2005年12月1日(木)「しんぶん赤旗」
欧州勢初の大関 琴欧州
力強い相撲と人間的魅力
「大関の名に恥じぬよう、けいこに精進します」。昇進の伝達式で琴欧州は緊張しながらも、はっきりと口上をのべました。
2002年11月の初土俵から、わずか19場所のスピード出世。先の九州場所までの3場所で計36勝。この間に横綱を2度、大関陣を5度下したことも評価されました。
ブルガリア共和国中部の古都ベリコ・タルノボ市出身。端正な顔立ち、2メートル4センチの長身で、体重は142キロ。その筋肉質の体は、従来の力士のイメージを変えるスマートさです。性格はやさしく、明るく、まじめ。元琴ノ若の佐渡ケ嶽親方は「素直で研究熱心ですね。意外にひょうきんなところもある。それに親孝行」と評します。
もとはレスリング選手でした。しかし体重制限でレスリングを断念。体育大学で趣味としてやっていた相撲を本格的に始めました。アマチュア相撲のドイツ大会で優勝したときに、国際相撲連盟の関係者にスカウトされました。
角界入りを決めた動機は、交通事故でけがをして体育教師の職を失った父親の代わりに、家族を支えたいという思いでした。新弟子検査で「横綱になりたい。相撲で強くなってお金を稼ぎたい」と笑顔で、率直に話した言葉には、いちずな気持ちがあふれていました。
力強い相撲に加え、こうした人間的な魅力と甘いマスクにファンが急増。日本では、いまやヨーグルトに替わって、「ブルガリアといえば琴欧州」といわれるほど、母国の代名詞的存在になっています。
相撲内容の成長も著しい。レスリング出身力士に多い引き技がほとんどみられません。足腰が強く、相手に引かれても落ちない粘りがあります。右四つで、左上手投げを得意としてきましたが、今年の名古屋場所あたりから、力まかせの投げ技が少なくなりました。
九州場所では立ち合い素早く左上手でまわしを取り、力強い引きつけで寄り切る形ができてきました。これは親方や先輩力士の助言で、意識的に前に出る相撲に変えたからだといいます。
横綱朝青龍を破ったのも、強い引きつけと前に出ての寄り倒し。こうした攻めが安定的な強さにつながりました。さらに突き押しのけいこにも力を入れるなど、場所ごとに新たな技を身につける成長ぶりを示しています。
今後は、大一番での精神的な弱さを克服することが課題でしょう。
伝達式後、「まだこれから長いし、いい相撲を取ってがんばります」と決意をのべた琴欧州。入門時の初心は「横綱になる」こと。いま、その目標に、さらに一歩近づきました。(武田祐一)

