2005年6月6日(月)「しんぶん赤旗」
輸入豚肉
大手ハム脱税の手口
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輸入豚肉の差額関税制度を悪用した関税脱税事件で、東京地検特捜部は大手食肉加工メーカー「伊藤ハム」(兵庫県西宮市)の幹部社員を聴取しました。昨年の日本ハム子会社の脱税摘発に続く今回の伊藤ハム幹部社員聴取で、「大手ハムメーカーが中心となった構造的な問題」(日本共産党の高橋千鶴子衆院議員)にようやくメスが入ろうとしています。「牛肉偽装のハンナン事件より奥が深い」(業界関係者)といわれる豚肉脱税の実態は――。
差額関税制度とは
差額関税制度は、一九七一年の輸入自由化のさい、安い輸入豚肉が大量に入ってきて、国内産豚肉が値崩れするのを防ぐため創設されました。
この制度では、まず基準輸入価格(部分肉ベースで一キロ五百四十六・五三円)を設定。これより安い価格で買いつけたものには、基準輸入価格と同額になるまでの関税をかけます。そうすれば、基準輸入価格より安い豚肉が国内で流通することがなくなるはず――というねらいです。
他方、高い価格で輸入されるものには、一律に低率関税(4・3%)を適用します。
脱税業者はこの仕組みを悪用し、安価な豚肉を、基準輸入価格に近い高い価格で購入したようにみせかける虚偽の価格を税関に申告します。
例えば、海外で一キロ四百円で購入した豚肉を五百円で購入したと申告すれば、関税は一キロ四十六・五三円で済み、百円のもうけ(脱税)になります。
取引を複雑に偽装
このやり方で千トン輸入すると、一億円のもうけになります。BSE(牛海綿状脳症)や高病原性鳥インフルエンザの影響もあり、輸入豚肉は急増。昨年だけで国内産に匹敵する約八十六万トンも輸入されており、脱税額はこれまでに数千億円に上るといわれています。
先日摘発されたフジチクだけで、二〇〇二年五月から〇三年九月までで、六十二億八千万円の関税を脱税していました。
脱税の手口も、財務省の青山幸恭大臣官房審議官が五月十七日の国会で高橋衆院議員に答弁したように、「取引を非常に複雑に偽装するということで、悪質巧妙化」しています。
今回の疑惑でも、輸入窓口となった会社の社長は、名義だけで、実質的に支配していたのは別の人物とみられています。さらに、豚肉が伊藤ハムに納入されるまでにダミー会社などを約十社も介在させていました。
「真の輸入業者」は
豚肉の所有者を複数のペーパーカンパニーを使って、次々変え、「真の輸入業者」を隠すのが脱税業者の常とう手段です。
税関も名義会社だけでなく、「真の輸入業者」を摘発することに力を入れています。輸入豚肉で一番もうけているのは、裏ポークと呼ばれる脱税豚肉を安く仕入れ、ハムやソーセージに加工する大手ハムメーカーです。これまではアウトサイダーといわれる輸入業者が摘発され、大手ハムメーカーや大手商社が摘発されることはめったにありませんでした。
問題は企業の体質
日本ハムの会長や伊藤ハムの会長が歴代の理事長を務めてきた日本ハム・ソーセージ工業協同組合は〇三年七月、農水省に差額関税制度の廃止を要請しています。
ハム・ソーセージ工業協同組合は差額関税制度について、「複雑な関税制度のため悪用されやすい」という理由で、制度自体をなくそうというのです。しかし、制度を悪用するかどうかは、企業にコンプライアンス(法令順守)を徹底する姿勢があるかどうかの問題です。
例えば、連結売上高一兆円に迫る日本ハムはこれまで牛肉偽装事件、農水省からの補助金不正受給、食肉格付けごまかし、無許可ワクチンの豚への使用など数々の違法行為が発覚しています。制度よりも企業体質に問題があるのは明白です。
豚肉脱税を国会で追及してきた高橋衆院議員はいいます。
「日本の畜産農家を守るための制度の撤廃を求める一方で、この制度を利用して悪質な脱税行為を繰り返すのは、許しがたい行為です。同時に、容易に脱税できないような制度に改善することも必要だと思います」


