2006年1月3日(火)「しんぶん赤旗」

新春対談 下

一橋大学大学院教授 渡辺治さん

アジアの平和を念頭に作られたのが九条

日本共産党委員長 志位和夫さん

世界の平和秩序づくりへ九条は土台になりうるもの


世界の構造変化と九条の値打ち

 志位 国民多数の結集をすすめていくうえで、「海外で戦争をする国」づくりという改憲の狙いを明らかにするとともに、広く世界に目をむけて、九条がいま世界的にどういう値打ちをもっているかを明らかにしていくことが大切だと思います。

 “「普通の国」にならないと肩身が狭い”とか、“九条を持っていると一人前の国ではない”などの宣伝が、それなりに国民をとらえています。ですから、いったい世界の中で九条が今どういう位置にあるのか、この大きな世界論が運動の側でたいへん大事ではないかと思っています。

 私流に整理すると、日本国民は、憲法制定当初、九条に二つの決意を込めたのだと思います。一つは、二度と戦争しないという不戦の決意。もう一つは、それにとどまらないで、恒久平和主義を極限まですすめた理想をかかげることで世界平和の先駆の国になるという決意です。後者の方は、米ソ対決の時代は、「そんなこといったって九条は理想論にすぎない」という感じで、光があたらない状況もありました。しかし、ソ連が崩壊して、新しい世界になってみるとだいぶ様子が変わってきた。

 九九年のハーグ世界市民会議での「公正な世界秩序のための十の基本原則」という決議の第一項目に日本国憲法第九条が入りました。それから、GPPAC(武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ)という運動があって、世界百十八カ国のNGO(非政府組織)が国連本部に集まって会議が開かれました。ここでも「日本国憲法第九条は…アジア太平洋地域全体の集団的安全保障の土台となってきた」と言われるわけです。

 九条は単に日本の平和的進路にとって重要なだけではなくて、世界の平和秩序をつくるうえで土台になりうる一つの原理だと、いま世界が見始めていると思います。

 この根底には、世界の構造変化があります。地球的規模での植民地体制の崩壊。軍事同盟の解体と弱体化。それにかわって、地域ごとの平和の共同体が生まれている。ASEAN(東南アジア諸国連合)、上海協力機構、南米諸国共同体、アフリカ連合(AU)、それにEU(欧州共同体)もやはり平和という点では一つの共同体をなしている。地域ごとに仮想敵をもたない平和の共同体がたちあらわれてきた。

 そういう中でイラク戦争に反対し、国連憲章を守れという形で地球的規模の大闘争が空前の規模で起こったわけです。そういう「平和のルール」というのを考えると、九条が一番すすんだ規範じゃないかと見直されているというのが、いまの動きだと思います。

 渡辺 いまの話と関係するのですけれども、私は、九条の新しい意義というのを、いま、アジアとの関係で改めて見直されなければいけないと思います。九条というともっぱら日本の平和という視点から問題が論ぜられてきましたけれど、第二次世界大戦が終わって日本が敗戦した直後に、九条が日本国憲法に入った意義を考えると、そもそもは「日本の」平和ではなくて、「アジアの」平和というものを最も中心的な眼目に考えていた。

 第二次世界大戦前のアジアで戦争の策源地はすべて日本でしたから、日本帝国主義がいなければアジアで十年をおかずに相次いだ戦争はなかった。二千万の人々は死ななかった。そういう痛切な反省にもとづいて、アジアの平和を実現し、ひいては世界の平和を実現するために、九条が必要だというメッセージがあったと思うんです。日本が侵略戦争をしない、軍隊をもたないことによってアジアに平和を実現する。

 だから改憲派の人たちがいっている「九条なんて一国平和主義じゃないか」と非難するのは、まったくの間違いで、もともと国際的なアジアの平和を念頭においてつくられた規定だと思います。

