2005年12月1日(木)「しんぶん赤旗」

新横田基地訴訟

国に32億円賠償命令

東京高裁 騒音、法治国家で異常


 米軍横田基地(東京都福生市など)周辺住民約六千人が日米両政府に夜間・早朝の米軍機飛行差し止めと損害賠償を求めた新横田基地公害訴訟の控訴審判決が三十日、東京高裁でありました。江見弘武裁判長は、基地騒音訴訟では過去最高の総額三十二億五千万円(二〇〇二年の一審判決では二十四億円)を賠償するよう国に命じました。


■飛行差し止めは一審同様認めず

 飛行差し止めは一審と同様認めませんでしたが、基地騒音訴訟では初めて、結審から判決日までの期間の賠償を認定。また、違法な基地騒音が最高裁でも断罪されたにもかかわらず、補償制度すらないのは「法治国家のありようから見て異常」で「怠慢のそしりを免れない」と、国の姿勢を厳しく批判しました。

 判決は、うるささ指数(W値)七五以上の区域の住民の騒音被害は「受忍限度を超えて違法」と批判。防音工事の実施によっても「騒音被害を根本的に解消し、またはそれに近い効果をあげるとはとうていいえない」として、工事を実施した世帯の賠償の削減幅を縮小しました。

 一九六六年以降、区域内に転居した住民は「騒音を容認した」として賠償額の減額を求めた国の主張(「危険への接近」)について、「国民を騒音などの被害から守るべき責務を負う国が、原告の行動を理由に賠償義務の減免を主張することは不当」と断罪しました。

 一方、賠償の対象区域は一審判決より狭めたため、原告の約一割、六百五十人が賠償を認められませんでした。原告と弁護団は東京・霞が関で記者会見し「悲願の飛行差し止めを認めず、賠償の対象区域を縮小するなど問題はあるが、国の姿勢を厳しく批判して過去最高の賠償を命じ、基本的には評価していい判決だ」とのべました。


■解説

■違法状態放置の国を断罪

 東京高裁が三十日言い渡した新横田基地公害訴訟の控訴審判決は、基地周辺住民が「せめて静かな夜を返して」と長年求めてきた夜間・早朝の米軍機の飛行差し止めは認めなかったものの、違法状態を放置してきた国の無策を断罪するものとなりました。

 判決は一九八一年の旧基地訴訟(一・二次)の東京地裁判決以降、二回の最高裁判決を含め七度にわたって国の違法が認定されてきたにもかかわらず、違法な状態を放置していることを「法治国家のありようから見て異常の事態」と批判。補償・救済について住民の訴訟を待たずに「国による適切な措置が講じられるべき時期を迎えているのではないか」と踏み込みました。これは異例の問題提起といえるものです。

 また、対象区域内の原告住民が睡眠妨害や生活妨害、ストレスなどの被害を共通して受けていることを改めて確認しました。とくに、国が国民を騒音から守る責務を負いながら救済を怠ったことを断罪したことは二〇〇二年の一審判決に比べ大きく前進しました。

 一方、判決は、騒音を放置してきた国の姿勢を批判しながら、住民の悲願である夜間・早朝の飛行差し止めや、判決日以降の被害に対する賠償を認めませんでした。これでは、被害が続く限り住民が新たに訴訟を提起しなければならなくなり、被害の根絶につながらないものです。

 また、国の賠償対象区域を一審判決が基準とした面積の約七割に縮小し、六百五十人の原告を救済から切り捨てたことは、重大な問題です。

 横田基地をめぐっては、日米両政府が十月に発表した米軍再編「中間報告」で、航空自衛隊航空総隊司令部の移転と日米統合司令部の設置を打ち出し、「軍民共用化」についても「検討」を盛り込みました。これらが実施されれば、騒音被害はいっそう拡大されるもので、静かな生活を求める住民の願いにそむくことは明らかです。

 国はこの判決を受けとめ、騒音被害の根絶に踏み出すべきです。「軍軍」「軍民」共用化ではなく、基地の撤去こそ、住民の願いにこたえる道です。

(東京都・川井 亮)


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