2005年7月20日(水)「しんぶん赤旗」

他社と比較してみると

「つくる会」教科書 公民の場合

明治憲法持ち上げ、日本国憲法を敵視


 侵略戦争を正当化する「新しい歴史教科書をつくる会」は、中学校の歴史教科書とともに公民教科書を作りました。公民の第一目標は「民主主義に関する理解を深めるとともに、国民主権を担う公民として必要な基礎的教養を培う」(学習指導要領)とされ、「日本国憲法の基本原則」(同上)の学習が重んじられています。「つくる会」公民教科書は、憲法をどう教えるのか、他の教科書(七社)と比較してみました。

■筆者は国民主権不要論

 一番の問題は、公民は憲法を教える科目なのに、「つくる会」は、日本が正しい戦争をしたという立場から、敗戦の結果うまれた憲法について否定的なことです。

 四年前の公民教科書の代表執筆者、西部邁氏は「我々が避けて通れなかったのが戦後憲法でして、これに対して批判的考察を加えました」と述べていました。今回の代表執筆者は、「つくる会」代表で「憲法に国民主権規定は不要」などと主張する改憲派の憲法学者・八木秀次氏です。八木氏のもとで新訂された教科書は、憲法敵視をより前面にだしました。

■帝国憲法をたたえて

 教科書は見開きで、明治憲法(大日本帝国憲法)と日本国憲法を対比して記述しています。

 明治憲法は「できるだけ国民の権利や自由をもりこ」んだものであり、「天皇の下で国民が暮らしやすい社会をつくるという……理想」をもった憲法と高く評価します。

 さらに「国民にたたえられた大日本帝国憲法」という十三行のコラムまでついています。

 逆に日本国憲法はどうでしょう。

 「連合国軍総司令部は約一週間で憲法草案を書き上げ、日本政府に手渡した」など、記述の大半が、アメリカから押しつけられた憲法という説明です。国民が歓迎したという記述はありません。検定で削除となりましたが、占領軍が関与したため憲法の正当性が問われるという記述もあったほどです。

■歴史的転換何も語らず

 しかし、明治憲法では主権者は天皇であり、国民の権利は抑圧されていたのが現実です。そのもとで、国民は侵略戦争にかりたてられました。

 日本国憲法はその反省の上に、国民主権、平和主義などを基本原則として制定されました。明治憲法から日本国憲法への歴史的転換のなかに、現憲法の意義があります。

 他のどの教科書もこの転換を説明しますが、「つくる会」教科書は何も語りません。(表)

■主権の移行あいまいに

 憲法敵視の立場は、国民主権の説明にもあらわれています。

 他の教科書は、戦前は主権者が天皇だったが、戦後は国民に移行したと説明します。

 ところが、「つくる会」教科書では、戦前は天皇主権だったという説明がなく、主権の移行がわかりません。さらに、国民主権の「国民とは、私たち一人ひとりのことでなく、国民全体をさす」と強調します。他の教科書にはない言い方です。

■特異な国民観のルーツ

 象徴天皇制について、他の教科書は天皇が主権者でなくなったために、天皇にいっさいの政治的権限がなくなったことを説明します。

 「つくる会」教科書は、ここでも天皇が主権者でなくなったことを説明しません。むしろ、天皇は「国家が危機をむかえたときは、国民の気持ちをまとめる大きなよりどころ」と強調。象徴天皇制はそうした「天皇と国民との伝統的な結びつきが確認され」たものだと説明します。

 ここまでくると、「国民とは一人ひとりのことでなく」という前出の記述の真意がわかります。「国民」とは、天皇と伝統的に結びついている集団という意味です。

 この特異な国民観にはルーツがあります。それは戦前の神がかり的な教育に使われた「国体」観念です。

 「我等(われら)臣民は、西洋諸国に於(お)ける所謂(いわゆる)人民と全くその本性を異にしている」(一九三七年、文部省思想局『国体の本義』)

 日本は天皇の国であり、そこにうまれた国民は、一人ひとりの人民といった西洋的なものとは質的に違うという論理です。

 戦後になり「臣民」とは言えなくなりましたが、国民を天皇との関係でとらえる点では同じです。

■九条狙う改憲への誘導

 「つくる会」教科書は改憲の後押しが露骨です。

 改憲をめぐっては多様な意見があります。国民的に意見がわかれている問題について、一方的な偏向教育はすべきではありません。基本的事実を教え、子どもが自分の頭で考えることができるようにすることが大切です。

 他の教科書は、憲法の平和主義の尊さを述べながら、自衛隊合憲説や違憲説、改憲説を公平に説明します。自衛隊の活動についても、賛否の両論を記しています。

 ところが、「つくる会」教科書はちがいます。「各国は国力に応じた一定の戦力をもつことで、平和を維持しようとしている」「自衛隊は…軍とみなしている外国も多い」「自衛隊を中心に国連平和維持活動(PKO)にも積極的に取り組み、しだいに責任ある国際社会の一員として認められるようになってきた」

 自衛隊は世界から評価され、その現実に憲法九条が対応できていないという誘導的な記述です。

 さらに世界各国の憲法は何回も改定されているのに、日本は一度も改定されず「世界最古」の憲法だというコラムをのせています。これは、じつは改憲派が改憲のためにもちだしている議論の引き写しです。

 子どもたちが憲法をどう学ぶかは、日本の民主主義の将来を左右します。憲法を否定的にみる「つくる会」の教科書は「憲法の基本原則」を伝えているとは言えません。

■公民の巻末資料の比較

 他社がすべて掲載し、「つくる会」教科書が掲載していない法令……子どもの権利条約、世界人権宣言、労働組合法

 他社が抜粋を掲載し、「つくる会」教科書が全文を掲載する法令……大日本帝国憲法

■明治憲法、日本国憲法の記述の違い

■明治憲法

●「つくる会」の記述

 「できるだけ国民の権利や自由をもりこみ、同時に伝統文化を反映させようとする努力が注がれた憲法でもあった」

 「天皇の下で国民が暮らしやすい社会をつくるという憲法の理想」

 「国民にたたえられた大日本帝国憲法」「発布の日の東京は祝賀行事一色となった」

●他社の教科書記述

 「天皇が主権をもち、その地位は神聖なものとされ、軍隊の指揮権をはじめ大きな権限をもっていました」(教育出版)

 「人権は天皇が恩恵によってあたえた『臣民ノ権利』とされ、法律によって制限されるものとしました。実際の社会でも、政府を批判する政治活動や自由な言論が抑圧されました」(東京書籍)

 「国民の意見を聞かず、政府だけで秘密裏につくって、天皇の名前で憲法を国民に発布した」(日本書籍新社)

■日本国憲法

●「つくる会」の記述

 「連合国軍総司令部は約一週間で憲法草案を書き上げ、日本政府に手渡した」「政府は英語で書かれたこの憲法草案を翻訳・修正し、改正案として帝国議会に提出した」

●他社の教科書記述

 「ポツダム宣言には、軍国主義を取りのぞくこと、民主主義を強化すること、基本的人権の尊重を確立することなど、降伏後に日本がとるべき方針が示されていました。そのため、大日本帝国憲法を根本的に改める必要がありました」(大阪書籍)

 「長く苦しい戦争体験をへて、専制的な権力がいかに危険かを学んだ国民は、日本が自由と民主主義と平和の方向に新しく生まれ変わることに大きな期待をよせました」(清水書院)


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