2005年12月5日(月)「しんぶん赤旗」
米軍艦載機の岩国移転計画
拠点化が騒音の元凶
神奈川・厚木基地で証明
「通常訓練」もNLPも被害同じ
騒音苦情は逆に増えた――。夜間離着陸訓練(NLP)のうちジェット機による大半のものが硫黄島(東京)に移った二〇〇一年以降、二千―三千件で推移していた米海軍厚木基地(神奈川)への騒音苦情件数は、四千―五千件にはね上がっていました(神奈川県などでつくる厚木基地騒音対策協議会調査)。米軍再編による厚木基地機能の移転で、空母艦載機部隊の拠点にされようとしている米航空海兵隊岩国基地(山口)。厚木基地の実態から空母艦載機部隊の拠点になることの意味に迫りました。(前田泰孝)
大半のNLPを今後も硫黄島で行うからといって岩国で夜間の騒音問題は発生しないのか? 昼間はどうなるのでしょうか?
厚木ではNLPがなくても夜間の騒音が続いています。十月十一日、FA18戦闘攻撃機十機が着陸。そのうち五機が再び離陸し、タッチ・アンド・ゴーを五回繰り返しました。
■昼夜問わず実施
五月十八、十九の両日にはジェット機十機がタッチ・アンド・ゴーを合計二十一回行いました。この日はNLP期間中。厚木ではジェット機によるNLPは行わないという日米合意になっているため、「なんでジェット機がやっている」といった五十五件の苦情が寄せられました。
これ以外にも〇一年米同時テロ直後の九月十五―十八日、昼夜を問わないタッチ・アンド・ゴーが繰り返され、千件の苦情が寄せられました。しかし、同時期のNLPはゼロでした。
「NLPではないか」との苦情が出るたびに米軍は「通常訓練だ」と弁解。これに再度、住民たちが「NLPと通常訓練と何が違う!」(大和市民)と憤る――。こんなことが何年も続いています。
厚木基地の米軍航空施設渉外部の清水義弘部長はNLPの定義が違う、とこう語りました。
「あくまで空母に載る資格を得る、特定の訓練メニューを指す言葉。期間日数も限定される。夜間のタッチ・アンド・ゴーすべてがNLPにはならない」
同氏はさらに「そもそもNLPは日本政府の造語。米軍に、夜間に限定したNLPなる概念はない」のだともいいます。
それによると、艦載機は陸に上がって二十一日たつと空母に載る資格を失う、このため最低でも空母出港十日前以内に再び空母に載る資格を取り戻すための訓練メニューをこなさなければなりません。
この訓練を米軍は空母着艦訓練(FCLP)と呼んで、昼夜を問わずタッチ・アンド・ゴーを繰り返すのだといいます。
その際、地上滑走路の一部分を空母滑走路に想定。「ミラー着艦装置」を設置し、着艦信号士官四人(判定官)を配置させることで空母甲板の状態を模擬的に再現します。ミラー着艦装置とは、反射鏡で光をパイロットに発する装置で滑走路横に備えたもの。パイロットはその光を頼りに着陸進入角度を決めます。
パイロットは決められた回数の空母着艦訓練をこなし、空母に載れる技量があるかどうか、着艦信号士官の判定に合格しなければなりません。
■地元とあつれき
このようにNLPを定義したため、タッチ・アンド・ゴーを中心とする集中的な騒音の大部分が「通常訓練」として野放しにされ、厚木で行われています。そしてそれはそのまま岩国にやって来るのです。
NLPについて、国立国会図書館論文集『レファレンス』(〇四年八月号)に書いた鈴木滋氏=同館調査及び立法考査局外交防衛課=は「NLPの定義をめぐり、今後も米軍と地域社会との間であつれきを呼び起こす恐れがある」と指摘します。
また米軍はNLP七日前までに、日本側に事前通告する慣例になっていますが、神奈川県企画部基地対策課の堀江信夫主幹は「騒音や住民の苦情規模から、限りなくNLPに近いと思っても米側が通常訓練だと言えば、それ以上の判断材料がないのが現実です」と答えています。
加えて厚木基地で騒音と苦情が急増する原因は空母着艦訓練だけではありません。前出の清水氏の話と、長年、厚木基地を監視してきた蒲谷俊郎・大和市平和委員会事務局長の話を総合すると、代表的なものだけでも別項だけあります。
これ以外にも戦闘訓練を終えて帰還した際に、タッチ・アンド・ゴーを行うなど、事実上の資格試験である空母着艦訓練に備え「自主練習」が日常的に行われています。
蒲谷氏は「NLP、通常訓練に関係なく、空母艦載機の拠点になること自体が昼夜を問わない騒音や事故の元凶になる。NLPだけを見てはいけません」と語ってくれました。
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●空母入港直前に艦載機がいっせいに厚木に帰還(図の(1)参照)。
●NLP期間二週間前までに、それまで部隊ごとに行動していた艦載機部隊が厚木に集結。タッチ・アンド・ゴーを含む統一した訓練、俗にいうNLP前の集中訓練を実施(図の(2)参照)。
●NLP直前にジェット機は硫黄島に行き、終わると厚木に帰還。そのため航空機が厚木と硫黄島を行き交います。また一度にすべての機が硫黄島に移動するわけではないので、NLP期間中もこれから訓練を受けに行く機と終わって帰ってくる機が行き交うことになります(図の(3)参照)。
●空母出港後の一週間ぐらいは伊豆諸島沖などで実際の空母甲板を使った空母着艦訓練(CQ)を行います。その間、航空機は訓練を終えると厚木に帰還。翌日また空母に向かうため、その間も厚木と空母を行き交います(図の(4)参照)。
▼タッチ・アンド・ゴー 航空機訓練の一つ。機体を滑走路に着陸させてある速度まで減速させた後、速やかにエンジンを全開にして離陸する動作のこと。着地の失敗や滑走路上の危険回避を想定していますが、離陸時のエンジン全開が激しい騒音をもたらします。また複数機が輪になって連続で離着陸すれば、さらに騒音が増します。