2005年5月25日(水)「しんぶん赤旗」

談合天国ニッポン

国民の損 数千億円!?

見つかったって 課徴金は欧米の3%


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 日本経団連の有力会員である大手企業などが談合で長年にわたり国民の税金から不当利益を分捕り合っていた――。過去最大級の摘発となった鋼鉄製橋梁(きょうりょう)談合事件からはこんな構図がみえてきます。なぜ、このようなことを大手企業はつづけてきたのか。背景には、諸外国と比べてもけた違いに談合に甘い制度と政財界の癒着があります。(山本豊彦)

税金から不当利益 数十年

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▲鋼鉄製橋梁の一つ、本四架橋の因島大橋=広島県因島市

 「かなり前から談合を繰り返していた。非常に悪質」

 公正取引委員会の杉浦総一郎・第二特別審査長は二十三日の記者会見でこう語りました。公取委は独占禁止法違反(不当な取引制限)で談合を主導していた八社を刑事告発しましたが、その理由の一つに、談合が数十年にわたってつづけられたことをあげています。

 しかも長年、談合組織(別項「K会(旧紅葉会)」と「A会(旧東会)」)で談合をつづけてきたのは、新日本製鉄(東京・千代田区)や三菱重工業(港区)など大手企業でした。

 橋梁の中でも鋼鉄製のものは、橋脚と橋脚との間を長くとれるため、大型プロジェクトでよく使われてきました。映画にも登場した東京のレインボーブリッジや横浜ベイブリッジ、本四架橋の一つ、明石海峡大橋などはすべて鋼鉄製です。

 談合は、入札前に受注予定企業を決めるだけでなく、その企業が予定価格ぎりぎりの高値で落札できるように入札参加企業が“協力”するシステム。これにより受注予定企業は、公正な競争入札がおこなわれたとき以上の不当利益を得ることができる仕組みです。

 公取委が今回、告発の対象としたのは、二〇〇三―〇四年度の国土交通省の関東、東北、北陸の三地方整備局が発注する橋梁上部工事。談合を裏付けるように平均落札率(予定価格にたいする落札額の割合)は約94%にのぼっています。

 国交省発注工事の原資は、国民の税金。談合による受注企業の不当利益、国民にとっての損害額はいくらになるのか――。

 確定した数字はありませんが、一九九六年に長崎県や広島県で発生した談合事件について各県警は、損害額を落札額の10―20%とみていました。過去の判例の多くは、談合による損害額を契約額の5―10%と認定。そのため国交省も〇三年から、直轄工事の入札で談合が確認された場合、契約額の10%を談合違約金として国に払わせることになっています。

 公取委の告発対象だけをみても発注総額は約六百七十億円。単純にその10%を損害額とすると六十七億円。告発対象だけでなくすべての入札で談合がやられているとすれば、鋼鉄製橋梁の年間市場規模は〇三年度で三千五百億円ですから、その10%を損害額とすると年間三百五十億円。それが数十年つづいていたのですから、橋梁談合事件による国民の損害は数千億円にのぼる計算になります。

独禁法改正 財界が大反対

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▲レインボーブリッジ=東京・港区

 談合組織のメンバーの新日鉄。同社会長は日本経団連副会長です。新日鉄は○三年、ステンレス鋼板の価格カルテルで排除勧告を受け、今年三月には約十三億円の課徴金納付を命じられています。談合組織のメンバー四十九社のうち九社が、過去十年間に独禁法違反で排除勧告を受けています。

 なぜ、日本を代表する企業が長年、談合に加わりつづけたのか――。

 現在の独禁法では、談合が明らかになった場合、国に課徴金を納めさせる仕組みです。課徴金の額は、違反対象となった受注額のわずか6%。大手ゼネコン幹部も「運悪く見つかって課徴金を払っても、談合をした方が得」というほどです。

