2005年6月9日(木)「しんぶん赤旗」

靖国神社とそっくり

侵略正当化

「つくる会」教科書


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「つくる会」歴史教科書(見本本)と申請本

 日本の戦争は「自存自衛」の「アジア解放」のための正しい戦争だった――。時計の針を日本の敗戦以前に巻きもどし、子どもたちに靖国神社の歴史観=靖国史観を植え付けようとする、「新しい歴史教科書をつくる会」の『新しい歴史教科書』(扶桑社刊)。その内容は、別表のように言葉や話題、論理の流れまで靖国史観とそっくりです。靖国史観の教科書版。それが「つくる会」教科書です。

 教科書と比較したのは、靖国神社内にある遊就館(ゆうしゅうかん)の展示内容を紹介する「遊就館図録―靖国神社」と、同館で販売されている「歴史パノラマ写真集」の『昭和の戦争記念館』(全五巻)など。写真集刊行会顧問には靖国神社宮司・湯沢貞氏(当時)の名前があり、写真集の編集長は名越二荒之助(なごし・ふたらのすけ)氏=元高千穂商科大教授=です。

 名越氏は「つくる会」の賛同者で、同会で講演などもしています。名越氏以外にも「つくる会」と靖国神社の人脈は共通部分があり、基本的立場を同じくする勢力が教科書づくりに乗り出しているのです。

 内容の一体ぶりを、アジア侵略と太平洋戦争にかかわる部分に限定してみてみましょう。

(1)日中戦争

 日中戦争の全局面について、つくる会教科書は、「侵略」という言葉をいっさい使いません。それどころか「満州事変」では、「中国人による排日運動もはげしく…日本人への迫害などが頻発した」と教科書。写真集も「日本の権益が締め出され、排日デモが次々」「邦人が少々危険にさらされても…じっと我慢しておればよかったのであろうか」などと記述します。他国の地で日本の利益だけが正当で、抵抗したから武力で制圧した、という侵略者の責任転嫁の論理でともにつらぬかれています。

(2)朝鮮併合

 朝鮮についても「日本の生命線」(写真集)、「朝鮮半島は…日本の安全保障にとって重要」(教科書)という共通した見方です。ともに、韓国の「併合」時に抵抗を武力でおさえつけたことや韓国民衆の苦しみなどには触れず、自国の「都合」で植民地支配を正当化しようとしています。

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「つくる会」歴史教科書の「大東亜戦争」記述

(3)太平洋戦争

 太平洋戦争については教科書も、靖国神社も「大東亜戦争」という戦争中の名称に徹底してこだわっています。それは当時の日本政府が「欧米勢力を排除したアジア人による大東亜共栄圏の建設」(教科書)を掲げ、「自存自衛」の戦争としたからです。教科書も写真集も「米・英・中・蘭の四国」の「ABCD包囲網」で日本が追いつめられたとし、開戦を「強要」(写真集)された――。これが戦争正当化の共通した筋書きです。侵略戦争がアジアで“歓迎された”ことを示す材料として、インドネシアに、他国から独立を助ける勢力がくるという伝説を紹介するのも同じです。

(4)戦争観

 教科書も靖国神社も、かつての日本政府の宣伝そのままに、侵略戦争は「アジア解放のため」、東南アジア諸国に「独立への夢と勇気を育んだ」と主張します。そして米占領軍の「宣伝」や「東京裁判」で、「日本人の自国の戦争にたいする罪悪感」がつくられた、というのが教科書の立場です。

 靖国神社後援のビデオ「私たちは忘れない」にこんなくだりがあります。「日本を侵略国と断罪した東京裁判の不当性を暴き、刑場の露と消えた『戦犯』の無念をふりかえる」

 これが教科書の本音であり、主張なのです。


靖国神社と「つくる会」教科書の一致点・類似点

(注=「図録」は遊就館図録、「写真集」は靖国宮司が顧問の歴史パノラマ写真集「昭和の戦争記念館」〔名越二荒之助編〕をさす)

