2005年11月26日(土)「しんぶん赤旗」
生活保護
厚労省、協議打ち切り
国庫負担の削減最終案 地方は反対声明
厚生労働省は、生活保護費と児童扶養手当の国庫負担の削減案を二十五日の国・地方協議に示し、これに反対する地方側の合意が得られないなか、「時間がない」(川崎二郎厚労相)として協議を打ち切りました。この日示した削減案を、「三位一体改革」に盛り込む厚労省の最終案として首相官邸側に回答します。
一方、全国知事会、全国市長会など地方六団体は、「生活保護等に関する協議の一方的打ち切りに反対する声明」を発表。厚労省案が強行されるなら、来年四月以降、新規の生活保護受給に関する事務の返上も辞さない姿勢を表明しました。
この日、厚労省が示した案は、生活保護費の国庫負担(現行四分の三)について、住宅扶助などを全額地方に移し(一般財源化)、医療扶助、介護扶助は国の負担を三分の二に引き下げるというものです。児童扶養手当と合わせ、約五千億円の削減額になります。川崎厚労相は、「(国・地方の)両者の意見は出尽くした」「二十八、二十九日が、政府・与党の最終決定の日程だ」として協議を打ち切りました。
地方代表の谷本正憲石川県知事らは「今日新たに提案して、時間がないから協議打ち切りというのは、あまりにも拙速で、乱暴極まりない」と抗議し、協議続行を要求しました。同協議会終了後、都内で会見し、「最初から国庫負担金の削減ありきで、そのアリバイづくりに協議会がつくられたのではないか」とのべ、厚労省への強い不信感を表明しました。
▼「三位一体改革」 国庫補助負担金の廃止・縮減、地方への税源移譲、地方交付税の見直しの三つを一体的に進めようという小泉内閣の「税財政改革」。実際には国庫補助負担金削減に見合う税財源が地方に保障されず、さらに国から地方への地方交付税も大幅な削減が狙われています。国の責任で行うべき福祉、教育、保育など住民サービスの水準(ナショナルミニマム)の引き下げを押しつけるものです。
■理念なき削減 矛盾埋まらず
解説 もつれていた生活保護・児童扶養手当の国庫負担をめぐる国・地方協議は、厚労省が一方的に協議を打ち切る事態となりました。地方の了承を得た上で生活保護の国庫負担の削減を強行しようとした小泉内閣の思惑は暗礁にのりあげたことになり、「三位一体改革」の行方は混迷の度を深めることになります。
もともと小泉内閣の「三位一体改革」は、福祉・教育にたいする国の財政負担の軽減、地方への負担転嫁をねらったもので、財政的な都合を優先したものです。金額自体も、四兆円の補助金削減にたいし、地方に移譲される税源は三兆円にしかなりません。理念なき補助金削減のため、政府・地方間の矛盾は時間がたってもおさまらない状態です。
福祉では、二〇〇六年度の政府目標達成のために厚労省が過大な削減ノルマ(五千億円)を首相官邸から割り当てられ、生活保護の削減に踏み切りました。生存権保障の土台となる制度の負担削減にもかかわらず、厚労省側の主張は生活苦や貧困にたいし国だけでなく地方にも責任はあるというものです。
憲法にさだめられた人間らしい生活を保障するため、国の責任を果たすという姿勢はみられませんでした。
削減案を提示した四日からわずか四回の協議で議論を打ち切った厚労省の姿勢は、補助金削減の数合わせに終始している「三位一体改革」を象徴するもので、地方側が猛反発するのも当然です。
小泉首相は、地方側に削減リスト(生活保護は除く)の提出を求め、それを土俵にして各省に補助金削減を押し付けてきました。
しかし厚労省の協議打ち切りは、地方の生活保護削減にたいする反対姿勢をいっそう硬化させることになります。政府がめざす月内決着にこぎつけるのは容易なことではありません。(斉藤亜津紫)