 志位 そうですね。

 渡辺 冷戦時代に、日本が行かない代わりにアメリカが出ていって、ベトナムだ、朝鮮だという戦争を始めたので、その点が非常にあいまいになったけれども、九〇年代に入って米ソ冷戦が終わってから、日本は改めてアメリカに追随してアジアに軍隊を派兵しようとしている。

 いまやろうとしている改憲派のアジア構想と九条は、真っ向から対立するものだということをきちんと見る必要があると思います。

 いま「靖国」などの問題で日本のアジアからの孤立という問題が深刻になっていますけれども、考えてみると、日本の戦後の繁栄というのはなんで起こったのか。政府は、戦後冷戦にかまけて、戦争の責任とか、きちんとしたアジアに対する謝罪は明確にせずあいまいにしてきました。それにもかかわらず六〇年代以降の日本の経済成長というのは、アジア地域に対する輸出によって、実現していくわけです。

 アジアの人々が日本の商品とか日本の企業を招いた背景には、日本は非常にあいまいな点はあるけれど、少なくとも戦前のように軍事力でもって自国の意思を押しつけることはしないという安心感、信頼関係があった。

 九〇年代に中国が市場開放してから、いま日本企業は五千社が中国に行っています。これはやはり非常に大きなことで、全世界で日本企業は二万社以上海外に出ていますけれども、そのうちの一万社以上はアジアに行っているんです。アジアが日本の企業を受け入れているということの、後ろに九条があった。自民党政治はそうした戦後のあり方を今壊そうとしているわけです。

 これはやはり考えなければいけない問題です。自衛隊は絶対海外に出さないということを改めて外交の基本にすえていくのか。それとも「靖国」だ「改憲」だと、アジアにたいする別の日本のメッセージを出すのか。このことが問われている気がします。

 志位 それはとても大切な視点だと思います。日本と東南アジア、韓国や中国の経済的な交流と関係がこれだけ強まった一つの背景には、九条があると思います。たとえば、かつて日本軍国主義が侵略した諸国に進出した日本企業と、現地の人々とトラブルがおこる。相手は「また経済侵略か」ととる。それにたいして、一番わかりがいいのは、「日本には九条があるんですよ。軍事力で押しつけたりしない国になったんですよ」ということだったそうです。九条を投げ捨てるというのは、それをぶち壊しにして、不戦の約束を反故(ほご)にするということです。それに歴史問題での無反省といった問題が、「靖国問題」というかたちでくわわると、これはアジアで生きていく道はなくなることになる。

 渡辺 アジアの人々は、日本が靖国問題を日本帝国主義の侵略戦争に対する反省の問題としてと同時に、いま米軍のあとにくっついて米軍再編の目指しているような、力による秩序維持に乗り出そうとしていることと結びつけて、非常に憂えています。

 志位 歴史問題と対米追随の二つの問題が結びついての批判だと思いますね。

 渡辺 だから、小泉さんが靖国問題で「平和のために祈っている」といっても、小泉さんの中にアジアに対して日米同盟の力で出ていこうというものがあるから、納得できない。それに対する警戒心が非常に強くなるのは当然だと思います。

■アジア共同体と九条――深く通じ合うものが

 志位 私は、いまの東アジアがどういう情勢を迎えているかという認識が、非常に大事だと思っています。

 さきほど、地域ごとに平和の共同体がつくられていると話したのですけれども、そのなかでも注目すべきはASEANだと思います。東南アジアといった場合、ベトナム戦争までは対立と紛争が絶えなかった地域だったのですが、一九七六年に東南アジア友好協力条約(TAC)が結ばれました。

 TACの条文をあらためて読んでみたのですけれども、国連憲章と一九五五年のバンドン会議(インドネシアのバンドンで開かれたアジア・アフリカ会議)の「十原則」(国連憲章の原則を踏まえ、軍縮と核兵器廃絶、植民地・従属国の人民の独立という形で民族自決権を明確にした宣言)を踏まえて、紛争の平和解決、民族の自決、武力行使の禁止という、九条の精神に深く通じる内容になっています。この間締約国が広がり、いま二十カ国が加入し、地球人口の53%にあたる人々が参加しています。

