2005年11月7日(月)「しんぶん赤旗」

食肉など海外査察貧弱

BSE対策に深刻な疑問

農水省資料で判明


 年一回、のべ二十五人で七カ国百二十八の海外食肉輸出施設などをかけもち査察――。米国産牛肉の輸入再開では、米国内のBSE(牛海綿状脳症)対策の実効性を日本政府の査察で検証することが前提になっていますが、その査察体制のおそまつさが、六日までに判明した食肉にかんする海外査察の昨年度実績(別表)で浮きぼりになりました。


■昨年度 25人で7カ国128施設担当

表

 昨年度実績は、日本共産党の高橋千鶴子衆院議員の資料要求にたいし農水省が提出したもの。米国産牛肉の安全性評価案(答申案)をまとめた食品安全委員会プリオン専門調査会に同資料が提出されていませんでした。

 食肉にかんする海外査察は家畜の伝染病などを予防するため、二国間の貿易協定にもとづいておこなわれます。

 昨年度の実績をみると、担当したのは農水省動物検疫所の海外査察担当二十三人。対象は七カ国の食肉などの輸出施設百二十八カ所。のべ二十五人で査察し、一人平均五施設を年一回巡回している計算です。

 米国では昨年度に三人で鶏卵輸出などにかかわる十一施設を査察。三、四施設を年一回一人で回っているのが実態でした。政府は、今回、米国産牛肉輸入再開の条件となっている査察実施のため、動物検疫所の二十三人に加え、来年度から厚生労働省に輸入食肉査察専門官を置きますが、その人数は二人だけです。

 他方、査察対象は米国で牛肉輸出の承認をうけた約三十施設が増え、ここには一日あたり約五千頭と畜する大規模施設も含まれます。今回、カナダからの牛肉輸入も再開の対象にされており、カナダの食肉輸出施設も査察対象になります。BSE以外の伝染病対策も手抜きできないため、一人あたりの査察対象施設は昨年度より増加するのは必至です。農水省動物衛生課は「人員予算に限りがあり、その範囲でできるかぎりのことをやっている」と説明しています。


■解説

■米国産牛肉輸入再開問題

■安全性の前提揺らぐ

 米国内の日本向け牛肉輸出で、日米両国政府が合意したBSE(牛海綿状脳症)対策がとられているかどうか――。一面所報のように米国の対策を査察するはずの農水・厚生労働省の海外査察体制がきわめてお粗末だったことは、米国産牛肉輸入論議の根本にかかわる大きな問題です。

 米国産牛肉の安全性を評価した内閣府の食品安全委員会プリオン専門調査会は、農水・厚生労働両省から(1)生後二十カ月齢以下(2)危険部位の除去――という仮定条件をつけて評価するよう諮問を受けました。同調査会は、実行されていない仮定の条件をもとに科学的評価をするのは困難という見解と、条件が順守されれば「(日米の)リスクの差は非常に小さい」という見解の二つを併記した答申案を先月末にまとめました。

 「非常に小さい」という立場の見解でも、条件が順守されない場合は「評価結果は異なったものとなる」と指摘。「実効性、順守にかんする検証結果の報告」をリスク管理機関の農水・厚生労働両省に求めました。これは、前提条件に実効性がなければ、輸入停止を求めるもので、政府はきわめて重い責任を負わされました。しかし、その前提条件の実効性をチェックする査察体制には、年一回のかけもち査察程度しかできないという大きな穴があったわけで、まさに安全性評価の基礎がゆらいでいます。

 先月十九日の衆院農水委員会で、日本共産党の高橋千鶴子衆院議員が米国への査察体制の問題を指摘すると、中川農水省消費・安全局長は「(月齢判定の)枝肉格付けなどを常駐に近い形でみるわけではない」と答弁しました。米国産牛肉輸入を含む農水省の査察活動の来年度予算要求もわずか約四千万円にすぎません。もともと、米国には日本やヨーロッパのような牛の個体識別システムがないため、牛の月齢を正確につかむことができません。飼料規制や、解体のさいの危険部位除去にも問題があります。それでも査察の不十分さを承知で輸入に突き進むというなら、それは国民をだます最悪の選択です。(宇野龍彦)


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