2005年9月4日(日)「しんぶん赤旗」

温暖化で黒潮が加速

スーパーコンピューター予測


 地球温暖化が進むと、黒潮の流れが速くなり、漁業にも影響が出る可能性がある――。東大、海洋研究開発機構、環境研究所の共同研究グループが、スーパーコンピューターによるシミュレーション(模擬実験)で予測しました。(神田康子)


図

▼80年後に流速1.2倍

 黒潮はフィリピン近海から北東方向に進み、日本沿岸を銚子沖まで流れる暖流です。幅はおよそ100キロメートルあり、流速は平均で毎秒1メートルあります。この海流は銚子沖からさらに太平洋へ東向きに流れており、黒潮続流と呼ばれます。

 黒潮は熱帯の温かい海水を運んでくるので、海の表面で接する空気を暖めるなどして日本の太平洋側の気候に影響があると考えられています。また黒潮の流れにのって魚が移動するため、日本に漁業資源をもたらしています。

 地球温暖化が進んで、黒潮の流れる経路などが変化した場合、日本の気候にも影響を与える可能性があり、関心が集まっています。

 これまで、スーパーコンピューターを使った地球規模の温暖化実験で海洋の変化がわかる精度は、数百キロメートル四方ごとでした。そのため、幅が約100キロメートルの黒潮の流れの変化を詳しくつかむことはできませんでした。

■90年先まで調査

 研究グループは、世界最高レベルの性能を持つ海洋研究開発機構のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」を使った地球温暖化実験で、海洋の変化を約25キロメートル四方ごとまで計算することに成功しました。これによって、黒潮の流れの変化もこれまでより詳しく調べることができるようになりました。

 20世紀後半の二酸化炭素(CO2 )の増加量を参考にして、大気中の二酸化炭素濃度が毎年、前年に比べて1%ずつ上昇したとき、どのような気候変動が起きるか、現在から90年先まで、予測しました。

 これによると、80年後には、二酸化炭素濃度は、現在の濃度の約2・2倍になります。このとき、地球の平均気温は約4度上昇するという予測結果がでました。太平洋沿岸の海面水温は現在に比べ2・5〜3度上昇し、とくに黒潮の流路の海域で上昇幅が大きくなりました。

■経路に変化なし

 黒潮の経路に大きな変化は起きませんでした。しかし、現在毎秒1メートルの流速が、黒潮で毎秒1・2メートルに、黒潮続流では、変化が大きいところで毎秒1・3メートルになるという結果が出ました(図3)。温暖化が進むと、北緯30度から40度の海域で、西から東へ向かって吹く風が強くなり、この風の影響を受ける黒潮の流れも速くなるといいます。

 太平洋沿岸の水温上昇には、黒潮によって温かい水がより多く運ばれるようになることが大きく影響しているとみられています。

 研究グループの坂本天(たかし)さん(海洋研究開発機構研究員)は、「黒潮の流れが速まれば、日本の太平洋沿岸で生まれる魚の稚魚が流されやすくなるなどして、日本近海の漁獲高に影響する可能性がある。太平洋沿岸の海水温の上昇とともに、魚類の生息域がどのように変化するか、今後研究していきたい」と話しています。


▼水温上昇 漁業に影響/マダイ・サンマなど漁獲高減る

■水産工学研が調査

 地球温暖化が進んだとき、日本近海では魚介類の生息域が変化して、漁業に大きな影響を与えることが、水産総合研究センター水産工学研究所の調査で明らかになりました。

 気象庁による地球温暖化の予測をもとに、100年後に日本近海の海水温が最大2・9度上昇した場合、現在日本近海でとれている魚介類34種の漁獲高がどのように変化するか予測しました。

 その結果、魚介類の生息域が北に移動して、九州の東シナ海沿岸の漁港ではマダイ、マアジ、マサバ、スルメイカなどの漁獲高が3〜7割減少。能登半島沿岸ではマダイ、トラフグなどが、千葉や茨城県など関東の太平洋沿岸ではマイワシが、北海道の太平洋側ではサンマなどが3割以上減少することが分かりました。

 一方、北海道日本海側でサケ、カキ、能登半島沿岸、関東地方沿岸ではマアジが増加するほか、九州、四国ではフエダイやハタなど亜熱帯性の魚がとれるようになる可能性があるといいます。

 同研究所の桑原久実さん(環境分析研究室長)は、「今後、どのような種類の魚介類がどれくらいとれるか監視して、魚の生息域の変化に合わせて漁業形態を変えていくことが必要になる」と話しています。


▼キーワード/黒潮

 北太平洋のフィリピン東方から北東に向かい、日本南岸を銚子沖まで流れる海流。透明度が高く、青黒く見えるため黒潮と呼ばれます。また日本近海を流れることから日本海流ともいいます。夏は30度近く、冬は20度近くになることがあります。日本近海でカツオやマグロなどがとれるのは、黒潮に乗ってくるためです。


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