 一方同じようなケースで、EU(欧州連合)の制裁金は違反対象にとどまらず、会社の全体の売り上げを対象に10%を上限に算出。アメリカでは違反対象の売り上げの15―80%の罰金がかかります。

 そのため日本共産党の塩川鉄也衆院議員の調べでは、課徴金などを一番多く払った企業の金額を比較してみると、EUやアメリカでは五百億円台にたいし、日本はわずか十六億円となっています。(グラフ参照)

 これでは談合の抑止力にはなりません。

 このため公取委は、現行の課徴金を引き上げる独禁法改正を準備してきました。

 これに真っ向から反対したのが日本経団連。そのため公取委は当初、現行6%を二倍程度引き上げることを検討していましたが、財界の抵抗を受け、10%の課徴金に抑えざるを得ませんでした。

 この10%の課徴金さえ経団連は抵抗。同法改正案は昨年の通常国会に提出する予定でしたが、経団連の意向も受け自民党は法案提出の見送りを決定しました。

 この見送りを受け経団連は昨年九月、献金をする際の参考にする“通信簿”を発表した時、自民党にたいしてわざわざ「独占禁止法改正案(閣法)の通常国会提出を見送り…」と特記したほどでした。経団連は献金まで使って課徴金引き上げを抑えようとしたのです。次の臨時国会に出た民主党の対案は、政府案より甘いもので財界よりと批判されたほどでした。

 日本共産党は大企業の課徴金を現行の三倍に引き上げる修正案を提出。「政府案は内容的には不十分だが、談合事件の根絶に向け課徴金算定率を引き上げるなど全体として強化する改正案」(塩川議員)として政府案に賛成、今年四月に成立しました。

 公取委が当初検討していた課徴金を二倍程度に引き上げる案に「経済協力開発機構(OECD)」は「対日フォローアップ報告書」(昨年七月)で次のように指摘しています。

 「国際的なコンセンサスにより近づくものであるが、効果的に違反行為を抑止するためにはいまだに低すぎる」

 日本の経済界、政界の姿勢が問われています。


橋梁談合組織メンバー49社

【K会(旧紅葉会)】
横河ブリッジ(東京都港区)=常任幹事
石川島播磨重工業(千代田区)
宮地鉄工所(中央区)
JFEエンジニアリング(千代田区)
東京鉄骨橋梁(港区)=以上副幹事
川崎重工業(神戸市)
サクラダ(千葉市)
新日本製鉄(千代田区)
住友重機械工業(品川区)
瀧上工業(中央区)
楢崎製作所(北海道室蘭市)
日本橋梁(大阪市)
函館どつく(北海道函館市)
日立造船(大阪市)
松尾橋梁(同)
三井造船(中央区)
三菱重工業(港区)

【A会(旧東会)】
川田工業(富山県南砺市)=常任幹事
高田機工(大阪市)
栗本鉄工所(同)=以上副幹事
宇野重工(三重県松阪市)
宇部興産機械(山口県宇部市)
片山ストラテック(大阪市)
川鉄橋梁鉄構(台東区)
巴コーポレーション(中央区)
名村造船所(大阪市)
日本車両製造(名古屋市)
日本鉄塔工業(江東区)
ハルテック(中央区)
東日本鉄工(台東区=破産)
富士車両(滋賀県守山市)
サノヤス・ヒシノ明昌(大阪市)
住友金属工業(同)
辻産業(長崎県佐世保市)
東海鋼材工業(愛知県飛島村)
東鋼橋梁(中央区)
トピー工業(千代田区)
神戸製鋼所(神戸市)
駒井鉄工(大阪市)
コミヤマ工業(甲府市)
酒井鉄工所(大阪府堺市)
桜井鉄工(札幌市)
佐世保重工業(千代田区)
佐藤鉄工(富山県立山町)
古河機械金属(千代田区)
アルス製作所(徳島市)
大島造船所(長崎県西浦市)
釧路製作所(札幌市)
豊平製鋼(同)

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