 アメリカは、イラクでは無法な軍事的な覇権主義の猛威をふるっているし、この基本は変わっていませんが、東アジアは軍事一辺倒ではなかなか抑えられない。そこで、外交戦略も持つわけです。中国とも外交的関係を前進させる。ASEANとも首脳会談をもって、「TACの精神を尊重する」といいました。アメリカさえ受け入れざるをえない平和の激動が起こっているのが東アジアだと思うのです。

 昨年末の東アジア首脳会議でも、「TACを原則にして将来、東アジアの共同体をつくる」ということを確認しました。ところが日本外交の存在感がまったくない。それどころか、平和の共同体をつくることにいろいろな障害をもちこんでいる。そういうなかで、わが党の大会決議案で、東アジアの共同体づくりに積極的貢献をするには、四つの転換が必要だという提案をしました。

 一つは、過去の侵略戦争と植民地支配を正当化する逆流を克服することです。

 二つ目は、アメリカ一辺倒をあらため、自主・自立の立場に立った外交戦略でアジア諸国との平和の関係を探求することです。

 三つ目は、軍事偏重をやめ、外交による問題解決に徹する姿勢を確立することです。憲法九条を守りぬくことは、その大切な要です。

 四つ目は、いかなる国であれ覇権を認めず国連憲章にもとづく平和秩序を守ることです。

 この四つの転換は、私たちが民主的な政権をつくる前にも、すぐにでもやっていかないといけない。それが、日本の平和にとってもプラスになるし、アジアの平和と安定にも寄与する道だということだと提案しています。

 渡辺 おっしゃったことは非常に大事だと思います。いま、東アジア共同体論というのは、日本でもある種のブームになってますよね。

 志位 ええ。

 渡辺 いまの改憲をめぐる動きは、そうしたアジアがめざし模索している方向と非常に矛盾した動きになってしまっている。

 たとえば、財界もアジアを抜きにしては生きていけないと考えているわけですよ。ですからきちんと日本が謝るところは謝らないとダメだということで、九〇年代の前半期には、経済同友会などはいろんな報告書の中で一方では憲法の見直し、アジアの中でリーダーシップをとるには自衛隊も出ていかないといけないというふうなことを言いながら、他方では、きちんと侵略と植民地支配を謝らなければいけない、そのためには近現代史の教育も見直さなければいけないということも言っているんです。

 それは財界の構想のもっている大きな矛盾でもあると思います。

 志位 そう思いますね。グローバル化の流れというのは避けることのできない流れですけれども、それが覇権主義を押しつける流れではなくて、本当に対等平等の民主的な関係を築いていくということを構想することが、じつは日本の経済界、企業にとっても大局的にはプラスになるんです。その最大の資産が九条で、最大の障害物が靖国問題だと思います。

 渡辺 財界の中にも二つの考え方が矛盾して存在しています。

 一方で、アメリカを中心としたグローバル市場が安定しないと、企業はやっていけない、そのためにはアメリカと協力して日本の自衛隊も世界の警察官として使わなければいけないという考え方がある。同時に、アジアのなかでともに経済活動をやっていかないとどうしようもないという考え方もあるんです。

 この二つの魂をつきつめていくと、どっちをとるのかという選択がつきつけられるのですけれど、財界や外務省も、この両方を言っているんです。一方では日米基軸といって湾岸戦争以降、自衛隊をとにかく派遣しようとしてきた。同時に、アジアに対して今までどおりのやり方ではいいはずがないと思っているんですね。だから従軍慰安婦の問題について一定の政府関与を認めたり、天皇の訪中を実現したりもした。九五年の村山首相談話もそうです。

