2005年8月31日(水)「しんぶん赤旗」
因果関係を認めず
公調委
諫早干拓 漁業被害
総務省の公害等調整委員会は三十日、国営諫早湾干拓事業と漁業被害の因果関係を認めるよう求めていた有明海沿岸の漁業者の原因裁定申請を棄却しました。裁定では、有明海のノリ養殖、二枚貝のタイラギ漁などについては被害を部分的に認めたものの、諫早湾干拓事業との因果関係は、データ不足などを理由に「高度のがい然性をもって肯定するには至らない」と認定を避けました。
ノリの被害については「生産量や生産金額が通常の範囲を超えて低下した場合」とし、タイラギについては、「生産高が従前の水準を超えて低下した場合」に被害の発生を認めるとしています。この立場から被害を申請した漁業者十七人のうち十五人の被害を認定しました。
農水省は「干拓事業の影響は諫早湾内にとどまる」としているのにたいし、漁業者側は、干拓事業が有明海に影響し漁業環境の悪化をもたらしていると主張してきました。
裁定委員会の加藤和夫委員長は談話を発表し、「干拓事業が有明海における漁業環境に及ぼした可能性を否定するものではない」と強調した上で、データの蓄積が不十分で、因果関係の有無を認定し得なかったとのべています。
都内で会見した堀良一弁護士は、農水省が中・長期開門調査をしないことでデータの蓄積が困難になっていると指摘。「こういう裁定が許されるならサボタージュした者が勝ち。到底承服できるものではない」と批判しました。
■納得できない
佐々木克之・元中央水産研究所室長の話 公害等調整委員会は、諫早湾干拓事業と漁業被害との間の因果関係は「高度の蓋然(がいぜん)性をもって認めるには至らない」と裁定したが、まったく納得できない。水俣病において、チッソ工場廃水による魚介類汚染が明らかになったのに、原因物質が不明という理由で因果関係を認めなかったのと類似している。干拓事業が始まって以後、赤潮が増加し、タイラギ漁業が壊滅した。これらを引き起こした環境変化と干拓事業との間の関係は、現在までのさまざまな知見によって蓋然性が極めて高いと考えられるのに、「高度の」という言葉を冠して蓋然性を否定したのは、木を見て森を見ず、の例えのように、重箱のスミをつついて大局を見失ったものと判断される。「こういう可能性もあるが、別な可能性もあるので、蓋然性がない」という判断は、不可知論であり、農水省と同じ考え方にたったものである。独立した機関である公害等調整委員会の独立性に疑問を生じさせた裁定であった。
■公害等調整委員会
公害紛争処理制度(一九七二年に発足)に基づき、紛争の調停や仲裁、因果関係の裁定を行うために設けられた行政委員会。被害者救済の面から費用も安く迅速に解決するために生まれた制度です。これまで、水俣病や大阪空港騒音などの事件を扱ってきました。裁定は、被害と加害行為に対する因果関係の法律的判断を示し、解決を図る手続き。

