2005年12月7日(水)「しんぶん赤旗」

建築確認――自治体担当者は語る

民間開放後のこんな問題点


 なぜ偽装を見抜けなかったのか――。マンションなどの耐震強度偽装問題で現在の建築確認制度のあり方が問われています。一九九八年の建築基準法改悪で、建築確認・中間検査・完了検査は民間の確認検査機関にも開放されるようになりました。自治体の建築行政の現場にいる担当者はいまの制度の問題点をどう見るか――声を聞きました。(渡辺浩己)


■安全チェックより速さ

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(写真)千葉県船橋市で建設途中に耐震強度偽装が明らかになったマンション

 耐震偽装の構造計算を見逃した多くは民間の確認検査機関でした。営利追求を目的とする株式会社が建築確認をすることで起きてくる問題は“偽装見逃し”だけではありません。

 「問題の一つは住民との調停機能を考慮しないということ」と指摘するのは都内で区の建築行政にかかわる幹部の一人。

 建築確認は建築基準法にもとづいて建物の安全性をチェックするのが目的のひとつですが、開発と住民生活との調停という機能も果たしてきました。

 「行政にはまちづくりのための条例や要綱がある。建築確認にあたってもそういう問題を考慮する。しかし、民間の場合は建築確認をスピーディーにおろすことが目的。だから住民との紛争も増えている」といいます。

 ある民間検査機関の職員も“スピードが利益のもと”と語ります。

 「民間で行政と同じことをすれば、四倍の値段でやらなければ割が合わないが、四倍では申請する業者はいない。だからせめて二倍程度の値段になる。それじゃ商売にならないから、時間を二分の一にする。相手も行政に申請を出すより速いから二倍の値段でも納得してくれる」

 平山博・元東京都防災担当課長は、雑誌『建築防災』(二〇〇四年七月号)に「建設行政の今後の課題について」という文章を書き、民間確認検査機関の業務にたいする住民からの「審査請求の増加」を指摘します。

 審査請求は、建築確認後の建物に対し、住民が条例や法律に違反しているなどとして異議を申し立てるもの。平山氏によると、東京都の建築審査会に対する審査請求は二〇〇三年度は二十件あり、そのうち十八件が民間機関にたいするもの。特別区の審査会に対する審査請求も同様で90%が民間機関が確認した案件だったとしています。

■「目は企業側に」

 先の平山氏は「行政庁はどちらかというと安全側にきびしめに、したがって事業者には不利な解釈をしてきたといえる」と指摘しています。

 先の区幹部は、「民間の検査機関に出資している企業はゼネコンやハウスメーカー。住民の側に目を向けるのではなく、企業側に目が向く。それが建築行政をゆがめることにつながっているのではないか」と警告します。

 民間検査機関には清水建設をはじめとしたゼネコンやハウスメーカーが顔を並べて出資しています。

■自治体が再点検できず

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(写真)船橋市のマンションの調査で記者に説明する穀田恵二国対委員長=11月29日

 もちろん、自治体の側にも問題があります。今回の耐震偽装を見逃した自治体もかなりありました。民間機関であれ、自治体であれ、一般的には、構造計算書を再計算するなどきちんとチェックをするやり方にはなっていません。自治体の体制や検査のあり方を整備することも課題になっています。

■職員を6人削減

 都内のある区では民間に建築確認が開放されて以降、職員が六人減に。これまで意匠、構造、設備の三部門に分かれていた建築課の係も二つの係に縮小しました。建築課の幹部は「人数が減った分だけ仕事も減った。しかし、民間の仕事が増えるなかで将来、自分たちの職場はどうなるのかという不安がある。配置換えの心配もある。意欲の低下につながっている」といいます。

 民間機関にたいするチェックも自治体の責任ですが、これも大きな穴があいています。ことし二月に出された最高裁決定は、民間検査機関がおこなった建築確認であっても「責任は行政にある」と判断しました。

 しかし、自治体には民間検査機関からわずか数ページの「建築確認の報告」がくるだけです。現在の制度では、そもそも自治体が再チェックする仕組みになっていないのです。

 「民間からあがってくるのは数枚の報告用紙だけ。設計図も見るわけでもない。なぜ責任だけとらされるのか、という不満は広がっている」と区幹部はいいます。

 一級建築士の一人は「行政と民間企業の間で法の解釈に違いをつくらないこと、そして責任体制をはっきりさせること。それなしに問題は解決しない」と話しています。


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