2005年8月23日(火)「しんぶん赤旗」

熊本・宇城

石綿鉱山跡地で中皮腫

住民、飛散による可能性


地図

 石綿鉱山があった熊本県宇城(うき)市(旧松橋=まつばせ=町、小川町)で、これまでないとされていたがんの一種・胸膜中皮腫による死亡例のあることがわかりました。死亡していたのは、職業的に石綿をあびた経歴がない男性で、大気中に飛散した石綿公害による中皮腫の可能性がでてきました。

写真

(写真)集落の裏山に岩肌が露出する石綿鉱山跡(熊本・旧松橋町)

 男性は、下益城郡小川町に在住し、一九九七年五月から精密検査のため、国立療養所熊本南病院(当時)に入院。悪性中皮腫と診断され、発症五カ月後に八十六歳で死亡しました。同病院の蛯原桃子医師(当時)らはこの症例を専門誌『呼吸』に発表(二〇〇一年、二十巻十号)しています。

 蛯原医師らの論文によると、男性は胸膜肥厚斑多発地区の小川町に生まれた時から居住している農業従事者です。石綿をあびる職業経歴もなく、喫煙歴もありません。

 論文は、「石綿の関与は明らかではなかった」としながらも「居住歴からみて一般生活環境下での石綿曝露(ばくろ)の可能性は否定できなかった。今後、下益城地区におけるさらなる発症例の観察と集積が必要である」としています。

 日本共産党の吉井英勝・前衆院議員の調べで、松橋町に隣接する宇土市でも、一九九五年以降、〇三年までに、二人が中皮腫で死亡していることが新たにわかりました。二人の石綿とのかかわりが注目されます。

■不安への対応急げ

 日本共産党のアスベスト対策チーム副責任者・吉井英勝前衆院議員の話 石綿採掘場の周辺で、直接石綿関連の仕事に従事していない人が、中皮腫で死亡していたという事実は重大です。死亡した人以外にも、中皮腫の疑いで手術を受けた男性や、この男性の妹で三十三歳まで松橋町に住んでいた人も中皮腫と診断されています。驚くほど多数の住民が胸膜肥厚斑と診断されています。

 住民が非常に強い不安をもっているにもかかわらず、国や県は誠実に対応していません。尼崎市の例にもならって、せめて無料の住民検診と経過観察を急ぐべきです。


■解説 高率で石綿吸引の証拠

 熊本県旧松橋町の鉱山から主に採掘された石綿は角閃石(かくせんせき)に含まれる「アンソフィライト」です。住民のなかにこの石綿による胸膜肥厚斑が多数みられるものの中皮腫の発生はないとみられてきました。

 蛯原桃子医師らの論文によると、アンソフィライトによる胸膜肥厚斑がみられるフィンランドでは、胸膜中皮腫の発生頻度の増加が報告されています。この増加は「これまで否定的であったアンソフィライトによる胸膜中皮腫の可能性を示唆している」といいます。

 旧松橋町の鉱山は一九六五年に閉山するまで八十三年の採掘の歴史があり、石綿製品の製造工場は、七〇年まで操業していました。

 松橋町では八八年の検診受診者のうち41・5%に石綿吸引の証拠である胸膜肥厚斑がみられ、小川町でも6・9%の高率だったことが報告されています。現在、胸膜肥厚斑の登録者数は、千六百十七人(〇四年)にのぼっています。石綿産業の従事者は少なく、大部分は一般住民です。石綿繊維が広範囲に飛散していたことを示しています。

 県の報告書では、中皮腫の症例がなく「住民に健康被害を及ぼしている状況にはない」として、国や県は現在、何の対策もとっていません。(松橋隆司)


■共産党の総選挙政策から

 <アスベストの除去を急ぎ、化学物質の有害性にかんする研究と規制を強める>

 いまになっても「できるかぎりのことはしてきた」といっている石綿関連業界と政府の責任は重大です。

 政府は、石綿に関する緊急全国実態調査(学校や米軍基地も含む)を実施し、公表するとともに、石綿の製造・使用等の全面禁止、在庫回収、安全除去などの被害防止対策、労働者・住民の安全対策、被災労働者等の被害者救済の徹底を早急に図るべきです。石綿関連企業や事業所周辺住民などの健康診断調査を原因企業と国の費用負担で緊急に実施し、地方自治体と協力して「相談窓口」を設置することも必要です。石綿の労災認定を抜本的に見直すとともに、すべての健康被害者を救済する新たな救済制度を早急に実現するよう求めます。

 ▼胸膜肥厚斑 肺をつつむ胸膜の外側で繊維が部分的に増殖し厚くなる病変。石綿を吸いこんだ客観的証拠になります。


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