2005年10月3日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

里山保全へ 多彩に

オオタカ舞い豊かな水、緑

都市に近く 生活にめぐみ


 里山は自然の生態系が豊かで、人の生活と深くかかわっています。都心から2、30キロと近くにありながら、オオタカが大空を舞い、希少生物が生息し水も緑も豊かです。全国土の4割を占めるといわれる里地里山。愛知県と神奈川県にみてみました。(青山隆)


■県道計画で古墳消滅の危険

■愛知・瀬戸市海上の森

 愛知県瀬戸市の「海上(かいしょ)の森」は、二千二百万人がつめかけた愛知万博が閉幕し、半年ぶりの静寂に包まれています。名古屋市から東へ約二十キロメートル、瀬戸市南東部の丘陵地帯にあります。

 広大な地域(五百四十ヘクタール)はオオタカ、シデコブシなど希少な生物が多く生息生育し、自然が豊かな里山です。

 「海上の森」を守り活動してきた市民の運動は「万博後」も休みなく続き、その形態はさまざまです。

 「海上の森」の玄関にあたる山口川西側の丘陵では、県道「瀬戸環状東部線」の計画があり、見直しを求める運動がおきています。

 森にはモンゴリナラが混在するコナラ、アベマキ林の美しい景観と、六世紀ごろと推察される塚原古墳群、高塚山古墳群の群集墳が十五基以上あります。

 この森の丘陵を削って、掘割式の県道を造る県の計画が浮上。「塚原・高塚山古墳群」を保存する会と瀬戸環境を考える連絡会は、現地調査や県・市の説明会などに参加して計画の見直しを求めています。

 塚原・高塚山丘陵全体が「埋蔵文化財包蔵地」と考えられ、これほど多くの古墳が集まっている場所は市域でも例がなく、先人が残してきた文化をなくしてはいけない、と指定文化財として保存する運動が始まっています。

 県道の建設はほとんどの古墳が滅失する計画となっています。瀬戸環境を考える連絡会事務局の山室美恵子さんは「自然環境も文化財も市民の共有財産です。行政は公共事業について市民と議論しなければならない時代になっていると思います」と話しています。

 森の中を歩くウオーキンググループは毎週土曜日に実行しています。雨の日も雪の日も、この十年間欠かしません。

 毎回、十数人が参加して昔、武田信玄の見張り番を置いたという「物見山(ものみやま)」(三二七・九メートル)の山頂をめざして、夜明けからウオーキング。往復二時間、森の自然をたっぷり味わいます。

 「季節の花にほんのひとときでも出合える海上の森は私たちの大切な森です」(柴田美代子さん)と貴重な里山への思いを語ります。

■環境維持へ カカシ作りや観察会

■神奈川県立茅ケ崎里山公園

 神奈川県・湘南の茅ケ崎市にある「県立茅ケ崎里山公園」の一日を追ってみると―。

 「カカシをつくりまーす」「竹林整備(間引き)に行きまーす」―静かな里山に明るい声が通ります。

 市民ボランティア「里山公園倶楽部」(平本誠会長、会員百八十人)の行事です。この日参加者は四十七人。

 案山子(かかし)づくりには四、五歳の子どもから母親、竹林にはおとなの男性が挑みます。

 案山子は竹を切る、ワラを丸めて顔づくり、持ち寄った古着を着せてできあがり。

 竹林グループは密集した竹林に分け入り、蚊の襲撃とたたかいながら、のこぎり、なたで次々切り出していきます。

 八組の案山子は、モチ米の稲穂が実る水田にさっそく立てられました。

 「カカシさん、守ってね」―かわいい声が響きます。

 子どもたちは竹ひご、ドングリ、木片でヤジロベーもつくりました。十一月の収穫祭が待ち遠しげでした。

 里山公園は四年前に開園。面積三十六・八ヘクタール、そのうち約半分が整備され、開放されています。

 豊かな自然生態系を残し、市民に身近な憩いの場として里山を保全し後世に引き継ぐことを目的にしています。

 特徴は地域と市民と行政が協力しあい、管理・運営していることです。

 中心は茅ケ崎里山公園協議会。市民団体、地域住民、行政でつくっています。

 かつて同地域周辺は九十九谷戸(くじゅうくやと)といわれた丘陵地。山に囲まれた谷底=谷戸がたくさんありました。

 道路や宅地開発、放置されたままの荒地など自然環境は次々壊されました。

 つねに脚光をあび、開発整備の進む市南部の海岸地域と異なり、北部は取り残されました。

 「大企業の宅地開発や産業廃棄物のごみ捨て場にしないで」「自然を生かし文教地区にして地域活性化を」など議会や市民のなかから声が高まり、里山公園が生まれました。

 ボランティア団体の一つ「柳谷(やなぎやと)の自然に学ぶ会」(斎藤溢子会長)は毎月一回、観察会を実施。訪れた市民に里山のよさを学んでもらおうと活動しています。

 野田晴美事務局長は「自然は誰でも好きです。郷愁や懐かしさだけでなく若い人にも受け入れられる里山に」と情熱をこめて語ります。

 同公園園長の和田均さんは「人と人がふれあい里山を引き継いでいく、そのために市民と行政が協働していくことが大切です」と話しました。

 里山づくりはまだ、半ば。三年後の完成を目標に努力はつづきます。


▼里山とは

 「人の手で造られた自然が豊かな地域」といわれています。「里山」と一般的に使われだしたのは一九七〇年代ごろですが、必ずしもさだかではありません。環境省は「都市地域と原生的自然との中間に位置し、さまざまな人間の働きかけを通じて環境が形成されてきた地域であり、集落をとりまく二次林と、それらと混在する農地やため池、草原等で形成される地域」としています。人間の手が入ってできた里山。その里山を破壊と荒廃から守る新たなとりくみが進んでいます。


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