2005年10月24日(月)「しんぶん赤旗」

農業 農民

これでは地域振興お手上げ

小泉「農政改革」 大規模農家に助成限定

自治体・農協から不安続出


 全国食健連(国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会)は、農業と食を守る全国いっせい行動となる秋のグリーン・ウエーブ(「食糧の波」)を開始しました。自治体や農協を訪問すると、焦点となっている農業の担い手切り捨ての小泉「農政改革」にたいして、市町村長や農協組合長から「地域が崩壊する」との不安の声が出ています。


■食健連が訪問・対話 新潟

 新潟県の食健連組織である「にいがた食と農と健康、教育のネットワーク」は、十二日から十八日まで「秋の全県自治体・農協キャラバン」をおこないました。同ネットワークは、農協労組、農民連、生活協同組合、中学校給食を実現する会、教職員組合など生産から消費にわたる十一団体が参加しています。

 キャラバンの目的は、国の責任で食料自給率向上や地産地消実現など政府への要請書(別項)に対する賛同署名への呼びかけです。

 十八日には妙高市を訪問しました。同市は妙高高原のふもとに農地が広がる傾斜地が多い地域です。キャラバン一行の訪問にたいし、横尾幸秀助役、妙高山ろく振興室や農業振興の担当者が応対しました。

 キャラバンに参加したのは、えちご上越農協労組の布施辰夫委員長、同労組の豊田聡書記長、新婦人上越支部の米山順子副支部長です。

 布施さんが「農業の実態を聞き、自給率向上にむけ農水省や文科省などに要望を届けたい」とあいさつすると、横尾助役は「国は食料自給率向上について軽んじている。食の安全・安心が求められているときに変な農産物が入ってくるようでは困る」と応じました。

 同市は、そばオーナー制や食味の良い米で東京都内にアンテナショップを開設するなど都市と農村の交流を大切にしています。六十五歳以上の住民が四割に及ぶなかでも、農産物直売所で地産地消のとりくみをしています。横尾助役は、「兼業農家や高齢農家も含め経営安定をはかろうとの気運が出ている。リタイアした都会の人にも住んでもらいたい」と紹介しました。

■法人化は難しい

 しかし、政府・与党が二十六日にも決めようとしている、四ヘクタール以上の経営をする認定農業者か二十ヘクタール以上の集落営農に助成を絞る「品目横断的政策」に話が及ぶと、次々と不安の言葉が出ました。

 横尾助役は「市では助成基準を満たす大きな農家はほとんどない。機械利用組合はあるが法人化は難しい。画一的にやられると地域の振興策はお手上げ」と言いました。

 布施さんは、自身が勤める農協が集落営農の法人化モデル地域だと紹介し、「先進的だといっても、一部の地域だけ。平野部でも苦労している」と紹介し、法人化の要件は実態を無視していると応じました。

 品目横断的政策では、従来の価格保障は完全に廃止となります。布施さんは、水田の転作作物として大豆の団地化を奨励してきたが、助成を受ける農家と受けない農家が出る政策では団地化もつぶれると話しました。

 「農政改革」への不安は農協も同じです。

 妙高市の隣町、糸魚川市中心のJAひすい農協の五十嵐忠義組合長は「皆さんと考えは同じ」と署名に応じました。“兼業農家含め、頑張っている農家すべてが地域農業の担い手”とした政策に賛同しました。

 同市は日本海に流れ込む谷筋に農地があります。五十嵐組合長は、兼業農家が農業と農地を守ってきたとのべ、「四ヘクタール、二十ヘクタールの助成基準の線引きをしたら、ごくわずかしか農地は守れない。地域経済はどうなるのか」と批判しました。

 キャラバンに参加したJAえちご上越農協労組の豊田聡書記長は「農協の理念を聞いて感動した。こうした懇談が食と農を守る力になっていく」と感想を話しました。

■42自治体を訪問

 新潟県での訪問・懇談は、四十二自治体、三十五農協になりました。二十一日までに十三市町村長、二十四農協組合長らが賛同を寄せています。

 活動をすすめる同県農協労連の砂山太一書記次長は「毎日、賛同署名が届いている状況です。助成を切り捨てる問題では『みなさんが言っている通り』と応じてくれます。加茂市の小池市長さんは、私たちの訪問にケーキを用意して待っていてくれ、『日本農業と農村は兼業で成り立っている。それを切り捨てるのはおかしい』と激励してくれました」と手ごたえを語ります。

 まだ訪問していない佐渡市では、自治体、農協だけでなく商工団体や農業委員会などとも懇談していく方針です。


▼品目横断的政策

 米、麦や大豆、砂糖用テンサイ、でんぷん原料用バレイショにある価格支持対策を廃止し、一定規模以上の農家や法人に限定して交付金を支払うというものです。

 二〇〇七年度から導入するため、小泉内閣は今月末にも具体的支払い要件を決める予定です。農水省案として、都府県で四ヘクタール以上、北海道で十ヘクタール以上の経営面積があり経営改善計画を市町村が認定した農家(認定農業者)、あるいは法人化をめざす二十ヘクタール以上の集落営農が要件です。

 この要件では現在の認定農業者とすべての集落営農が対象になったとしても農地面積で七割以上が対象外となります。対象外では経営がひきあわず作付けをやめ、食料自給率は低下せざるをえません。


■各県で要請署名に賛同

 全国食健連事務局のまとめでは、自治体や農協への訪問と懇談活動は、愛媛、山形、山口など各県で始まっています。どこでも政府要請署名に賛同が広がっています。

 山形県では十二農協を訪問。要請内容に反対する農協はなかったといいます。東根市農協では「頑張りに感謝する」と青柳忠組合長が激励をしてくれました。新庄市農協では事前に送付していた署名用紙に署名をして迎えてくれました。同県農協労連の斉藤裕書記長は、「規模要件でがんじがらめになる。農村社会の助け合いが壊されるとみんな危機感をもっている」といいます。

 愛媛県では、農業の担い手を大幅に減らす「品目横断的政策」交付金の対象の絞り込みにたいし不安を表明しました。竹中隆食健連事務局長は、今治市では「小麦を作り続けられるような対策を考えたい」と担当者が答えたことに手ごたえを感じています。また、「地産地消の自治体宣言をする」(四国中央市)など食健連の要請に積極的に応えているといいます。

■食健連の政府要請署名内容

 全国食健連がグリーンウエーブでとりくんでいる政府要請署名の内容は次の通りです。このほかに各県レベルで独自の要請事項があります。

 「国民の食糧と健康、地域農業に関する政府への要請」(内閣府、農水省、厚労省、文科省に提出予定)

 1、国の責任で、食料自給率のカロリーベースでの抜本的な向上をめざすこと。

 2、検査と安全対策の不十分なアメリカ産牛肉の輸入再開はおこなわないこと。BSE全頭検査は国の仕事として位置付けること。

 3、兼業農家を含め、頑張っている農家すべてを地域農業の担い手に位置づけた政策を進めること。

 4、米生産を継続するため、生産費を償う生産者米価の下支え制度を確立すること。ゆとりある備蓄制度確立のため、十分な米の買い入れをおこなうこと。

 5、輸入が増加している農産物について、セーフガード(緊急輸入制限措置)を発動すること。

 6、学校や保育園、病院など公的な給食への地元産食材の利用を拡大するため、補助制度を充実すること。

 7、WTO農業協定は食料主権を尊重したものに改定すること。関税の引き下げには合意しないこと。


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