2005年7月27日(水)「しんぶん赤旗」

小口口座 維持できず 民営化失敗

郵貯復活

ニュージーランド

現地リポート


 「郵政事業改革」の一環で一九八九年に郵便貯金を民営化したニュージーランド。いま人口四百万人のこの地で、国民の強い要望にこたえて、二〇〇二年に郵便貯金が復活、地域に密着した金融機関として再開業以来、堅実に預金者を増やしています。日本では小泉内閣が郵政民営化を強引に進めていますが、ニュージーランドではとっくにその破たんが証明されているのです。実態をリポートします。(ウェリントン=中村美弥子)

 「小口口座しか持たない私たち一家にとってキウイ銀行は、気兼ねなく利用できる銀行です」。ポール・キャリヤーさん(42)=ウェリントン在住=はいいます。「手数料が他の銀行よりも安いというのも助かります」

 キウイ銀行とは、国有企業ニュージーランド・ポストの子会社。十三年ぶりに復活した郵便貯金を運営しています。

■国民が要求

 同銀行は、全国の郵便局内に支店を開設しています。

 ニュージーランドでは、一九八七年に郵便事業省が「民営化」で廃止されました。郵便、郵便貯金、電信電話の郵便三事業は分割され、郵便貯金は八九年にオーストラリアのANZ銀行に売却されました。電信電話も九〇年に米国のベルアトランティック社に売却。郵便事業だけは公社化されてニュージーランド・ポスト公社になりました。「財政危機を解決するため」として八四年に始まった「新自由主義」の行財政改革の一環でした。

 ところが、郵貯民営化に、国民は不満を募らせました。銀行のサービスが納得できないからでした。

 金融市場の規制緩和で銀行が次々と買収され、九〇年代初めには同国の銀行の99%が外国資本に。これらの銀行は口座維持料を取り、さまざまなサービスに手数料を課しました。小口預金者は口座を維持することが困難になりました。さらに、相次ぐ支店の閉鎖で、銀行もATM(現金自動預払機)もない町が生まれました。

 他方、郵便貯金はもともと「国民銀行」と呼ばれ、国民の小口口座を運営し、低利での融資を行う身近な銀行でした。国民はその復活を求めました。左派の「連合党」が一九九九年の総選挙で「郵便貯金の復活」を公約に掲げました。最大野党の労働党がこの選挙で勝利し、連合党は連立政権に参加。そのもとで郵便貯金のキウイ銀行が誕生しました。

■毎日新規400

 今では――。

 「預金者は100%ニュージーランド資本のキウイ銀行に信頼を寄せています。預金者数は三十五万人を超えました。毎日四百人の新規顧客を獲得しています」。キウイ銀行のサム・ノウルス最高経営責任者(CEO)は自信をのぞかせます。同銀行の預金額は銀行業界のなかで2%のシェアしかありませんが、預金者数では5・6%を占めるといいます。

 ノウルスCEOは説明します。「国内最大の三百店舗を郵便局内に持ち、インターネットでの銀行取引も充実させ預金者のニーズに応えています。口座開設料を取らず、住宅ローンの金利を低く抑え、人々に利用しやすいサービスを提供しています」

 今後の事業展開の展望もあります。「中小企業向けのサービスに重点を置きます。始めたばかりの保険業務も充実させます。子どもたちに貯金を促していきたい。キウイ銀行が身近にあるからこそ、子どもたちにお金の管理方法を学ぶ機会を提供できるのです」

■速く確実 国民が信頼

 ビジネス街でも郵便貯金健闘

 復活した郵便貯金は、ビジネス街でも健闘しています。

 ウェリントンのビジネス街にあるパナマ・ストリート郵便局は、一年半前に開設されたばかりです。中心街にキウイ銀行の支店を置くことが目的でした。

 ダンカン・ブラウン郵便局長は「大学生からサラリーマンまで客層はさまざま。職場や大学校舎に近いということで身近な存在になっています」と説明します。同郵便局で窓口業務を担当するアリス・パドリーさんは「窓口の職員がフレンドリーなので、利用者は安心してお金を預けることができるのでしょう」と話します。

 手数料が安いキウイ銀行を意識し、手数料を見直すなどサービス向上を図る銀行が出てきました。準備銀行のエイドリアン・オール副総裁は「(キウイ銀行は)金融市場に健全性をもたらすことに一役買っている」(英紙「フィナンシャル・タイムズ」三月二十一日付)と評価しています。

 当初、税金を使った郵便貯金の発足を批判し、撤廃を訴えていた保守の国民党は、キウイ銀行の健闘を前に今は口をつぐまざるを得なくなっています。

 他方、ニュージーランド・ポスト公社(NZポスト)となった郵便事業はどうでしょうか。

 「長年かけて築きあげた全国ネットワークをもつNZポストほど効率的に郵便事業を展開できる企業は他にありません」。NZポストの労働者でつくる郵便労働組合のジョン・メイナード副議長は、首都ウェリントンの組合事務所で話します。

 八七年の公社化以来、NZポストは組織のスリム化に重点を置いてきました。採算の合わない過疎地を中心に郵便局を次々と閉鎖。一日に四百カ所以上を閉鎖したこともありました。北島の南タラナキ地方にある人口約九百人の町ノーマンビーでは、郵便局閉鎖に抗議して住民たちが生まれて初めてデモ行進をしたといいます。

 郵便事業が九八年に規制緩和されてからは、競争に勝つことが求められるようになりました。郵便事業には、これまでに二十七社が参入。多くはビジネスメールや一定の地域に絞った郵便サービスを提供していますが、NZポストを相手に苦戦し、撤退する社が相次いでいます。

 しかし、規制緩和でNZポストの労働者は過酷な労働条件となっています。

 「NZポストは規制緩和されても絶対的に優位に立っています。その立場を利用して事業を拡大、郵便職員にとってはますます過酷になっています」と前出のジョン・メイナード副議長が指摘します。

 「他社との競争にさらされ、郵便労働者の労働条件が悪化している」と指摘するのは、製造・建設労働組合のグレアム・クラーク書記長です。

 ニュージーランドで「ポスティ」と呼ばれる郵便配達職員は、郵便と一緒に商業チラシを各戸に配るようになりました。チラシ配布はNZポストの新事業です。これも配達職員にとっては過酷です。利益を上げるための郵便局の閉鎖や職員の労働強化――。それが負の側面です。それでも見逃せないのは、郵便を速く確実に届けるNZポストにたいする国民の信頼です。公社化以前に国の役割として築いてきた安定・平等の質の高いサービスを何とか受け継いでいるからです。


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