項目「つくる会」教科書靖国神社
三国干渉日本は、中国の故事にある「臥薪嘗胆」を合言葉に、官民あげてロシアに対抗するための国力の充実に努めるようになった。三国干渉への屈服は日本の実力を改めて思い起こさせた。国民はロシアの介入に憤激し…「臥薪嘗胆」が国民の合言葉になった。(図録)
日露戦争…日本が、…ロシアに勝ったことは、植民地にされていた民族に、独立への希望をあたえた。日露戦争の勝利は、…植民地化されたアジア諸民族に希望と自信を与え、その民族の独立を促した。(図録)
韓国併合朝鮮が他国におかされない国になることは、日本の安全保障にとっても重要だった。わが国は…わが生命線である韓国の保護を訴え、…ポーツマス講和条約に調印した。(図録)
満州事変満州で日本人が受けていた不法行為の被害を解決できない政府の外交方針に不満をつのらせていた国民の中には、関東軍の行動を支持する者が多く、陸軍には多額の支援金が寄せられた。満州事変も、邦人が少々危険にさらされても、…大尉が殺害されても、じっと我慢しておればよかったのであろうか。…そこまで悠長に待つことはできなかった。(写真集)
…関東軍の一撃(注・柳条湖事件)によって、新聞も国民も一斉に溜飲をさげた。…感謝の慰問袋ばかりではなく、国防献金や軍の行動を支援する集会等が全国規模で起った。(写真集)
日米関係アメリカは…日本が独自の経済圏をつくることを認めなかった。日中戦争では、…表面上中立を守っていたが、この前後から、中国の蒋介石を公然と支援するようになった。日米戦争にいたる対立の一因は、ここにあった。
…アメリカは日米通商航海条約を延長しないと通告した。石油をはじめ、多くの物資をアメリカからの輸入に依存していた日本は、しだいに経済的に苦しい立場に追いこまれた。
日米開戦を避けるべく日本は日米交渉に最大限の努力を尽すも、米国民の反戦意志の中対独参戦を決意し、英国・中国への軍事援助を粛々と進めるルーズベルトに残された道は、資源に乏しい日本を禁輸で追い詰めて開戦を強要する以外になかった。(図録)
ABCD包囲網経済封鎖で追いつめられる日本…米・英・中・蘭の4国が日本を経済的に追いつめる状況が生まれ、ABCD包囲網とよばれた。日本はなぜ米・英という世界の大国を相手に戦争したのか。…小さな日本が、追い詰められて遂に起ち上ったというのが、素朴な受けとめ方ではないか。…日本はABCDの四カ国によって包囲されたのである。(写真集)
ハル・ノートアメリカは…強硬な提案(ハル・ノート)をつきつけた。これを最後通告と受けとめた日本政府は、最終的に対米開戦を決意した。…ハル・ノートの概要が報告された。…苛酷かつ高圧的な内容であり、政府は最後通牒と判断。…宮中の重臣懇談会でも「開戦やむなし」と了承された。(図録)
「自存自衛」日本は米英に宣戦布告し、この戦争は「自存自衛」のための戦争であると宣言した。日本政府は、この戦争を大東亜戦争と命名した。…大東亜戦争という対外戦争がございました。…我国の自存自衛の為、…避け得なかった戦いがございました。(図録)
「大東亜戦争」とアジア諸国日本の緒戦の勝利は、東南アジアやインドの人々に独立への夢と勇気を育んだ。
アジアの人々を奮い立たせた日本の行動。日本の南方進出は、もともと資源の獲得を目的としたものだったが、アジア諸国で始まっていた独立の動きを早める一つのきっかけともなった。
緒戦で挙げた空前の成果…開戦とともに日本は破竹の進撃を続けた。…欧米諸国を撃攘してしまった。アジア諸民族にとって夢にも思わなかったことがアッという間に実現した。(写真集)
大東亜戦争に刺激されたアジア、アフリカの国々は独立の戦いを強め、その独立を達成していった。(図録)
日本は戦に敗れたが、アジアの諸民族は、大東亜戦争を触媒として戦後は旧植民地勢力と戦い、苦難の中に自力で独立を獲得した。(写真集)
インドネシア独立…インドネシアでは、昔から一つの伝説が口づたえに語りつがれていた。「今に北方から黄色い人々があらわれて、圧制者を追放し、トウモロコシの実がなるころには立ち去る。そうして、われわれは解放される」。インドネシア人は、日露戦争で日本海軍がバルチック艦隊を破って大勝利を収めたことを知って、「北方から来る黄色い人々とは、日本人のことにちがいない」と信じるようになり、ひそかに日本の南進を待ちこがれた。陸軍報道宣伝班…「…独立を援けるため到来しました」と宣伝することであった。これらの宣伝は、白馬に跨る英雄率いる神兵が渡来して、インドネシア独立を援けてくれる、という伝説と相まって奏功し、またたく間にインドネシア人の心をつかんだ。(写真集)
東京裁判この裁判で、被告は「平和に対する罪」をおかしたとされた。…こうした罪で国家の指導者を罰することは、それまでの国際法の歴史にはなかった。東京裁判でただ一人の国際法の専門家だったインドのパール判事は、この裁判は国際法上の根拠を欠いているとして、被告全員の無罪を主張した。
…東京裁判については、国際法上の正当性を疑う見解や、…肯定する意見があり、今日でもその評価は定まっていない。
終戦直後、…一方的な戦勝国の論理に基づく、不当な裁判が行われたのです。極東国際軍事裁判。いわゆる東京裁判です。…いくつかの残虐行為と称するものを、確たる証拠がないまま、歴史事実として断罪しました。…悪いのは軍部と政府であることを国民に宣伝するために行ったとみる向きもあります。…ウエッブ裁判長も、…キーナン検事も、この裁判は誤りであったと述べています。(靖国神社後援のビデオ「私たちは忘れない」)
パール判事講演録…欧米こそ憎むべきアジア侵略の張本人であることがわかるはずだ。…誤られた歴史は書きかえられねばならぬ。(図録)

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