

 欧州の労組は、東欧諸国の低賃金と長時間労働を持ち込む「社会的ダンピング」が生じ、労働者の権利保護や高福祉の制度を持つ「欧州社会モデル」が脅かされると強く懸念しています。

■反対集会を計画

 指令案は現在、EUの議会、欧州議会の特別委員会で可決され、本会議で審議されています。欧州議会会派のうち、「欧州統一左翼・北欧緑左翼連合」が指令案阻止への動きを強めていますが、議会で多数を占める保守の欧州人民党、自由民主などが賛成の方向で動いています。

 ETUCはフランス労働総同盟(CGT)の要請を受け、大規模な反対デモ・集会を二月十四日に欧州議会のあるストラスブールで行うことを決めました。経済のグローバル化(地球規模化)問題にとりくんでいる欧州社会フォーラムも二月十一日にストラスブールで反対デモを計画。アタック(市民を支援するために金融取引への課税を求めるアソシエーション)も同日ドイツ全国に参加を呼びかけた集会をベルリンで行います。

■批准否決の一因

 この指令案をめぐっては、仏、オランダで昨年、欧州憲法批准の国民投票が行われた際、欧州憲法の「新自由主義の具体化」と批判され、批准否決の一因となりました。

 モンクスETUC書記長は、ことし前半、輪番制のEU議長国になったオーストリアのシュッセル首相に、経済成長の追求だけでなく、雇用、社会政策、環境とのバランスに配慮した「社会的欧州の建設がEU発展の中心でなければならない」と申し入れ、各国国内市場の社会的側面を重視した指令案でなければ受け入れられないと表明しました。


■欧州労働問題専門家 

■フランク・デッペ氏に聞く

■労組などが反対運動

 ボルケスタイン指令案の内容と背景について、欧州労働問題専門家、ドイツ・マーブルク大学のフランク・デッペ政治学教授に聞きました。(マーブルク=片岡正明)

 指令案は欧州連合(EU)で資本の自由化、サービス・労働力・商品の自由化条項を一部変更するもので、大きな問題があります。

 大きな変更は二点です。EU加盟各国の企業がEU内で自由に支社・支店を開設できることと、その支社・支店には所在地の国の労働法ではなく、本社のある国の労働法が適用されるということです。

 EU二十五カ国の間には大きな賃金格差、労働条件の差があります。

 ドイツでも建設作業員や看護師として、ポーランドなど東欧から就労している労働者が増えています。指令案は出身国主義で労働条件・賃金をダンピングし、事実上、東欧からの労働者で西欧の労働者を入れ替えさせます。

 すでにドイツでは建設業など一部の企業で労働条件の切り下げが行われています。

 低賃金の国から来る労働者を支援し、その国の労働運動を支援することが必要です。わたしたちがたたかわなくてはならないのは、不法就労の中に生き延びる道を求めざるを得ない人に対してでなく、不法就労を強制し多額の収入を得ている人たちに対してです。

 とりわけ、東欧と西欧は大きな格差があり、資本はこの大きな差をEU内の労働市場開放圧力として利用しています。東西の労働者を競わせ、政治的に各国の労働者が互いに対立するようしむけています。

 ボルケスタイン指令案のねらいの一つは労組の弱体化です。われわれは国内レベルの労働運動をまず強化するとともに、欧州レベルの連帯も強化しなければなりません。


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