2005年7月2日(土)「しんぶん赤旗」
ワールドリポート
イラン
揺れる若者たち
「改革」と将来不安の中で
イラクと並ぶ石油大国のイラン。六月の大統領選挙で、イスラム教の教義を厳格に守る立場をとるアハマディネジャド氏が圧勝しました。六千八百万人の人口のうち二十五歳以下が過半数を占め、十五歳以上が選挙の投票権を持つなど、若者が大きな比重を占める国です。かつては「改革派」のハタミ大統領誕生の原動力となった若者たちの思いを追いました。(テヘラン=小泉大介 写真も)
イランの首都テヘランの繁華街。ブルーやピンク、黄色など色とりどりのスカーフを軽やかにかぶる若い女性たちの姿が目立ちます。チャドルと呼ばれる黒い布で全身を覆った女性はここでは少数派です。
■文化は自由に
中には手をつないで歩くカップルも。八年前に誕生したハタミ大統領がすすめた「改革・開放」政策の成果です。一九七九年の革命以来、イスラム教に基づく厳格な統治体制がつづいていたイランでは、「改革」開始まで男女が表で手をつなぐことはご法度だったといいます。
そんな若者たちに、どんな音楽が好きと聞くと、返ってきた多くの答えがセリーヌ・ディオン、マライア・キャリーなど欧米の歌手の名前でした。文化の「自由化」「開放」を支持する声は圧倒的でした。
その一方、将来の生活の話になると、さまざまな不満や不安、さらには「もう政治家は信用できない」といった声が次々出されました。
テヘラン大学の女子学生、マルヤム・ババザデさん(22)は、「私の周りでは、大学を出ても半分以上が定職につくことができません。外国との対話を重視するハタミ大統領の政策には大賛成ですが、私たちの経済困難を解決できない政治では困ります」。
不定期の翻訳の仕事をする男性、アミルレザ・アミルソレイマニさん(26)も、「月収はせいぜい二百ドル(約二万二千円)から三百ドルほど。昔なら二十五歳くらいまでに多くが結婚していましたが、いまは私のように経済的理由で独立、結婚できない同世代がどんどん増えています。世界有数の産油国なのに、いったいどうなっているのでしょう」と語り、「このままでは結婚できるのは五十歳になってしまう」と嘆きました。
■失業実質30%
政府の統計では失業率は16%ですが、実質的には20%とも30%ともいわれます。昨年の消費者物価上昇率は約15%。「経済自由化」の八年間で貧富の差はかえって拡大し、そのしわ寄せが若者の肩に重くのしかかっているのです。
「若者の関心は社会的自由だけでなく、経済や社会保障など多岐にわたるようになっており、彼らは確実に将来にたいして敏感になっています」。代表的通信社であるイラン学生通信のアボルファジ・ファテー編集責任者(37)はこう指摘したうえで、「今回の大統領選では、人口の多数を占めるこの若者の信頼をいかに勝ち取るかが問われていた」とのべました。
国民から「改革派は貧しい庶民のことを忘れてしまった」との声も出る中、大統領選決選投票で圧勝したテヘラン市長のアハマディネジャド氏は「イラン革命の精神への回帰」とともに、「公正な社会の実現」「特権階級が独占する石油利益の貧困層への分配」を公約の前面に掲げました。
経済改革の具体像が示されたわけではありませんが、豪華市長公邸への入居を拒否し大衆車に乗る「清貧」イメージの同氏が語る言葉に、少なくない若者が希望を見いだしたのは確かです。
「イラン革命の精神がどういうものかよくわからない。でも、飾らない生活と仕事ぶりの市長なら、庶民の味方になってくれると思う」「不自由な生活は嫌だけれど、仕事がないほうがもっとつらい」。アハマディネジャド氏に投票した若者たちはいいました。
イランの若い世代の心は、「改革」の成果と悪化する経済状態のはざ間で揺れ動いていました。