 それがこの二〇〇〇年代に入ってから東アジア共同体という問題が出てきて、本格的にアジアのなかで日本がどういう位置にいなければならないかと考えたときに、この二つの路線というのは実は非常に大きく矛盾する。アジアのなかでの日本というのを考えると、首相の靖国参拝問題はなんとかしてくれということになる。経済同友会の北城代表幹事や日本経団連の奥田会長があいついで首相の靖国参拝に自重を求めたのはそういう思いのあらわれでした。

 いま本当に大切なことは、アジアのなかでリーダーシップをとるとはどういうことかを、国民的に議論する場というのがないことです。これはつくっていかなくてはいけない。財界だってどっちの立場にいくのかをつきつめて、アジアと仲良くするなら九条改憲ではなくむしろ九条を全面的に掲げていくべきなのです。

 志位 経済界のなかでも「九条の会」の動きがあるようですが、財界全体をみるとそういう大局観に立って九条を考えようという立場はなかなかあらわれてきませんね。

 矛盾という点では、私は、小泉首相がAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会談が終わったあとの記者会見でのべたことが傑作だと思うんですよ。記者団になぜ靖国参拝を続けるのかと問われて、「私は、平和を願って参拝しているんです。日本の自衛隊は一発の銃弾も撃っていません、一人の人も殺していません。日本は平和国家なんです。だから私は平和を願って参拝しているだけなんだ」と答えたという。「一人も殺していない」のはだれのおかげなのか。都合のいいときだけ“九条頼み”なのです(笑い)。これはまさに大矛盾ですね。

 靖国問題は、九条の問題と関連は深いけれども、改憲派も護憲派も、侵略戦争正当化は許せないという太い一致点がつくりうることにも注目することが大切です。だいたいブッシュ大統領その人が、過去の日本の植民地支配にたいする批判の演説をしたくらいですからね(笑い)。アメリカの政府や議会でも問題になっている。歴史問題、憲法問題のそれぞれについて、国民的討論で前向きの方向をつくっていくことが大事だと思います。

 渡辺 靖国の問題、日本の侵略問題というのは、過去の問題ではないのです。東アジア共同体の問題とも日朝国交正常化の問題とも不可分にからんでいる。この問題を国民的にどう総括するかがすごく大事です。

 志位 歴史問題というのは、世界の戦後秩序の土台にかかわる問題です。私たちは、この間、靖国参拝問題で、靖国神社の戦争観、歴史観ということが核心だということを明らかにしてきました。日本の侵略戦争を「自存自衛の戦争」「アジア解放の戦争」だとする靖国神社の軍事博物館・遊就館の立場こそ問題だとしてきました。それが世界にもずいぶん広がっていったという感じがありますし、国内の世論にもずいぶん変化が出てきたという感じはあります。でも、いまの小泉首相の状況を見ていると、居直って、首相の靖国参拝を固定化し、国策にしかねないような動きになっています。これをやったら一番大本のところで日本外交は成り立たなくなるということになってしまう。

 この問題では、アメリカも味方してくれないんです。米下院のハイド外交委員長が小泉首相の五回目の靖国参拝のあとに、遺憾の書簡を日本の駐米大使に出しました。アメリカとしても許せない動きなんですね。「日本に真珠湾攻撃を強要させたのは、ルーズベルトの陰謀だった」というのが、靖国神社の立場なのですから。

 靖国問題という世界全体を敵にまわす問題を一方で抱えながら、アメリカいいなりで憲法を変えていくという動きをすすめる。これでは二重に日本の外交は、アジアから相手にされなくなります。

