2005年12月5日(月)「しんぶん赤旗」

農業 農民

WTO会議(13日から)に合わせNGO集会

食料主権の確立を


 WTO(世界貿易機関)の最高意思決定機関となる閣僚会議が十三日から十八日まで中国の香港で開かれます。自由貿易万能主義のWTO農業協定ができて十年。コメをはじめ食料の輸入が増え、農家の経営危機と食料自給率低下が深刻化する一方です。安全で安心できる自国の食料政策を決める権利「食料主権」の確立を求め、多くの農民や労働者、消費者が香港でのNGO(非政府組織)集会参加の準備をすすめています。


■農民連などが参加へ

 農民連(農民運動全国連合会)と食健連(国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会)は、香港のNGO集会に当初の予定を超える百人以上の代表を参加させます。

 輸出国と多国籍企業の利益優先のWTO体制の告発や食料主権の確立をすすめる運動の交流を予定しています。

 千葉県八街市にある同県農民連事務所では二日、NGO集会参加者に激励する寄せ書きを手ぬぐいにしました。事務局員の小島朋子さんと小林千佳子さんが手ぬぐいに書いた言葉は、「食料主権の確立!」と「WTOは農業から出ていけ!」です。小島さんは、「輸入が増え農地が荒れて自分の子どもや孫の代に残せなくなったら大変です」と話します。

 手ぬぐいは、香港集会参加者へのカンパを募るため農民連女性部が作製しました。稲穂が黄緑色に実り、緑のホウレンソウが描かれています。「農業は国の基本に据えられないと、作る人も食べる人も大変になる」(作者の久保田紀子さん=茨城県常陸野農民センター事務局員)との思いがこもっています。

 千葉県農民連は新婦人や食健連加盟の労組にも呼びかけ手ぬぐい六百枚余りを普及しました。農業の担い手を切り捨てる「小泉農政改革」問題学習会や新婦人との産直を通じてWTO農業協定の改定を訴えてきたといいます。

 NGO集会に参加する千葉県農民連の小倉毅事務局長と飯尾暁事務局員は、日本が押しつけられ百七十万トンもの外国産米の保管経費に数百億円の税金を使う一方で、世界で八億四千万人が飢餓に苦しみ、子どもが死んでいる、と憤慨します。「輸出商品作物の生産に偏るWTOのシステムこそ自給作物を農民から奪い、世界の食料事情を悪くしている。食料主権確立を実現したい」と話しました。

■共産党議員団も香港へ調査激励

 日本共産党国会議員団農水部会の高橋千鶴子衆院議員、紙智子参院議員は十一日から、WTO閣僚会議が開かれる香港に、調査と激励、議員交流などのため行きます。

図

■WTO10年 農民に“勝者”なく

 WTO農業交渉は矛盾が噴出しています。WTOのラミー事務局長は、香港閣僚会議でめざした農業保護削減方式や削減数値の合意先送りを宣言しています。

 農民連の真嶋良孝副会長(国際部長)は、WTO農業協定について「“勝者”は、世界の食料貿易を牛耳る多国籍企業だけだ」と指摘します。

 農民連はWTOが一九九五年に発足して以来、アジアや南北アメリカなどの家族農民団体と交流しています。そのなかで農民に“勝者”がいないことを実感したといいます。

 WTOの構図は、(1)多国籍企業がアメリカやカナダなどの農産物輸出大国の農民から穀物や大豆を買いたたく(2)これがダンピング輸出となって途上国の穀物生産をつぶしコーヒーや茶、果物、野菜など輸出用農産物の生産にかりたてる(3)この輸出用農産物が競合する世界の家族経営を押しつぶす―というものです。

 日本の農業は農産物の輸入増大と価格暴落によって危機的状況となっています。生産者米価は一九七〇年代の水準になり生産費を下回るものになっています。

 WTOのもと増えたのは外国産の輸入と水田減反だけであり(グラフ)、食料自給率は九五年の43%から二〇〇四年の40%へと低下するばかりです。


■現状は巨大企業利益優先

■京大名誉教授 中野一新さん

 『アグリビジネス論』(有斐閣)などの著書がある中野一新京都大学名誉教授(経済学)は、アメリカの多国籍アグリビジネス企業の実態を次のように語っています。

 アメリカはたびたび国際的な約束を踏みにじって自国の利益を確保しています。WTO農業交渉の舞台でも、他国へ自由化を強要する一方で、自国の農業保護政策をかたくなにガードしています。家族農業経営者の利益ではなく、一握りのアグリビジネス大農業経営の利益を優先する保護政策です。

 前回のウルグアイ・ラウンド交渉で、巨大アグリビジネスのカーギル社の元副社長が農業部門の交渉で中心的役割を担ったことにそれはあらわれています。

 コメの輸入自由化でもそうです。アメリカの中小のコメ生産農家の多くは、コメを輸出することよりも、安いタイ米やベトナム米がアメリカ国内に輸入されることを恐れています。コメの国内助成金や輸出補助金の大半は一握りの企業的大農業経営や大精米業者の手に集中しています。

 アメリカ産農産物の輸出業者に輸出補助金を支給して、ダンピング輸出をおこなっているため、同国の農産物は不当に安く途上国に流入し、農民は苦境にたたされています。

 アメリカ国内では、企業的大農業経営がシェアを大きくしています。これまで家族農民のシェアが一番大きかった酪農や養豚部門にも企業的大経営が進出し、“工場方式”の生産が急拡大しています。食料汚染につながる肉骨粉や抗生物質投与の問題もこのことと関係しています。遺伝子組み換え大豆、トウモロコシも増えています。

 しかし企業的農業は、持続可能性という点で問題があります。中西部の穀倉地帯では地下水の枯渇が懸念されています。日本向けコメ栽培をするカリフォルニア州では雪解け水によるかんがい農業が中心なので、降雪の少ない年は水不足で苦しみます。

 日本の農民と消費者が安全で安心できる食料主権を確立しようとするなら、私たちは、アグリビジネスに痛めつけられている輸出国の家族農家、そして途上国の農民と連帯した運動を展開する必要があります。

■JA全中など香港に代表団「一歩も引かない」

 JA全中(全国農協中央会)や農業委員会の全国組織・全国農業会議所は相次いで代表者集会を開き、「WTOでは一歩も引かない対応を」と政府に求めています。

 WTO農業交渉ではコメや乳製品などの関税大幅引き下げを輸出国が主張しており、予断を許さない、と訴えています。

 そして(1)一定の水準以上の関税率を認めない「上限関税の設定」は阻止すること(2)関税削減や輸入量の増加を抑えられる「重要品目」は十分な数を確保すること(3)輸入の急増時に規制できる特別セーフガードなど輸入国の農業を守るルール化―を求めています。

 両団体は香港に代表団を派遣して要求実現の訴えをするとしています。


▼食料主権 国際的農民組織であるビア・カンペシーナ(「農民の道」)が一九九六年の世界食料サミットのさいに提案した概念です。多くの市民組織で深められ、国連の第六十回人権委員会(二〇〇四年四月)で採択されました。その内容は、「食料主権とは、人々やコミュニティー、国が自分たちの農業・食料・土地などの政策を、社会的にも文化的にも、それぞれの独特の条件にふさわしいものとして規定する権利」となっています。日本政府も採択に賛成しています。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp