2005年11月19日(土)「しんぶん赤旗」
自民 民主
「改革競争」でどこへいく
「大連立が可能」と自民幹事長
政府・与党は、二〇〇六年度税制の見直しをはじめ、医療制度、公務員制度などの「改革」議論を本格化させています。一方、民主党は「改革競争をする」(前原誠司代表)として、「小泉改革」とスピードを競い合う立場を強めています。
■トップダウンで
民主党は、前原代表の提唱で新たに党内に設置した「総合政策企画会議」の会合を重ねています。小泉純一郎首相が経済財政諮問会議を通して“トップダウン”で政策決定をするのにならい、総合政策企画会議は「機動的戦略的に党の考えをまとめ、政府・与党にぶつけていく」(前原代表)機関として位置付けられています。取り上げるテーマも、公務員制度改革や政府系金融機関の見直し問題など、郵政民営化後の「小泉改革」とほぼ同じ。前原代表は、「(政府系金融機関は)せいぜい一つに集約し、直接金融から政府保証へシフトしていくべきだ」(十七日)などと発言しています。
このもとで、政府・与党と民主党との主張の溝は「(民主党とは)大連立が可能だ」(武部勤自民党幹事長)といわれるまで埋まっています。
経済財政諮問会議は十四日の会合で、今後五年間で国家公務員(定員六十八万七千人)の定員を5%以上純減する「基本方針」を決定しました。民主党は、国家公務員人件費総額の三年間で二割削減を掲げています。人数、金額の両面からの競い合いです。公務員削減による国民サービス低下への懸念は、完全にかき消されています。
消費税増税はどうか。民主党は「年金目的消費税」を創設し、3%の値上げを掲げています。自民党も、〇七年をめどに消費税増税を含めた税制の「抜本改革」を既定路線としています。
低所得者ほど重い負担となる消費税の増税ではなく、「優遇税制」といわれるほど減税の恩恵をうけてきた法人税減税を抜本的に見直すというような選択肢は、自民党も民主党もまったく視野に置いていません。
■民主が先陣切る
もともと、両党の「改革競争」で先陣を切ったのは民主党でした。総選挙大敗を受けて発足した前原執行部は、「対案路線」として先の特別国会では郵政民営化法への対案など単独で十九本の法案を提出し、「改革競争」を演出しようとしました。「自民党と立ち位置が同じものについては改革競争をするし、立ち位置の違うものについては徹底的に批判する」(『論座』十二月号)のが、前原代表の主張です。
こうした民主党の姿勢に、自民党は「民主党を巻き込んだ、政府、与党、野党、三つ巴(どもえ)の改革競争」(中川秀直政調会長)をしたいと歓迎しています。庶民向け増税、社会保障圧縮など、政府・与党がすすめようとしている政治課題を「改革競争」の名で、民主党にも共同責任を負わせようという狙いが見え隠れします。
■「政治不信招く」
国政の基本路線にかかわる大問題で、同じ方向で政権党と野党第一党が「改革競争」をする国会状況について、駒沢大学の大塚桂教授(政治学)は「結果として、政治不信を招くのではないか」と警告します。
「野党の役割は、政府・与党の政策を批判し、国民の世論を喚起して、選挙で支持をうることです。それによって、異なる多様な価値観が国政に反映されるようになる。野党が同じ政治的方向性で政府・与党に先んじて対案を出して競い合うというのでは、野党の本来の役割を喪失しているのではないか」
前原代表は年明けの通常国会でも「改革競争」「対案路線」を続ける意向を示しています。総選挙から二カ月半。国政の基本路線で「対立軸」がなくなった自民、民主の競い合いは、国民不在の「改革競争」となりつつあります。(小林俊哉)

