2005年10月13日(木)「しんぶん赤旗」

基地たらい回し 迷走

沖縄・普天間


 在日米軍再編の「中間報告」とりまとめをめぐり、日米協議が緊迫しています。焦点になっているのは、沖縄の米海兵隊普天間基地(宜野湾市)の「移設」問題です。名護市辺野古沖埋め立て計画の破たんを受け、現行の計画より浅瀬に建設する案と海兵隊キャンプ・シュワブ(名護市など)内の陸上に建設する案で日米が“対立”。県内での「基地たらい回し」への固執が矛盾を深めています。(田中一郎)


■現行計画 世論と運動で破たん

地図

 「十年たって、まだ、なかなか行き先が見えてこない」。大野功統防衛庁長官は七日の記者会見でこう述べ、一九九六年のSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)合意を原点とする辺野古沖埋め立て計画の破たんを認めました。同計画を推進してきた沖縄の自民党国会議員も「みんな、今の案は行き詰まっていると思っている」と指摘します。

 現行の計画を破たんに追い込んだのは、地元住民の粘り強い反対運動と県民の世論です。

 計画に反対する地元住民らの座り込みは、防衛施設庁が建設に向けた掘削調査を始めようとした二〇〇四年四月から現在まで五百四十日以上も続いています。施設庁は同年九月に再び強行を図ったものの実際の掘削に今も着手できずにいます。

 その間、イラク出撃に備え普天間基地に配備されていた米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落(〇四年八月)。米軍の無法な戦争への出撃拠点になっている同基地の危険性が鮮明になり、無条件・全面撤去を求める世論は一気に高まりました。

 事故に抗議した宜野湾市民大会(同年九月)には、約三万人が結集。地元メディアの世論調査では、普天間基地を「ハワイやグアムなどアメリカに移設する」が72%にのぼり、辺野古沖への建設反対は82%にも達しています。県民多数の願いは、普天間基地の国外撤去です。

 計画の見直しを迫られた日米政府は在日米軍の再編協議で、新たな「移設」先の検討を始めました。しかし、嘉手納基地(嘉手納町など)への統合案や下地島空港(伊良部町)への移転案などが表ざたになるたび、地元自治体や住民がこぞって反対。行き場を失う中で出てきたのが、辺野古沖の浅瀬案とキャンプ・シュワブ内の陸上案です。

■代替2案 恒久的な軍事基地へ

 浅瀬案を主張しているのは米側です。辺野古沖のリーフ(環礁)上に建設する現行の計画よりも、陸地側の浅瀬に、規模を縮小した形で建設する構想です。陸上案は防衛庁が中心になって主張してきました。

 米側は陸上案について、キャンプ・シュワブ内にある現在の演習場をほかの場所へ移設しなくてはならなくなるなどとして拒否。浅瀬案は「より高い軍事的能力が得られる」(ローレス米国防副次官)とし、基地機能の強化を最優先する立場です。埋め立てなどの「経済効果」を期待する名護市の一部業者も同案を推進。同市の岸本建男市長も容認しています。

 防衛庁が陸上案を主張する最大の理由は「建設作業が基地内で完結し、基地の外に新たな施設を整備しなくて済む」(琉球新報四日付)からだと指摘されています。浅瀬など海上に建設した場合、公有水面埋立法に基づき、県の承認が必要です。しかし陸上の基地内であれば、地元の意向を無視して建設を強行できることになります。

 重大なのは、いずれの案も現行の計画より住民の命を危険にさらす計画だということです。自然環境の破壊も深刻です。それは、日米両政府などの当事者の発言でも明りょうです。

 両案はもともと、現行の計画を決定する過程の中でいったん否定されたものです。

▼日米両政府と地元の建設推進派の言明

●米国 「(陸上案では)ヘリコプターが住宅地上空を飛行することにも なる」(国防総省当局者、沖縄タイムス9月24日付)

「(浅瀬案は)米国がより高い軍事的能力を得られる」 (ローレス国防副次官、9月29日)

●岸本建男名護市長 「(陸上案では)住民地区に近づき住宅周辺、上空の旋回など危険 で住民生活に影響を及ぼしかねない」(琉球新報9月17日付夕刊)

●日本政府・防衛庁 「(浅瀬案は)環境の問題等、いろいろな問題を克服していかな ければならない」(大野功統防衛庁長官、9月27日)

「きれいな沖縄の海を破壊したくないという県民の強い思いが ある。(浅瀬案と)同じような案は(時慈年の)市民投票の結果、 否定されている」(防衛庁の守屋武昌事務次官、10月3日)

■知事も両案反対

 浅瀬案は〇一年に、工法や位置、規模を政府と地元自治体が協議した際、「航空機騒音などの生活環境や藻場など自然環境の保全を図る観点から厳しい」とされ、退けられています。

 陸上案も、沖縄県の稲嶺恵一知事が一九九九年に辺野古沖への建設を受け入れるにあたって「集落の上空を(航空機が)飛行することから騒音の影響が懸念される」と拒否したものです。

 しかも、稲嶺知事と岸本市長が現行計画の受け入れ条件にした「十五年使用期限」も「軍民共用空港化」も、この間の日米協議ではまったく取り上げられていません。浅瀬・陸上案とも、むき出しの軍事基地を恒久化する案になっています。稲嶺知事は両案に反対しています。

 米側が陸上案を強く拒否していることから、日本政府・自民党内では同案にこだわらず、浅瀬案で集約を図る動きや、シュワブの沿岸部に一部埋め立て方式で建設する折衷案で妥協を図る動きが出ています。しかし、いずれも県民の願いに真っ向から逆らう動きであることに変わりはなく、破たんは避けられません。

表

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