2005年6月24日(金)「しんぶん赤旗」

憲法九条を守り抜けば世界史的な出来事に

戦争は金融も科学も動員

経済同友会終身幹事の品川正治さんの講演から


 日本経団連など財界団体がこぞって改憲を叫ぶなかにあって、財界人の立場から警告を発している経済同友会終身幹事の品川正治氏。18日に開かれた「損保9条の会」の結成集会での記念講演は、参加者に深い感銘を与えました。講演の要旨を次に紹介します。(文責=金子豊弘)


顔写真
しながわ・まさじ 東京大学法学部卒業。日本興亜損保(旧日本火災)の社長・会長を経て相談役。経済同友会副代表幹事、専務理事を経て終身幹事。現在、国際開発センター会長

 私は、この国を憂う立場から話をしたいと思います。
 私の姿勢の根底にあるもの。その一つは、戦争を始めるのも人間なら、それを許さないのも人間だという気持ちです。

 それからもう一つ。私は、世界から紛争がなくなるとは思っておりません。しかし、紛争を戦争にしない力は人間が持っている。紛争があっても、それを戦争にしないのが私が理解している九条の精神です。武力がなければ戦争にならないことははっきりしています。武力を放棄し、戦争を放棄する憲法九条が歯止めになっているのは間違いございません。

価値観を集約

 戦争になぜそれだけ反対するのかといえば、戦争は価値観が全部「勝つ」ことに集約され、民主・自由・民権を従属させてしまうからです。戦争中に「欲しがりません勝つまでは」という言葉がはやりました。「勝つ」ことが最高の価値観になります。そして何を動員してもいいことになります。それが戦争の現実の姿です。

 アメリカをみれば分かると思います。外交も、金融も、あるいは科学もすべて戦争に動員されている。兵隊は十カ月以上は戦場におかないという契約を実行するには、ドイツ、韓国の駐留部隊を動かす。いま一番気になるのは、世界で冠たるロボット王国になり、ロボットが兵隊の代わりをする。ロボットに殺され、戦死する時代がこようとしています。

 日本のロボット学会は介護などにあたる本当の意味での最先端技術であるべきだと、断固拒否をしていますが、科学が戦争に動員される恐ろしさは、私たちは無視できません。

 アメリカが戦時態勢に入っていることに関して日本の政界、経済界は少し甘く見すぎていると思います。戦時態勢のアメリカが最大限に利用したいのは日米同盟です。日米同盟の片方のアメリカが戦時態勢に入っている時になぜ、今、憲法九条をいじろうというのか。外圧を借りてという了見なら許せない。これほど、この国の形を粗末にする考え方はないと思います。

「普通の国」は

 改憲へ向け、経済界が先鞭(せんべん)をつけている印象をみなさんもお持ちだろうと思います。私が属している経済同友会が提言を出し、日本経団連も憲法改定を問題にし、日本商工会議所も具体的な条文の改定に関して提言をしています。

 なぜ経済界はこうなったのか。今の経済界の欠点は、「もっと成長」「もっと近代化」を目指すばかりで現代の課題が見えないからです。ましてや九条がもっているさん然と輝く光は見えません。むしろ「普通の国」になれといっている。二十世紀型、十九世紀型の「普通の国」を志向して、軍隊がないことが、「普通の国」として欠落しているとしか見えないのです。

 「普通の国」という言葉と九条を変えようという言葉はまったく同じです。グローバリゼーション(地球規模化)という言葉も、アメリカが戦争している以上、経済用語ではなく、戦略用語です。

 でも、憲法九条を守ることはそんな生易しいことではありません。今が勝負です。

相手は米国

 日本で改憲が失敗したときの怖さをアメリカの方がよく知っているんです。アメリカの中枢部にいる人は、日本が改憲をすることについて、「準備不足じゃないか」「本当に大丈夫か」と話していました。

 相手は基本的にアメリカです。本当に何をしかけてくるか分かりません。

 ドルは基軸通貨です。世界の物価体系をいじろうと思えばいじれるんです。イラクの自衛隊が人的被害を受けるかもしれません。もうすでに日本も戦争状態じゃないかという状況をつくってしまう可能性もあります。アメリカが不利な状況になればなるほど、日米同盟の使い方も変わってくるだろうと思います。

 同時に、ここで本当にわれわれがこの攻撃をはね返せた場合、世界史に残る事件になります。

 アメリカがどういおうと、「絶対に戦争はしない国だぞ」「私のところはやらないですよ」と、それをはっきり言い切って国際的に活動するようになれば、現代の課題である貧困一掃など、ほとんどを日本が一番解決しやすい国になります。

 これだけの運動を覚悟を決めてやり抜くだけの値打ちはあります。この運動は、世界史にまさに参画しているのと一緒です。

最大の贈り物

 不当にしかけられた攻撃にたいして「守る」という言葉を使います。「守る」というと、どうしても受け身のような感じがあります。でも、そういう意味じゃなくて、この九条を本当に守った場合には、世界史的な役割を果たすことになります。奇妙な例えですが、ベルリンの壁の崩壊に匹敵する世界史的な出来事になるでしょう。

 世界第二位の経済大国である日本がアメリカとはまったく考え方が違う国になります。日米同盟の体制も変わります。日中韓を含めたアジアの変わり方、ひいては世界全体の変わり方は想像できないほど大きいでしょう。

 そういう世界を自分の子どもや孫たちに残したい。日本の国力を使って現代の課題を担っていきます。本来の福祉は、こういうものだ、本来の教育とはこういうものだ、と日本がいえる時代が来ることは、二十一世紀の最大の贈り物です。

やる気満々

 どういう日本を残していくか、そういう決定権のある時期に、通常はなかなか巡り合えません。でも、こういう形で不当に仕掛けられた限りは、「よしやってやる」。私もやる気満々になっております。


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