2005年10月17日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

民話で町おこし

子どもが語り部 劇やアニメ作製


 「昔から伝えられている民話を掘り起こし、次の世代へとつなげたい」。民話を通して、地域おこし、町づくりをすすめている岡山県新見市哲西町(てっせいちょう)と山形県真室川町(まむろがわまち)の例を紹介します。

■岡山・新見市 哲西町

■地域の文化を伝えたい

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 家庭で難しくなった地域文化の伝承と郷土愛をはぐくむ取り組みで町づくりを―今年四月の合併で岡山県新見市哲西町となった旧阿哲郡哲西町では、一九九八年から民話を生かした町づくり、人づくりをすすめています。

 哲西町は全国有数の民話の語り部・賀島飛左(かしま・ひさ)さん(約六百話の伝承者。一九八六年に九十歳で死去)の住んでいた町です。その賀島さんをたたえ、地域文化を伝承しようと、毎年「民話の集い」を開催、民話を題材にした子どもたちの劇やアニメの発表、民話研究者や語り手による講演などを行っています。

 子どもたちは、哲西幼稚園と矢神小学校がそれぞれ民話劇を、野馳(のち)小学校が民話アニメを披露します。集いは毎年、町民二百―三百人が参加する盛大なもの。民話が町の誇りになり、町民のつながりも強まっています。

 浅井幹夫・元哲西町教委事務局長は「民話の伝承とは逆だが、子どもが民話を知ると、父母や祖父母へとつながる。家庭での話題も増え、子育ちにもよい。また、日本一の語り部がいた町ということで町民の誇りと自信になっている」と話しています。

■ 撮影、編集まで

 野馳小学校(米澤正治校長、児童数七十六人)では一九九八年、賀島飛左さんの名字をとって「賀島クラブ」を結成、以来週一回、民話のアニメ化に取り組んでいます。

 題材は賀島さんの民話の中から選び、台本づくり、背景や人物の作成、ビデオ撮影、編集まで子どもたちが行います。完成したものを同校の学芸会と「民話の集い」で発表、記録したDVDは学校と町の図書館で見られるようにしています。

 今年は町内全児童に配布している『飛左おばあさんの昔ばなし』を読んでもらい、アンケートで題材にする話を「千年木とヤヨイ」に決定、現在、アニメの作製中です。

 また、十月末から十一月四日までを「民話週間」として、朝の読書や読み聞かせも民話を取り上げ、図書室には「民話コーナー」も。このような活動が評価され、昨年、社会貢献支援財団の「こども読書推進賞」(全国で一校のみ)が同校に与えられました。

■語りの講座開く

 おとなも民話の語り手になろうと語りの講座を開きました。講師は賀島さんの民話を採録した日本民話の会運営委員の立石憲利さん(岡山県総社市在住)。四回の講座で受講生は語りの一歩を踏み出しています。哲西図書館には民話の特設コーナーも設置しています。

 また、賀島さんの住んでいた地域では、二〇〇一年に「昔ばなし日本一 賀島飛左之碑」が住民の手で建立され、地域の誇りになっています。


■山形・真室川町

■活発なサークル活動 出前も

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 真室川音頭で知られる山形県真室川町。県の最北端部に位置し、梅を利用した加工食品も有名で、梅の里とも呼ばれています。ここで、民話による町おこし運動が起きています。

 「真室川町民話の会」などのいくつかの地域の民話サークルが協力しあい民話語りにとりくんでおり、それが町のなかに定着しはじめています。

 同町と民話のかかわりは、一九三六年(昭和十一年)、「遠野物語」で知られる民俗学者・柳田国男のよびかけに応じて、鮭延瑞鳳(さけのべ・ずいほう)師(正源寺住職、江戸時代の城主・鮭延氏の末裔=まつえい)が、地域に伝えられていた民話「猿むこ」を含む五話を『昔話研究』(一九三五年に出た日本初の昔話研究の月刊誌)に寄稿したことをきっかけに始まりました。

■町あげて調査

 その後、昔話研究の第一人者・野村純一夫妻の調査研究といった蓄積、町あげての調査活動へとつながり、『真室川町の昔話』全六巻が完成(一九九三年)しました。

 これが機縁となり、地域のサークルが活発につくられ、町が掘り当てた温泉で開設した梅里苑(保養施設)や民俗芸能の伝承館で、定期的に「語りの会」を開くようになっています。しだいに町民の関心も高まり、語り手が保育所や小学校などに出前をするほどです。

 わらべの唄(うた)の里「安楽城」(あらき)では小学生たちの語りが評判を呼び、平枝地区の平枝小学校の「平枝ふるさとクラブ」でもおとな顔負けの語りが広がり、テレビや舞台で活躍している俳優の庄司永建さん(隣の新庄市出身)も応援にかけつけています。

■わらべ唄や番楽

 真室川町には古くから「番楽」(民俗芸能の一つで、地方によって言い方が変わり、獅子神楽という名称も)が伝承されているうえに、わらべ唄も豊富です。町あげてのイベント(今年は今月二十二、二十三の両日に開催)には、子どもたちの語りも加わって、たいへんなにぎわいとなっています。

 町では「心豊かな民話がいつでもどこでも聞ける町にしたい」と、「民話の町」をめざしています。

 (やまがた民話の会協議会会長・武田正)


■いまなぜ民話か

 いまから半世紀ほど前までは、家庭で祖父母が孫に、父母が子に民話を語って聞かせるというのは全国各地で、ごく普通のことでした。ところが、それが急激に消え去り、いまでは民話の語り手が非常に珍しいものになってきました。

 近年、「どうも子どもの様子がおかしい」という話をよく聞くようになりました。おとなが子どものころ体験した、民話を聞いたときの、あのわくわく感、満足感を、いまの子どもたちにも与えてやろう。子どもの育ちには、父母や家族が直接にふれあい、肉声で話しかけ、語ってやる、ゆったりとしたときが必要なのではないかと思う人も増えてきました。

 また、子どもが育っている地域のことを、子どもはもちろん親も知らないでいる。暮らしの基盤をもっと知り、全国画一の文化でなく、地域に根ざしたものが必要ではないか。こんな思いが重なって、いま各地で民話の語りをするグループが広がり、また、民話による町おこしが起こってきています。

(日本民話の会運営委員・立石憲利)


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