 東アジアの平和共同体の流れのなかで、日本外交がさきほどいった「四つの転換」をおこなうことは、本当に急務だと思います。

■九条を生かした平和戦略――日本外交の転換を

 渡辺 九条を生かした対案ということでいいますと、私は九条の改憲に反対する大きな輪をつくっていくということが第一歩だと思います。

 日本の国民はさまざまな運動の中で九条を守ろうとがんばってきたけれども、実現するには至っていない。そういう意味では、九条は、二十一世紀の日本が追求し実現するべき、非常に明確な目標だと思うのです。しかし、その九条を侵食し破壊しようとする動きが非常に強くなっているわけで、それに対抗して九条を実現する動きをどうつくっていくのか。その第一歩は、とにかく九条の改悪を阻止することであり、それができれば、ものすごく大きな政治的な力になると思うのです。

 一九六〇年の安保条約反対闘争のときに、非常に大きな国民的な運動が起こって安保条約の改定は通ってしまったのですけれども…。

 志位 あれで改憲を当面は持ち出せなくなってしまった。これが一番大きいですね。

 渡辺 ええ、それから日米軍事同盟の進行がすごく遅れたと思うのです。いま改憲を強行しようとする力は、あの時とは比べ物にならないくらい大きな力ですが、私たちがこの企てを阻むことができれば、さきほど志位さんもいわれたような世界の動きの中で日本が積極的に貢献していく政治に変わっていく大きな一歩になります。

 志位 いわれるように、九条をめぐるたたかいというのは、アメリカと日本の支配層が総力を挙げてなしとげようとしている彼らにとっても“命がけ”の動きであるだけに、これを打ち破ったときには政治が大もとから変わる大きな激動が起こるでしょう。九条を生かした平和戦略を日本がもつ道が大きく開けてくると思います。

 渡辺 たとえば北朝鮮問題でおこなわれている六カ国協議は非常に大事な動きだと思うのですが、そのなかで最も精彩がないのは日本なんですよね。ところが、北朝鮮問題で一番大きいのは核の問題なのですけれども、世界の中で核の問題について、核兵器の完全禁止とか核の貯蔵を規制するなど、最もリーダーシップをとれるのは九条を持っている日本なのです。

 大国の中で核兵器を持っていない、核兵器を兵器の中心に据えていないのは、ドイツと日本しかないんです。六カ国協議の中でアメリカにしても中国にしても、ロシアにしても核兵器を持っていて、北朝鮮に対して「お前のところは持つな」という。そうではなく核兵器を持たない日本こそが、アメリカ、ロシア、中国を含めて、東アジアの中でどうやって現実的な核兵器阻止の態勢をつくるのかということでリーダーシップをとることが求められている。

 日本が少なからず貢献してきたODA(政府開発援助)も、アメリカ追随とか、経済進出の地ならしではなく、本格的に地域の紛争を解決して社会的な格差と貧困をなくしていくというところに大いに使うことが求められている。

 日本の外交を立て直すという点で、最も重要なのは、六カ国協議の中でも東アジア共同体の議論の中でも、九条にもとづく具体的な制度づくりの提案をしていくことです。東アジアの地域を平和的に守っていくことを、最も制度的に構築できる理念を持っているのはやはり日本だと思うんです。だから日本の憲法九条は、理想であると同時に具体的に東アジアの平和を考えていく時に最も使い勝手のいい武器です。

 志位 核兵器の問題も、軍縮という点でも、紛争の平和的解決という点でも、九条を生かしてこそ、いまのアジアの現実にあったリアリティーもあれば夢もあるすばらしい平和戦略の展望を打ち出せます。

 さきほど東南アジアで平和の激動が起こっている、そしてTACが大きく広がっているということをいいました。日本はTACに加入しているけれど、その理念を生かした外交とは程遠い。九条を生かそうという精神がないからです。

 日本外交を転換させ、核問題、軍縮、紛争の平和解決などで、九条を生かした平和外交をすすめる日本になったら、どんなにかこの地域の平和に貢献することになるでしょう。本当に東アジアは平和な地域になると思います。

 そうしたら、今度は、憲法九条を完全実施して自衛隊をなくしていくという道も開けてくるでしょう。もちろん、私たちはこの展望を、いまの運動に押しつけたり求めたりするつもりはありませんけれど、そういうたたかいの展望をもってがんばりたいと思います。

