2005年5月17日(火)「しんぶん赤旗」

違法「人貸し」を断罪

「偽装請負」過労自殺訴訟が伝えるもの

受け入れ企業の責任問う


 全国の都道府県にある労働局はいま、適正な業務請負への改善に乗り出しています。製造現場で業務請負に名を借りた違法な労働者派遣、いわゆる「偽装請負」が大きく広がっているからです。

 東京労働局が昨年末に発表した調査結果によると、「偽装請負」の疑いのある七十一事業所のうち、実に五十七事業所で違反が発覚し、違反率は八割を超えました。

 こうした「偽装請負」の実態にメスが入る判決が三月末、東京地裁であり、注目を集めました。

 上段勇士(うえんだん・ゆうじ)さん=当時(23)=の過労自殺裁判です。上段さんは、業務請負会社ネクスターの社員でした。光学機器大手ニコンの熊谷工場(埼玉県)に送り込まれ、十五日連続の昼夜二交代勤務や度重なる休日出勤をしていました。疲労困ぱいしたあげく、自宅アパートで自殺しました。

 この裁判は、業務請負が急増しているなか、その行方が注目されました。過労自殺の認否にとどまらず、「偽装請負」の有無が問われた裁判でもあったからです。

損害賠償命じる

 判決は、上段さんが派遣先企業のニコン社員の指揮命令下で働いていたとし、実質的に違法な労働者派遣を行っていたことを事実上認めました。

 芝田俊文裁判長はこう断じました。

 「業務上の指示をニコン社員より直接受けていた。被告ニコンは心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負担していたといえる」

 そして、ネクスターとニコンの両社に二千四百八十八万円の損害賠償の支払いを命じました。

 ネクスターにとどまらず、現在、業務請負会社のほとんどが形式的には業務請負の体裁をとっていますが、実態は労働者派遣という「偽装請負」を行っています。

 本来、業務請負は、業務請負会社が独立性をもって業務を遂行し、労働者に指揮命令し、全面的に使用者責任を負わなければなりません。ところが、実際には派遣先企業の社員が労働者に仕事を教えたり、指揮命令をして業務にあたらせるという「偽装請負」が公然と行われています。

 労働者を送り込むだけの「人貸し請負」は、労働者供給事業にあたるとして職業安定法四四条で禁止されていますが、これに抵触する業務請負会社が後を絶ちません。

 「偽装請負」が急速に拡大したのは一九九〇年代後半です。昨年三月までは製造業務への派遣は禁止されていました。

 しかし、業務請負であれば国の許可がなくても自由に製造業務へ参入できたため、これを悪用する業務請負会社が続々誕生し、受け入れ側の派遣先企業も広がりました。違法状態を解消するために、製造業務への派遣解禁が施行されたものの、依然として野放し状態が続いています。

 これには、電機や自動車など主だった派遣先企業の思惑があります。

 「人件費削減」と「生産変動への対応」という理由のほかに、請負であれば派遣法の規制にともなう使用者責任が問われないですむからです。上段さんの過労自殺裁判でニコン側が「業務請負なので自社に責任はない」と責任逃れをしようとしたのはその典型例です。

安全配慮の義務

 業務請負の場合、労災事故が起きても派遣先企業の管理責任を問うのは困難でした。しかし、この裁判で上段さん側は「ネクスターは業務請負の実態がない。ニコン社員の指示のもとで働いており、実質的に派遣社員だった」と主張し、派遣先企業のニコン側にも安全配慮義務責任があったとして、損害賠償を求めて争ってきました。

 現在、業務請負業は「一万社、百万人」といわれるほど巨大化しています。電機や自動車メーカーをはじめとする生産ラインの組み立て、検査などを担う業界として急成長しています。

 しかし、あいまいな雇用関係から、労働者に対する安全配慮義務の企業責任がうやむやにされたままです。

 判決は、「偽装請負」だったかどうかの直接的な判断は避けたものの、実質的に違法な派遣を行っていたことを事実上認め、両社の責任を断罪しました。「偽装請負」の実態を是正するうえでも、また不安定な権利関係に置かれている業務請負労働者の労働条件の改善を迫るうえでも画期的な意義をもっています。

 被告のネクスター、ニコン側はともに控訴し、原告の上段さん側も控訴しました。審理は東京高裁に移ります。


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