■平和と暮らしのたたかいを合流して

 志位 憲法九条と構造改革との関係が議論になりましたが、よく平和であってこそ暮らしも豊かになるといいますけれど、豊かな暮らしを国民に保障してこそ、平和もつくれるということもいえると思います。

 ですから人間らしい生活のためのたたかいを、平和を守るためのたたかいと、大きく合流させていくことが大切だと思います。「構造改革」あるいは「新自由主義」という流れと正面から立ち向かって、人間らしい暮らしを守るたたかいを起こしていく。それが平和を守る土壌を広げていくということにもなります。

 いま貧困と社会的格差の新しい広がりが重大な問題となっています。貧困と格差というのは、二通りに行く可能性があるのです。国民がこの事態の打開のためにたたかえば新しい政治にむかう重要な契機にもなりうる。しかし、たたかわなかったら反動政治やファシズムの土壌になることもありえます。それは二十世紀の歴史の教訓でもあります。

 渡辺さんが、軍事大国化に反対するということと、構造改革に対抗するという問題を二つたてられているのは、非常に大事な角度だと思いますし、われわれもそういう角度で両方のたたかいを、しっかり起こしながら合流させていきたいと思います。

 渡辺 二〇〇三年の二月十五日にアメリカのブッシュがイラクを攻撃する前に空前の世界的な同時反戦デモが起こって、ローマで三百万とかロンドンで二百万とか非常に大きなたたかいが起こったのですが、デモのスローガンには、ブッシュの戦争に反対というのと同時に「公的な年金の改悪に反対する」とか、「公教育の充実を求める」とかが、掲げられました。

 志位 自然とそうなるんですね。

 渡辺 やはり平和を求めることと、構造改革に反対して暮らしを守るということは、市民の中で両方あるんですね。

 志位 アメリカは軍事的覇権主義で世界を押さえつけようとする一方で、いわゆる「ワシントン・コンセンサス」とよばれる「新自由主義」の路線を、IMF(国際通貨基金)や世界銀行と一体に、世界各地に押しつける経済的覇権主義をやってきました。

 この両方が世界で破たんしている。その中から、東アジアでも、ラテンアメリカでも社会進歩の巨大な動きが起こっています。それなのに、両方ともアメリカに追随しているのが小泉政権です。世界の流れからいっても、この道には先はありません。

 渡辺 運動の関係でもう一つ、ぜひいいたいことがあります。憲法問題の講演をしていると、昨年の総選挙以降、どうして国会がこんなになってしまっているのか。もうだめなんじゃないかという声が結構強いことです。そのとき僕が言うのは、たしかに国会の中では九割の衆院議員が改憲容認・推進だけれど、決してこれは社会の縮図ではない。社会の中では九条改憲反対がさきほどいったように62%です。どちらが本当に国民多数の意識を反映しているのかをきちんと見なければいけないというのです。

 志位 その通りですね。

 渡辺 では、国会は何も必要がないのかというと、とんでもないことで、国会の中で果たす役割というのは重要だと思います。共産党や社民党という憲法を守ろうとする政党が固くスクラムを組んで、社会の多数と結びついてがんばる、いろんな工夫をする必要があります。通常国会に出てくることが間違いない国民投票法案の問題でも国会闘争の工夫もかつてないようなことをやらないといけないと思うのです。これはぜひ共産党にがんばってもらわなければなりません。

 志位 国会内の力関係と国民の中の力関係、よく分けて展望をつかみながら、国会内での奮闘も、国政の中心的な舞台ですから、論戦の面でも、国会内の他党との関係という面でも、いろいろな可能性を探求し、最善をつくしていきたいと思います。

 渡辺 ぜひともやっていただきたい。

 志位 今日は、いろいろ長い間、ありがとうございました。

 渡辺 ありがとうございました。


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